あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 74

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目の前の男は私服に着替えていて、一度家に帰ったのだと知れる。
厚地の黒いパーカーにGパンという出で立ちは、いつもの私服よりも若く見えた。
明紫亜は、鳴き真似を見られた気恥ずかしさに両手で顔を覆う。

「ちが、違いますからね! 今のはたまたま、ちょっと、出来心で言ってみただけで! いつもニャアニャア言ってる訳では、ないです」

立ち上がり司破に背を向け言い放ち、ケーキの入った箱を掴むと扉に歩み寄って手を掛ける。

「そう。猫、好きなのか?」

特に気にしていないと解る抑揚のない語調で尋ねられ、店内に入りながら考え込んだ。


 動物全般、好きと言えば好きだし、苦手と言えば苦手だった。
可愛らしいと思う反面、命に触れるのが恐ろしいのだ。
明紫亜は困ってしまい、ぬううう、と奇声を発する。
後ろからついてくる司破は明紫亜をジッと眺めていた。

「えっと、ですね。実物よりも二次元の画像とかイラストとか、そういうのが好きです。生き物に触れるのはどうも苦手で」

くるり、と反転させ司破と向き合えば上目で相手を窺う。
何とか自分の気持ちを言葉にして司破の後ろにそそくさと移動した。
フロントの受付に制服姿で近付く勇気は流石になく、司破が受付を済ませるのを大人しく待つ。

「へえ。母親が趣味で絵本作家をやっているから、何か描いて貰うと良い。家事全般苦手なのに絵だけは上手いんだ」

受付を終えて隣に並んだ司破が渋い顔で告げるのを聞き、明紫亜は驚愕に目を見開いてしまう。

「お母様、働いているんですか? 僕てっきりセレブなママで専業ママなのかと思ってました。天然で実業家の娘さんで何にも出来ない人の勝手なイメージですけど」

エレベーター前で一旦止まり行先階のボタンを押した。
明紫亜が顎先を指でなぞり唇を尖らせている。
自分のイメージと絵本作家のイメージを頭の中で融合させようとして難しい表情になってしまう。

「専業ママって何だよ? 変な言葉を作るな。まあ、あながち間違ってはいないけどな。言っただろ、趣味だって。働いている内に入らねぇよ。好きなもん好きなように描いて祖父の知り合いを通じて出版してる。コネで遊んでいるようなもんだろ。その割に売れたりしているからあの人は良く解らない。深く考えても其処に答えはないぞ」

司破の手が明紫亜の髪を撫でてすぐに離れていく。
慣れた触れ合いの筈なのに、明紫亜はドギマギしてしまい何度も瞬いた。
心臓が、とくんとくん、と煩く鳴り響いている。
手に持つ箱の取手を、ぎゅう、と握り込んだ。


 今日に限って司破を強く意識してしまう。
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