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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 72
しおりを挟む明紫亜自身が愛されることを自身に許さない限り、本当の意味で明紫亜を愛することは出来ないのだと司破は察した。
そして彼にとっては、その行為が死にたくなる程の恐怖と苦痛だと言うことも想像出来た。
「ただ待つだけでは駄目だと言うことか」
ぼそり、と溢れ落ちた呟きを噛み締めて司破は嘲笑(わら)った。
自分の抱く衝動が『愛』だと言うのなら、異常そのものである。
世間一般の『愛』とは異なる想いを抱えている。
けれどもそれは、お互い様なのだろう。
明紫亜とて、彼が司破に向ける恋情や愛情と一括りに表現される感情の中に、異常さを抱えている。
司破ならば殺してくれる。
司破が殺してくれるならば、それは快感に違いない。
司破ならば……。
殺されることを前提にした明紫亜の『愛』は、確かに異常だ。
だが、司破と明紫亜の間に横たわる異常さが二人を惹き合わせたのも事実である。
異常ならば異常でいい、と司破は思う。
正常と異常の線引きなどに興味はないのだ。
そもそも司破は生まれた時から世間一般の家庭とは異なる環境にいた。
それこそ今更でしかない。
人を殺めることに快楽を求める異常さを愛したのは明紫亜なのだ。
感情を抱くことのなかった人殺しに愛しさを教えたのも明紫亜だ。
それならば、今度は司破の『愛』を彼に教え込むべきではないか。
そう考えて司破は無意識に口角を引き上げていた。
きっとあのキノコは嫌がるのだろう。
怖い、そう言ってアブノーマルを求める。
普通に愛を享受することから逃げるのだ。
甘え方が解らない、そう言っては強がってみせる。
その癖、甘えたくて仕方が無いのだろう。
手を差し伸べれば擦り寄って来る。
その行為を『駄目』だと禁じながらも、司破の温もりを心地良いと全身で表現してみせる。
明紫亜が前に進む為に、少々手荒な真似も必要なのかもしれないと考えつつ、司破は荷物を手に立ち上がった。
* * * * * *
明紫亜は掌に収めたスマホと睨めっこをしていた。
LINEの画面は、明紫亜のお気に入りのぽっちゃり系にゃんこの待受になっている。
司破とのトーク画面を開いたまま、明紫亜はボロいラブホテルの入口で座っていた。
司破からのLINEが届いたのは、HRが終わり杉木が教室を出て行く少し前のことだった。
杉木にくっついて理科準備室まで押し掛けようと画策していた明紫亜は、彼からのメッセージに大人しく杉木を見送ることにしたのだ。
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なんてことはない、アッサリとした内容だ。
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