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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 60
しおりを挟む「ルイ、カ。ぼ、く。独り、じゃ、ないの? ルイカは、僕の、なに? どうして……」
何もかもが許されたような気持ちに陥った。
ぽろり、と溢れ落ちた涙は、杉木の指に拭われていく。
優しい眼差しで見詰められ、明紫亜の頭はパンクしそうになっていた。
無意識に瞳を不安で揺らす。
言い掛けた言葉を必死で呑み込んだ。
どうして僕を独りにしていたの、と詰りたい気持ちが明紫亜の胸を苛む。
家族でも何でもない人間に抱く感情でも言葉でもない。
この男は、果たして他人なのだろうかと疑問が湧いた。
おかしい筈なのだ。
おかしいことは解っている。
彼は明紫亜の事情を知っていると言った。
何故、知り得ているのか。
いつも見守っていたと言うことは、気付かない内に何年もの間、明紫亜は見張られていたのだろう。
それを恐ろしいと思う気持ちが正常だと解っているからこそ、明紫亜は自分がおかしいと感じるのだ。
明紫亜を気に掛けてくれていたことを心から嬉しいと喜ぶ自分がいた。
それは明紫亜自身で制御出来ない程の強い感情だ。
杉木が明紫亜を見守っていた理由は何だ。
彼が明紫亜の事情を知り得ているのは何故だ。
どうして他人なのにこうも一体感を感じてしまうのだろうか。
杉木の一挙一動が明紫亜に喜怒哀楽を齎す。
まるで自分の一部のように杉木は存在していた。
解らないことが多過ぎた。
だからと言って、問うたところで杉木は何も教えてはくれないだろうと明紫亜は思う。
唇を噛み締め拳を握る明紫亜に、杉木が「ねえ、メシア」と優し気な声色で名前を呼んだ。
「メシアが俺のものだってちゃんと自覚して、笹垣のことを忘れるなら、何でも教えてあげる。メシアが抱いている疑問に全ての解答を与えるよ。……俺に、キスして?」
先程の問い掛けの返答かのように告げる杉木は微笑んでいる。
唇がくっついてしまいそうな距離まで彼の顔が寄せられ、「ほら」と促すように両方の手首を掴まれた。
心臓が止まるかと思う程に胸がズクンと痛む。
ぎゅう、と目蓋を閉ざし首を横に振りたくった。
司破を忘れる、と思っただけで全身を引き裂かれるような苦痛を心臓に感じている。
それなのに、杉木を拒まなければならない現実に絶望すら抱くのだ。
「む、り。でき、な、いよ。ごめ、ごめん、ごめんなさい。司破さんを、好きに、なって、ごめ、ん、ね。でも僕、司破さんしか、愛せ、ないよ」
杉木を拒絶する言葉を吐く度に、鈍器で殴られるような痛みを胸に感じる。
自覚もなく溢れ出した涙が頬を伝った。
杉木の舌が水滴を辿っていく。
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