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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 58
しおりを挟む慌てて離れようとする明紫亜の耳元に杉木の抑揚の感じられない声が吹き込まれた。
「メシアは、笹垣のこと愛してるんだ?」
いきなりの発言に言葉が凍り付いてしまう。
否定しなければ、と頭は思考するのに、明紫亜は瞬きを繰り返すことしか出来なかった。
「メシア、俺の目を見て、本当のことを言うんだよ? 嘘は許さないからね?」
抱き締められていた体が離れ、肩を掴まれた。
杉木の目が真っ直ぐに明紫亜を見ている。
否定しなければと思えば思う程に、この人には逆らえないと何処かで思う。
震える唇が勝手に動くのを明紫亜は止められなかった。
「す、き。愛して、る。ごめ、なさい。ダメ、なのに。好きなの。どうにもなんないぐらい愛してるの。も、苦しくて、どうにかなっちゃいそう」
抑え切れずに大粒の涙が溢れ落ちていく。
俯いてしまいたい衝動を何とか堪える。
杉木から目を反らせない。
反らしたら駄目だと本能が告げているのだ。
震えの止まらない体がまた杉木の腕にと抱かれていく。
「一人で抱えて辛かったね、メシア。ちゃんと言えて偉かったよ。でも、駄目だろ? 俺以外の人間に心を奪われるなんて」
優しく頭を撫でられ、優しい声色で慰められ褒められて、心がうっとりとした。
ポッカリと心に空いていた穴に、求めていた『何か』が注ぎ込まれていく充足感に満たされていく。
けれども、最後低くなった声と共に首筋を噛まれ「ひっ」と喉が鳴った。
「やっとメシアに触れるようになったのに、酷いなあ。どんなにメシアが笹垣を愛していても、それは許せないよ。だって、メシアは俺のなんだから」
痛いぐらいに力を込めて、ぎゅうぎゅう、と抱き締められ、理解の追い付かない台詞を投げ掛けられ、明紫亜は愕然と目を見開く。
「杉……る、ん? なに、言って、るの?」
震える声で何かの聞き間違いかと聞き返す明紫亜を解放し、杉木は口端を持ち上げる。
「ルイカって、呼んでよ」
明紫亜の問いに答えることなく、有無を言わせない響きで言い放つ杉木に戸惑う明紫亜は「だって」と呟いた。
「名前で呼ばれるの好きじゃないって……」
「好きじゃないよ、こんな名前。でもメシアは特別。笹垣のこと名前で呼べて、俺のこと呼べないとか言わないよな? ほら、呼んで?」
おかしい、と頭では解っている。
こんな風に明紫亜の所有権を主張する杉木はおかしいと解っていて、それでも明紫亜は逆らえないのだ。
「ルイ、カ」
俯いて拳を握る。
駄目だと思うのに唇は動いていく。
明紫亜が名を呼んだ瞬間、杉木が熱い息を吐き出したのが解った。
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