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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 28
しおりを挟む彼だけが他とは違う。
確かに、涼子も明紫亜を救ってくれたし、一番明紫亜の気持ちを理解してくれる人間だ。
それでも彼女は他人ではない。
血の繋がった家族なのだ。
明紫亜と涼子の考えは、案外かけ離れた場所にあるが、家族と言うだけでその距離は補える。
その点、司破は他人でありながら明紫亜の中に入り込んできた。
滅多なことで他人など心の中に入れたりはしないのに、一目見た瞬間から明紫亜の頭は司破で一杯だ。
あんな奇異な状況での出逢いであり、己の性癖を自覚したキッカケである。
特別と言うのならそうなのだろう。
だが、特別などという陳腐な言葉で済ませられる感情でもなかった。
涼子への依存とも違う、甘くて切ない気持ちは、恋と呼ぶには余りにも痛々しい。
手放したら己の存在すら消えてしまうような、そんな焦燥感と不安があった。
それを執着や依存と呼べば片付く想いなのか、今の明紫亜にはまだ解らない。
ただ傍にいれたら幸せで満たされる。
互いを埋め合える存在なら、それだけで良かった。
明紫亜の眉が中央に寄り、今にも泣き出しそうな顔で胸元を掴んだ。
苦し気に息を吸い込む。
「でもきっと、それたけじゃあ駄目なんだ。駄目に、なっちゃう。強く、強く、なりたいよ。レイちゃん、強く見せかけるのも、疲れるね」
喘ぐように呼吸を繰り返し天井を仰ぐ。
顎が上向き、髪がぼふんと揺れる。
いつでも笑顔で周りに強いと思わせていた叔母は、入院してからは明紫亜にも弱さなど見せはしなかった。
それでも明紫亜には解ったのだ。
彼女の優しい強がりと最大級の我儘に気付いていた。
ある意味では、一番考え方が似ているのは、冷子だったのだ。
彼女はいつだって自分と闘っていた。
温子がいなくなったのは自分のせいではないかと悩んでいたのを知っている。
早くに両親を亡くし、中学生の涼子と小学生の冷子を養っていたのは温子だったと言う。
高校を中退し風俗嬢になったのも、二人を養い学校に通わせるためだったらしい。
まだ幼い自分は、温子の重荷でしかなかったと、そう冷子は自分自身を責めていた。
それは涼子でさえも知らないことだろう。
明紫亜と冷子だけの秘密だった。
ある日突然姿を消した温子は、重荷を抱えて生きていくのが苦痛だったのだろうと、冷子は幼い明紫亜に告げていた。
温子はとても優しい人なのだと誇らし気に語る冷子からは、本当に温子のことが好きなのだと伝わってきたのだ。
温子が明紫亜に酷いことをしたのも、自分が悪いのだと表情を歪ませる叔母に、明紫亜は何も言えなかったことを覚えている。
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