あべらちお

Neu(ノイ)

文字の大きさ
上 下
106 / 242
一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 11

しおりを挟む


死にたいと思う自分を殺し続けて生きている明紫亜とは、真逆ではある。
生きたいと願う自分を殺し続けただろう冷子に罪悪感は常に付き纏う。
希望と絶望は表裏一体だ。
絶望から逃れるには、希望を捨てるしかない。
諦めた先に安穏は訪れるのだ。
そう思うことですら、明紫亜の単なる憶測でしかないが、冷子を見ていて率直に感じたことである。


 むむむむう、と眉間に皺を寄せて弁当の包みを開く明紫亜に声が掛けられた。
その声は義一郎のもので、顔をそちらに向ければ彼が弁当箱を手に立っている。

「神沼、もし良かったら、一緒に食べない?」

不安そうに明紫亜を見詰める彼は、緊張からか、ゴクリと唾を飲み込んだ。
くふり、と独特な笑いを溢し首肯する。

「あ、杉るん! 机貸してくれるー?」

隣の席の杉木(スギキ)は、他の生徒のところでパンの袋を開けていた。
明紫亜は彼に向かい問い掛けると、おーけー、と返答と共に手を振られる。
ありがとう、と手を振り返し、自分の机を動かし向きを変えた。
それを目に義一郎も慌てたように杉木の机を動かし明紫亜と向き合う形で机をくっつける。

「委員長、声掛けてくれて、ありがとうな。嬉しかった!」

くたり、と笑い首を傾ける明紫亜に、義一郎の顔は仄かに赤く染まり、もごもごと彼の口が動いた。

「僕がその、一緒に、食べたかった、から。あの、神沼? 出来たら、義一郎って名前で、呼んで欲しい、な」

あはは、と椅子に腰掛けながら照れたように笑う義一郎を、ぱちくりと双眸を瞬かせて見遣る。

「じゃあ、ギーチって呼ぶね。僕のことも名前で良いよ? 友達、だもんな!」

顔を綻ばせる明紫亜は心底嬉しそうに、友達、と強調し、口元に手をあて、くふくふと声を漏らした。

「うん! メシアって、カッコイイ名前だなって思ってたんだ。英語だと救世主だから。僕の名前、古臭いだろ? ちょっと羨ましい」

目を細めて明紫亜を見詰める義一郎に胸が擽ったくなり、明紫亜は俯く。

「僕はギーチの名前、カッコイイと思うよ? 僕の名前は、なんか負けてる。救世主になんて、なれないもん。名前負け感ハンパないよなー」

とほほ、と口にしながら弁当箱の蓋を開けた。
弁当箱を机上に置き包みを開く義一郎は、フルフルと首を左右させる。

「そんなことないよ! すごく明るくていつでも笑顔だから、そんなメシアに僕は救われているよ? 他の奴だって、そう思ってると思う」

真剣な顔の義一郎を凝視して、明紫亜は口を半開きにしたままフリーズしている。
そして、困ったように微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...