あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

オリエンテーション 28

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「あの、だって、お試しって」

フカフカの布団に埋もれ、必死に体を起こそうとしている明紫亜の腰の上に跨り、肩を押して布団に押し付ける。
ぱちくりと瞬きを何度も繰り返し、戸惑いがちに言葉を絞り出す明紫亜の目尻に指を這わせた。

「涙、止まったな」
「司破さん。事情を、話してくれるつもりで、此処まで来たんですよね? ちゃんと、教えて下さい。僕、受け止める覚悟ぐらい、あります」

真面目な眼差しを向けてくる明紫亜から目を逸らす。
キノコの分際で、と悪態を吐きながらも、縋るように彼の首筋に顔を埋めた。
明紫亜の手が司破の頭を抱き込む。

「父親が極道の組長でな。俺は不倫で出来た外の子だから、極道なんてもんにはなる気もないし、求められてもいないんだが。本家の息子、まあ兄にあたる男な。奴だけは昔から組に入れと五月蝿く言ってくる。心を折ろうとしてか、俺のモノを壊すし奪うし、その為ならば手段も選ばない。そういう男に目を着けられているもんで、色々と気を付けてはいた。が、この間、弟、まあこいつも母親の違う異母兄弟なんだが。そいつにお前の存在を知られてな。メシアのことを狙ってくるだろうと思って、先手必勝、と言うよりも、兄から逃げるのに騙し討ちぐらいしか思い付かなかった。お前を巻き込むことはしたくなかったが、それよりも、メシアを壊される方が、……怖かった、んだよ。今までは、何を壊されても奪われても、平気だったし、どうでも良かったんだがな」

うん、うん、と相槌を打つ明紫亜の手が、司破のボサボサヘアーを撫でていく。
一通り説明が終わるまで黙っていた明紫亜が、司破さん、と呟いた。

「お試しで、と言うのは。逃げ道を作っておかないと怖いから、ですか?」
「まあ、そうだな。お互いの逃げ道だ。いつまでも騙しておけるものではないから、バレた時には危険が及ぶ可能性が高い。お試しにしておけば、まだ逃げられる道は残せるだろ」

司破の顔が上がり苦笑を溢す。
明紫亜は面白くないと頬に空気を溜めていた。

「お試しならお試しでも、別に良いですけど! 良いんですけどね! 司破さんの、ちゃんとした気持ち、聞いてない。僕は、何度も伝えているのに。ズルいです。腹括るって、言ったじゃん」

真っ直ぐに司破を見詰める瞳を見詰め返し、司破の眉尻が下がる。
額同士をくっつけて息の掛かる距離で、悪かったと囁いた。

「ちゃんと言わねぇと、駄目だよな。メシアのことが、愛しくて堪んねぇんだ。俺のものにしたくて、頭ん中がぐちゃぐちゃになる。……好き、なんだと、思う」
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