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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
凹凸の巡り合わせ 26
しおりを挟む「本当に、その通りですね。安心しました。明紫亜のこと、宜しく頼みますよ」
言われなくても、と心の中で答えて、キッチンに向かう彼の背中を眺めた。
目の前のテーブルに食事が並び終わった頃、階段を駆け下りてくる音がし、明紫亜が戻ってきた。
「おばちゃん! コレね、今日たくさん、僕のために、えっと、ご馳走作ってくれた、お礼、だよ! 貰って、くれ、る?」
キッチンで小畑におずおずとラッピングされた袋を差し出していた。
「マジか! ありがとな、明紫亜」
其れを受け取り、小畑の手が、明紫亜のマッシュルームを撫でる。
胸が、ずくりずくり、と痛んだ。
其れは俺のものだ、と黒いものが犇(ひし)めく。
その感情を、司破は知らない。
司破の心を侵食していく黒い感情は、消えていくことなく司破を蝕んでいく。
その髪も、その唇も、瞳も、手も足も、どこもかしこも、心でさえも、全て全て、奪い尽くして、己のものにしてしまいたい。
そのキノコは、自分だけのものなのだ。
黒いものが騒ぎ、司破はその感情を、無視するのだった。
* * * * * *
三人での食事を済ませ、明紫亜は司破を自室に招く。
何故だか、いつもと少し様子が違って見えた。
普段から無口で無表情な司破のことだ、何処が、とは明確には答えられないが、どうにも気になり、「部屋を見ていってよ」と無理にお願いしたのだ。
二階に上がり、左に進んだ奥にある扉を開けた。
どうぞ、と先に司破を通す。
明紫亜も中に入り扉を閉めた。
振り返ろうとして、腕を強く引かれて司破の腕の中へと倒れ込む。
「司破さん? あの、どう、し」
強い強い力で抱き込まれて、ぱちくりと目を瞬かせた。
戸惑いながら声を掛けるも、そのままの体勢でベッドに倒れ込んでしまう。
司破の手が、髪に差し込まれる。
マッシュルームは、撫でていく司破の手の動きに合わせて揺れた。
「あ、の、司破、さ」
体が少し離れ、司破の手は明紫亜を逃さぬように体の横に置かれた。
「特別扱い、嫌なんじゃねぇのか?」
静かに返ってきた返答に、嗚呼、と声が漏れた。
食事中、小畑からオリエンテーションの件を聞かれ、明紫亜は彼に甘えた。
行き帰りならば、理由をこじつけて送る、と言ってくれた小畑に、深く深く感謝して、抱き着いて、大好きだと伝えた。
それは、司破への想いとは全く次元の違うもので、それだからこそ、気にもしなかった。
――怒って、いるのか。
確かに、司破には特別扱いが嫌だから自分で頑張ると言ったのだ。
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