27 / 242
一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
凹凸の巡り合わせ 12
しおりを挟む明紫亜にとって、その言葉一つ言うのに、莫大な勇気と葛藤が必要なのだ。
それを言葉一つで言わせるこの男はとてもとても最大級に、狡い男である。
「あ? 何だよ、言い難そうにするから、すげえ高いフレンチとかイタリアンかと思ったわ。早く言えよな」
拍子抜けしたとばかりに、ははっ、と笑う司破は、明紫亜の心を掻き乱す。
ふおお、と奇声を発して、明紫亜は司破に背中を向けた。
「おトイレ、行って来ます。おパンツの中、綺麗にしてくるよー。もう先生、これから擬似プレイの時は脱がせて下さい。洗うの大変なんだからね! 玄関で待ち合わせで、ヨロですっ」
振り返って、べぇっ、と舌を出せば、ばたばた、と上履きを鳴らして立ち去って行く。
* * * * * *
明紫亜がいなくなると、大きな溜息を吐き出して司破は天井を見上げる。
普段、グイグイと押し入って来るキノコが、遠慮云々ではなく、何かを恐れているかのように動きを止める時がある。
言葉を呑み込み、何も言わなくなる。
それが、自分のせいなのか、他に原因があるのか、はっきりとはしない。
だが、今更あのキノコが司破を恐れると言うこともないだろう。
となれば、原因は明紫亜にあるのだ。
幼い頃から見ていたと言うセックスに、経験もない癖に情事に対しての手慣れたような振る舞い。
公共機関の乗り物に乗れない程に人に触られるのが嫌なのだろう。
”こんな僕” に作ってくれるご馳走とケーキが嬉しい、と言っていた。
手料理を食べたいと、それだけを言うのに一生分の勇気を使い果たしましたという顔をする。
彼は、愛を知らないのだろう。
恐らくは、手料理も作って貰えない環境にいた。
頭を撫でると思いっ切り嬉しそうで幸せだという表情を魅せるのは、優しく触れて貰うこともなかったのか。
推測は幾らでも立つ。
可哀想だと思うことはない。
そういう人間は、案外多いものだ。
暗い過去は、人の数だけあり、明紫亜もまた、そういった何かを抱えている、それだけの話に過ぎない。
彼の生い立ちなどは、どうでもいい。
明紫亜を構成する些細なものに過ぎない。
そんなものに司破は興味も抱かない。
そもそも、他人に興味を抱くことすらないのだ。
それでも、明紫亜が言葉を呑み込むと、胸の奥が激しく焼ける。
司破の顔色を窺う仕草にムカムカと腹が立つ。
司破以外の『何か』に縛られる明紫亜を見るのは面白くない。
キノコの癖に司破を掻き乱すのだ。
他人のことなどどうでもいい筈が、明紫亜が笑っていないと胸がざわつく。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる