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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
やじるし 02
しおりを挟む当然だが、そこまで人の気配を出してしまえば、どんな愚か者であれ、第三者の存在に気付くものである。
振り返った青年は、殺人現場を目撃したであろう人間を凝視していた。
落ち着き払った動作で、気を放った衝撃でへたり込む少年に近付いていく。
口元には微笑すら浮かべているようだ。
それはまるで、次の獲物を見付けた野生の肉食動物のようだった。
しゃがみ込んで、コンクリートの上に座り込む少年に顔を近付け、青年は首を傾けた。
「なあ」
静かに放たれた問い掛けに、少年の肩がビクリと跳ね上がる。
青年は無意識に舌で自身の唇を舐めていた。
くちゃり、と生々しい音が静寂の中に響く。
「今の、見てたよな?」
殺されるのだろうか、と思考して、背筋がゾクゾクと粟立った。
――嗚呼、それはとても、気持ちがイイのだろう。
少年の頭を過(よ)ぎるのは、青年に殺される己の姿だ。
人は死ぬ直前、恐怖や痛みを紛らわすために、大量の脳内麻薬を放つという。
死の直前に感じる快感とは、どういうものなのか、幼い頃からずっとずっと、知りたかったのだ。
期待で体が震える。
がたがたと揺れて言うことをきかない。
目の前の彼は、それを恐怖からと勘違いしたのか、口端を片側だけ器用に持ち上げて、少年の頬に手を伸ばす。
するり、と撫でられ、それだけでも熱い息が漏れる。
「安心しろよ、殺す気は」
「ねえ、お願いです。僕をメチャクチャに、殺して下さい」
彼の両手が両方の頬を包み、顔を上向かせられた。
青年が話しているのも構わずに、彼の服を掴んで引っ張る。
願望を口に乗せただけで、また体が熱くなった。
どうしようもなく、目の前の彼に、殺されたい。
「は?」
予想と反した反応だったのだろう、少年の頬から手を離すと、青年はまじまじと彼を見詰め、そして盛大な溜息を吐き出した。
ボサボサの黒髪を掻き上げている。
「人の話は、最後まで聞けよ。俺は殺す気ないの。口封じとか、依頼とか、そういった意味のある人殺しはしないって決めてるから。全然興奮しないし、其処に意味を持たせたら、……捕まるだろ?」
悪戯に、にんまりと笑みを象り、少年の手を離させようと掴む。
だが少年は、青年の服を離そうとはしなかった。
ぐい、と手にしている服を引き寄せ、体勢を崩す青年にと顔を近付ける。
吐息が掛かる距離で、彼の瞳を見詰めた。
「どうしたら、殺してくれますか?」
縋るような目が青年に向けられ、引く気のない少年の台詞に、青年はやれやれと肩を竦める。
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