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二章:大学生アリスと社会人兎の擦れ違い
アリスの学生ライフ 09*
しおりを挟む彼の痛みを共有することは出来なくて、その代わりのように苦痛しかない性交を受け入れる。
伸ばした腕で翔を抱き締めていた。
言葉が伝わらないのは仕方がない。
余裕がない時には誰のどんな言葉も届かないと知っている。
それだけ今の翔には余裕がないのだ。
「っ、カケル、カケル、っ、カケ、ル」
名前を呼びながら腰を打ち付けてくる翔の体が震え、ナカに埋まる性器が、びくんびくん、と脈打つのを体内で感じる。
達したのだと何処か遠くで思考し、ずるり、と抜けていく感覚に息を吐き出した。
「……っ、ぼ、く。ごめ、っ、ごめん、有住君」
暫く肩で息をしていた翔の瞳が漸く架を映し、目に入る惨状に青褪めていく。
全身を震わせ片手で口元を押さえる姿は小動物のようだった。
だらり、と垂れ下がる足を伝うのは無理に繋がったが故の出血だ。
何度も噛み締めた唇にも血が滲んでいる。
力無くタンクに身体を預ける架の顔に血の気はない。
自分の快楽だけを追い求めた結果なのだと我に返ったのか、俯きながらも捻り出された謝罪の言葉を耳に、心臓が停止するかと架は思った。
「ふざっ、けんな! 何が、有住君、だよ! 他人行儀な呼び方すんな! 俺が! お前を受け入れるって決めたんだ! 謝ってんじゃねぇぞ、バカが! ショウが俺のこと、好きなら何の問題もない。このぐらい平気だ。俺をみくびんな」
かっ、と一気に血が昇り動かない身体を無理に動かし上体を起こす。
翔の胸倉に腕を伸ばし何とか掴んで揺さぶる。
力は殆ど入らず悔しくて睨み付けた。
「……ありがとう。好きだよ。ごめんね、カケル」
可愛らしい顔が歪んでいくのが許せなくて、ぐい、と襟元を引き寄せ、近くなった唇を塞ぐ。
柔らかな下唇を吸い舌を伸ばすと、恐る恐る翔の舌が応えてきた。
慈しむように優しく舐(ねぶ)られ、熱い吐息を零す。
「今日は仕事、もう終わりか?」
力の入らない手を翔の下半身に伸ばし、彼の性器からコンドームを外した。
きゅ、と口を結び隅に置いてある汚物入れに捨てる。
昔は男子トイレの個室に汚物入れは見掛けなかったが、最近では見掛ける頻度も増えていた。
ケアパッドや水洗不可の物を捨てる為に設置されているのだろう。
うん、と頷く翔の鎖骨に額を押し当て、精一杯の甘えを口に乗せる。
「帰ったら。……ぎゅっ、て。したい」
そっ、と顔を引き剥がされ、額に口付けを受けた。
赤面しているのが恥ずかしくて仏頂面を向ければ、ふわり、と柔らかな笑みをくれる。
大好きな翔に戻っていることに架の胸は安堵で埋め尽くされた。
「綺麗にしようか」
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