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閑話:アリスと兎と卒業式
アリスと兎と卒業式 04
しおりを挟むだが、今までそれを伝えたことはなかった。
「お、オサダさんも、俺の家族だろ。血の繋がりとか、関係ねぇし。俺は、オサダさんに感謝してるよ。育ててくれてありがと。見捨てないでくれて、嬉しかった」
「当たり前のことです。私は、私にとっては、坊っちゃんは息子のように大切な存在ですから」
不覚にも涙が溢れた。
頬を伝う水滴は、長田の肩にポタポタと落ちていく。
背中に回された彼女の手にも力が籠められていた。
暫くお互いに泣いた。
そう長い時間ではないが、スッキリしたのだろう。
体を離して着替えを再開させる。
ネクタイを結んで貰い、紺のスーツを羽織った。
胸ポケットに花を着け、ズボンを履き替える。
「お御髪はそれで宜しいでしょうか? ワックスなどは」
「良いよ、このままで。変か?」
全て着替え終えて、長田の問い掛けに笑って答えるも、ふと心配になり尋ねた。
「いいえ、お似合いで御座います。参りましょうか」
長田は僅かな動きで否定の形に首を動かし、扉まで歩み寄る。
その手はドアノブを掴み、扉を押し開く。
「あ、やっと来た。お疲れ様です、長田さん」
扉の向こうには、架と同じスーツに身を纏った翔が立っていた。
長田は頭を下げて部屋から出て行く。
架も後に続いた。
「翔坊っちゃん、お御髪も素敵ですね」
「そう言って貰えると嬉しいです。普段、ワックスなんて使わないから、少し不安で」
そう言う翔の髪は、いつものふんわり感が無かった。
前髪をワックスで後ろに撫で付けているようで、可愛い雰囲気はそのままに、カッコ良さも含んでいる。
「カケルはそのままで行くんだね。似合ってるよ」
つい凝視してしまう架と翔の目線が重なった。
ふんわり、と微笑んで翔が言えば、架はふい、と目を逸らす。
「お前も、決まってるじゃん。カッコいいな」
あらぬ方を見て言いやる架は照れているようだった。
翔は笑いながら架に近付き、その腕を取る。
「ありがと。行こうか。下で父さんと母さんが待ってるよ」
軽く引っ張られて架も階段に足を向けた。
二人並んで階段を降りていく。
初めの内は、幸綯(ヨシナ)お父さん、愛架(アイカ)お母さんと呼んでいた翔も、最近は父さんと母さんと呼ぶようになった。
そんな些細なことが嬉しくて、架は知らず知らずの内に微笑んでいた。
一階のホールに出ると、スーツ姿の父と母が立っている。
矢張り、着慣れている分、様になっていた。
「やあ、二人とも、支度は出来たかい? 今日は素晴らしい日だね! 長田さん、車をお願いするよ」
「はい、畏まりました、ご主人様」
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