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一章:精神病×難病×家庭教師
友人は大切に 02
しおりを挟む俺のために、彼も頑張ってくれているのだと思うと、胸が熱くなった。
持つものは友人である。
「なに、もう、そんな感動するようなこと言ってくれちゃって! 成績上がれば、大学も楽勝か?」
「いや、俺。大学は行かねぇことにした。就職するわ」
七海の背中をばしばしと叩いた。
嬉しくもあり、少しだけ照れた。
俺なりの照れ隠しだ。
七海は上履きに突っ込んだ爪先を、とんとんと床に叩き付けている。
上履きを履き終わり、振り向いた七海は、真面目な顔で俺をじっと見てきた。
「え、大学行かねぇの? なん」
「うち、母子家庭なんだよ。言ってなかったけど。大学行く金なんかねぇよ。それに、お前働けるか解んねぇだろ? 何かあったら頼ってくれよな。貯めておくからさ」
俺の言葉を遮る七海は、真剣そのもので、正直戸惑う。
同じ場所にいると思っていた友人は、いつの間にか大人になっていた。
俺なんかよりも俺のことを考えてくれている。
感動と焦燥とが混ざって、訳の解らない感情が渦巻いた。
「七海、お前。何で其処までしてくれんの?」
「好きだから、だろ? 俺は母子家庭で苦労してきたから、友人が困ってるなら助けてやりたい訳だ。普通だろ」
背中を叩いていた手で彼の服を掴んだ。
七海は自身の髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜてはにかんでいる。
「サンキュ、な。俺も好きだぞ」
「おう、相思相愛だな」
けらけら笑いふざけるように言うと、七海は歩き始めた。
俺も後に続く。
下駄箱を抜けて真っ正面にある階段を昇っていく。
俺は手摺に掴まり、一段一段ゆっくりと上がる。
一気に上がることも出来るには出来るが、途中で疲れてしまうため、階段はゆっくり上がるようにしている。
七海も俺のペースに合わせてくれている。
本当に優しい奴だ。
二階まで上がり切り、ほっと息を吐いた。
階段は終わりだ。
廊下を歩いて教室に向かう。
「ところで、家庭教師、雇ったって言ってたよな。上手くやってんの?」
不意に七海が尋ねてきた。
椎名さんのことだ。
自然と表情がゆるむ。
「ああ、ばっちり。すげぇ良い人だよ。優しくて教え方もめちゃ上手いし」
「へえ、そら妬ける妬ける。お前は、大学どうすんの? 進路そろそろだろ」
教室の前まで辿り着き、スライド式の扉に手を掛ける七海。
俺は目を伏せた。
「行きたい、気持ちはある。けど、不安のが大きくて、な。悩んでるとこ」
がらがら、と扉が開く。
朝早いこともあり、誰もいないようだ。
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