上 下
9 / 33
一章:精神病×難病×家庭教師

友人は大切に 02

しおりを挟む


俺のために、彼も頑張ってくれているのだと思うと、胸が熱くなった。
持つものは友人である。

「なに、もう、そんな感動するようなこと言ってくれちゃって! 成績上がれば、大学も楽勝か?」
「いや、俺。大学は行かねぇことにした。就職するわ」

七海の背中をばしばしと叩いた。
嬉しくもあり、少しだけ照れた。
俺なりの照れ隠しだ。
七海は上履きに突っ込んだ爪先を、とんとんと床に叩き付けている。
上履きを履き終わり、振り向いた七海は、真面目な顔で俺をじっと見てきた。

「え、大学行かねぇの? なん」
「うち、母子家庭なんだよ。言ってなかったけど。大学行く金なんかねぇよ。それに、お前働けるか解んねぇだろ? 何かあったら頼ってくれよな。貯めておくからさ」

俺の言葉を遮る七海は、真剣そのもので、正直戸惑う。
同じ場所にいると思っていた友人は、いつの間にか大人になっていた。
俺なんかよりも俺のことを考えてくれている。
感動と焦燥とが混ざって、訳の解らない感情が渦巻いた。

「七海、お前。何で其処までしてくれんの?」
「好きだから、だろ? 俺は母子家庭で苦労してきたから、友人が困ってるなら助けてやりたい訳だ。普通だろ」

背中を叩いていた手で彼の服を掴んだ。
七海は自身の髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜてはにかんでいる。

「サンキュ、な。俺も好きだぞ」
「おう、相思相愛だな」

けらけら笑いふざけるように言うと、七海は歩き始めた。
俺も後に続く。
下駄箱を抜けて真っ正面にある階段を昇っていく。
俺は手摺に掴まり、一段一段ゆっくりと上がる。
一気に上がることも出来るには出来るが、途中で疲れてしまうため、階段はゆっくり上がるようにしている。
七海も俺のペースに合わせてくれている。
本当に優しい奴だ。


 二階まで上がり切り、ほっと息を吐いた。
階段は終わりだ。
廊下を歩いて教室に向かう。

「ところで、家庭教師、雇ったって言ってたよな。上手くやってんの?」

不意に七海が尋ねてきた。
椎名さんのことだ。
自然と表情がゆるむ。

「ああ、ばっちり。すげぇ良い人だよ。優しくて教え方もめちゃ上手いし」
「へえ、そら妬ける妬ける。お前は、大学どうすんの? 進路そろそろだろ」

教室の前まで辿り着き、スライド式の扉に手を掛ける七海。
俺は目を伏せた。

「行きたい、気持ちはある。けど、不安のが大きくて、な。悩んでるとこ」

がらがら、と扉が開く。
朝早いこともあり、誰もいないようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

苦い記憶とあたたかさ

志月さら
BL
男の子がおもらしする小説です。一応BL。

処理中です...