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番外編 BLゲームの主人公事情(9)
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「おはよう! アンティ! いよいよだね!!」
部屋の窓を開け放ち、陽を浴びてキラキラと輝くアマナ。
昨日のことを引きずっていたら…と心配だったけど、アマナは朝から元気だった。
「はぁ…これからドキドキの展開。王道のフィナーレと言うべきフィナーレイベントが起きると思うと、楽しみ過ぎる」
そして相変わらず意味不明なことを口走っている。
でも・・・安心してしまったのはヒミツだ。
「アマナ。頭ん中、出てるぞ」
「はっ!」
「表彰式では気をつけてくれよ」
もともと考えてはいたけど、昨日のことで決めたことがあった。
それにはアマナが空想に浸っていては困るので、それとなく注意する。
「も、もちろん! アンティのスチルん、げへごほ、んんっ、雄姿をしっかり網膜に焼きつけることに集中するからね!」
オレの言葉にあからさまに慌てるアマナ。
それにしても網膜に焼きつけるって、なにそれ。
「お、おう…?」
ぐっと両手でこぶしをつくっているアマナ。うん、気合が入っていることだけはわかる。
たぶん、そのままの意味じゃないんだろうけど。なにがどうなって、そんな表現になるのか。やっぱり貴族の考えることってわからない。ただーーー
「あ、信じてないでしょ? 僕の目をちゃんと見て! ほら! この本気の瞳を!!」
自分の大きな瞳を指差して、見てみてと近付いてくるアマナは、視覚的にどんな攻撃もよりも最強で、ぐらっと心を揺さぶられてしまう。
「ねっ?」
「わーかったよ」
ぐしゃぐしゃとアマナの頭をかき乱してやる。
決めたことを変えたくなってしまった自分を誤魔化すように。
「うえぇ!?」
「ほら、行くぞ」
「もぉー! フリーダムなんだから!」
オレは対等に、正々堂々、向かい合いたい。
『---本年の鬼ごっこ大会の表彰式を行います』
表彰式がはじまり、下位から上位へと発表されていく。
アマナは宣言通り言葉は発していなかった。それでも、いつも以上に楽しく嬉しいのだということは伝わってきた。
『それでは、アンティ・ガーデン。壇上へ』
名前が呼ばれた。
「アンティ! いってらっしゃい!」
「おぅ。いってくる」
壇上に上がると、いろんな顔がよく見えた。
でも、この場所でオレが一番見たい顔はアマナだけ。
「ーーこうして、転校生であるオレがこの上位。ご褒美権のある順位に入れたのは、アマナ………オーアマナ・ウンベラのおかけです」
そう、オレがスピーチするとアマナがぽかんと口を開けているのが見えた。
「もちろん不正なんてありません。転校生で何も分からないオレに学園について…ルールとか、丁寧に説明してくれたんです。アマナ、ここにきて、伝えたいことがあるんだ」
「えぇ!?」
さっきは会場のざわつきでアマナの声は聞こえなかったけど、今回の声はちゃんと聞こえた。
アマナはキョロキョロと周りを見て、壇上に上がるしかないとわかると、戸惑いながらもこっちに向かって歩き出した。
「この場は、ご褒美権である。と、同時に、告白タイムでもあり、ライバルへの牽制にも使われると聞きました」
オレの隣に立ったアマナは「なんで僕を呼んだの?」と視線で訴えてきているけど、気づかないフリをして続ける。
たとえ、本人たちの自覚がなくても、横から掻っ攫うなんて、対等じゃない。
それに、オレは負けるつもりなんてない。
「クンシラ風紀委員長。あなたに、伝えたいことがあります」
オレがそう口にした瞬間、会場のざわつきが一気にうるさく大きくなった。
だれも予想していなかったに違いない。アマナを呼び、そして、あの風紀委員長を呼び出す。
「……クンシラ」
ゆっくりと壇上に上がってくるクンシラを見て、ほっとした表情を浮かべたアマナ。
ほかの生徒は気づかない、わずかにゆるくなった表情の変化。
危なっかしくて目が離せない、美しくて可愛いくて、愛くるしい人。
オレはわかってしまう。気付いてしまう。
あぁ、やっぱりと苦い笑いがふっと無意識に口からこぼれていた。
だからこそ、ちゃんと勝負したいんだ。
重ねた月日は重要で強い繋がりかもしれないけれど、この想いだって負けてはいない。
「アマナ。オレは、オーアマナ・ウンベラのことが好きです」
そのためにも、これぐらいしないとアマナも、お前も気づかないだろう?
「だから、これは宣戦布告ですーーーークンシラ風紀委員長」
隣に立っていたアマナと向き合い、手を伸ばして引き寄せて唇を重ねる。
はじめて間近に見る翡翠の瞳は驚きで大きく開いていた。
「っつ!」
クンシラの様子を見ようとした瞬間。
殴られた。
遠慮という言葉のカケラさえ見つけられないぐらい、ドゴリと体に衝撃が走った。
ただ、昨日とほんのすこし違う点があるとすれば、わずかばかりの理性が残っていると言うことぐらいだろう。
クンシラの腕の中には目をぐるぐるとさせて泳いでいるアマナをおさめているのだから、そうに違いない。
「いてて…。ねぇ、アマナ。すぐに返事は無理だと思うから、とにかく、オレのこと知ってね?」
ドッと会場が沸いて、「カッコいい!」とか「男前!」とか、ここぞとばかりに生徒が口々にしている。
これで、オレもだけどアマナも逃げられないだろう。
オレたちの物語ははじまったばかりだ。
「誰が、離してやるものか…」
そして、クンシラも。
さぁ、正々堂々勝負をしよう。
オレだって譲るつもりも、負けるつもりだってない。
「・・・もしかして、僕。空回りしている?」
ーーー 番外編 BLゲームの主人公事情(完)ーーー
(おまけ、な書き手のこぼれ話)
主人公事情という本編の裏側的番外編でした!
キャラ事情的に、ほんのすこし真面目?な感じが多くなったので、本編ぐらいテンション高め系の番外編をちょっと書きたくなっております。
ので、引き続きのんびり更新となりますが、また足を運んでいただけたら幸いです。
部屋の窓を開け放ち、陽を浴びてキラキラと輝くアマナ。
昨日のことを引きずっていたら…と心配だったけど、アマナは朝から元気だった。
「はぁ…これからドキドキの展開。王道のフィナーレと言うべきフィナーレイベントが起きると思うと、楽しみ過ぎる」
そして相変わらず意味不明なことを口走っている。
でも・・・安心してしまったのはヒミツだ。
「アマナ。頭ん中、出てるぞ」
「はっ!」
「表彰式では気をつけてくれよ」
もともと考えてはいたけど、昨日のことで決めたことがあった。
それにはアマナが空想に浸っていては困るので、それとなく注意する。
「も、もちろん! アンティのスチルん、げへごほ、んんっ、雄姿をしっかり網膜に焼きつけることに集中するからね!」
オレの言葉にあからさまに慌てるアマナ。
それにしても網膜に焼きつけるって、なにそれ。
「お、おう…?」
ぐっと両手でこぶしをつくっているアマナ。うん、気合が入っていることだけはわかる。
たぶん、そのままの意味じゃないんだろうけど。なにがどうなって、そんな表現になるのか。やっぱり貴族の考えることってわからない。ただーーー
「あ、信じてないでしょ? 僕の目をちゃんと見て! ほら! この本気の瞳を!!」
自分の大きな瞳を指差して、見てみてと近付いてくるアマナは、視覚的にどんな攻撃もよりも最強で、ぐらっと心を揺さぶられてしまう。
「ねっ?」
「わーかったよ」
ぐしゃぐしゃとアマナの頭をかき乱してやる。
決めたことを変えたくなってしまった自分を誤魔化すように。
「うえぇ!?」
「ほら、行くぞ」
「もぉー! フリーダムなんだから!」
オレは対等に、正々堂々、向かい合いたい。
『---本年の鬼ごっこ大会の表彰式を行います』
表彰式がはじまり、下位から上位へと発表されていく。
アマナは宣言通り言葉は発していなかった。それでも、いつも以上に楽しく嬉しいのだということは伝わってきた。
『それでは、アンティ・ガーデン。壇上へ』
名前が呼ばれた。
「アンティ! いってらっしゃい!」
「おぅ。いってくる」
壇上に上がると、いろんな顔がよく見えた。
でも、この場所でオレが一番見たい顔はアマナだけ。
「ーーこうして、転校生であるオレがこの上位。ご褒美権のある順位に入れたのは、アマナ………オーアマナ・ウンベラのおかけです」
そう、オレがスピーチするとアマナがぽかんと口を開けているのが見えた。
「もちろん不正なんてありません。転校生で何も分からないオレに学園について…ルールとか、丁寧に説明してくれたんです。アマナ、ここにきて、伝えたいことがあるんだ」
「えぇ!?」
さっきは会場のざわつきでアマナの声は聞こえなかったけど、今回の声はちゃんと聞こえた。
アマナはキョロキョロと周りを見て、壇上に上がるしかないとわかると、戸惑いながらもこっちに向かって歩き出した。
「この場は、ご褒美権である。と、同時に、告白タイムでもあり、ライバルへの牽制にも使われると聞きました」
オレの隣に立ったアマナは「なんで僕を呼んだの?」と視線で訴えてきているけど、気づかないフリをして続ける。
たとえ、本人たちの自覚がなくても、横から掻っ攫うなんて、対等じゃない。
それに、オレは負けるつもりなんてない。
「クンシラ風紀委員長。あなたに、伝えたいことがあります」
オレがそう口にした瞬間、会場のざわつきが一気にうるさく大きくなった。
だれも予想していなかったに違いない。アマナを呼び、そして、あの風紀委員長を呼び出す。
「……クンシラ」
ゆっくりと壇上に上がってくるクンシラを見て、ほっとした表情を浮かべたアマナ。
ほかの生徒は気づかない、わずかにゆるくなった表情の変化。
危なっかしくて目が離せない、美しくて可愛いくて、愛くるしい人。
オレはわかってしまう。気付いてしまう。
あぁ、やっぱりと苦い笑いがふっと無意識に口からこぼれていた。
だからこそ、ちゃんと勝負したいんだ。
重ねた月日は重要で強い繋がりかもしれないけれど、この想いだって負けてはいない。
「アマナ。オレは、オーアマナ・ウンベラのことが好きです」
そのためにも、これぐらいしないとアマナも、お前も気づかないだろう?
「だから、これは宣戦布告ですーーーークンシラ風紀委員長」
隣に立っていたアマナと向き合い、手を伸ばして引き寄せて唇を重ねる。
はじめて間近に見る翡翠の瞳は驚きで大きく開いていた。
「っつ!」
クンシラの様子を見ようとした瞬間。
殴られた。
遠慮という言葉のカケラさえ見つけられないぐらい、ドゴリと体に衝撃が走った。
ただ、昨日とほんのすこし違う点があるとすれば、わずかばかりの理性が残っていると言うことぐらいだろう。
クンシラの腕の中には目をぐるぐるとさせて泳いでいるアマナをおさめているのだから、そうに違いない。
「いてて…。ねぇ、アマナ。すぐに返事は無理だと思うから、とにかく、オレのこと知ってね?」
ドッと会場が沸いて、「カッコいい!」とか「男前!」とか、ここぞとばかりに生徒が口々にしている。
これで、オレもだけどアマナも逃げられないだろう。
オレたちの物語ははじまったばかりだ。
「誰が、離してやるものか…」
そして、クンシラも。
さぁ、正々堂々勝負をしよう。
オレだって譲るつもりも、負けるつもりだってない。
「・・・もしかして、僕。空回りしている?」
ーーー 番外編 BLゲームの主人公事情(完)ーーー
(おまけ、な書き手のこぼれ話)
主人公事情という本編の裏側的番外編でした!
キャラ事情的に、ほんのすこし真面目?な感じが多くなったので、本編ぐらいテンション高め系の番外編をちょっと書きたくなっております。
ので、引き続きのんびり更新となりますが、また足を運んでいただけたら幸いです。
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