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「そうか」

 思った以上に、クンシラの反応はそっけなかった。
 あれ? なんか、思ってた反応と違うぞ? あれれ??

「ーーーそれで、ご褒美の話をしたら、アンティ、やる気出してさ。最初は食堂のフリーパスなんて言うから、僕の食事が嫌なのか!? なんて、言ってやったら、慌ててさ…」
「僕の食事?」

 クンシラが仕事をする近くで、反応が薄くても、めげずにとにかくアンティが頑張っている話を続けた。
 するとクンシラは、意外な言葉ワードに反応した。
 周囲からも、なんか視線を感じる。
 そんな変わった話をしていたつもりはないけれど。委員長の恋路が気になるとか? まさかね。
 こんなプライベートとも言える話をしているが、今、僕は風紀室にいる。
 僕とクンシラが幼馴染なのは周知の事実。
 さすがに、以前のようにふざけすぎるとポイと追い出されることもあるけれど、風紀室でクンシラとおしゃべりすることは許されてると思っている。

「あ、うん。僕がほぼ毎日、作ってるから」

 周りの視線が気になるが、せっかく反応を示してくれたので、残らず拾う。

「あの時だけじゃなかったのか…」
「あの時?って、3人でゴハン食べた時のこと?」

 あれ? 僕が料理できるの知らなかったけ?
 我が家は放任主義というか、両親共々、国中を飛び回ることが多く、家でお世話をしてくれたのはお手伝いさんのコリウスさんだった。その関係で、前世を思い出したこともあり料理が趣味っぽいところがあるんだけど。考えてみれば、クンシラに披露したことはないかもしれない。
 そのあたりで「見た目に反して、庶民っぽいんだな」とアンティが言っていたのか。いまさらながら、理解。
 たしかに西洋系ファンタジーで日本食を作っているのは違和感かもしれない。さすがの僕も自由すぎるゲーム世界に毒されてきている。

「って、重要なのは、そこじゃなくて!」

 何やら、深く考えはじめたクンシラに、最後まで伝えなくては!と意気込む。

「そのご褒美もあるし、告白とか、ライバルへの牽制にも使うって話をしたら乗り気でさー」
「・・・」
「クンシラの名前もチラッと出てきたから、なんか、あるのかなー」

 ちら、ちら、と視線を送りながら、精一杯のアピールをしてみた。
 しかし、びっくりするほど、まっすぐに僕を見ていた。ものすごい圧を感じて、違う感じで視線をそらしたくなる。でも、つまり、真剣に聞いてくれてる?ってことだよね? やたらなんか空気が重い気がしないわけでもないけれど・・・わからん。思わず首を傾げてしまう。

「はぁ」

 クンシラは重いため息を吐いた。

「だから、お前は何もしないでいてくれる方が…」
「でも。アンティは困るでしょ? 入学して数ヶ月で、こんな変わったイベントって可哀想だし、不安になるだろうし」

 突っ込まれても大丈夫なように、理由を考えてきて正解だったな。僕だって同じ失敗を繰り返しているだけじゃない。
 それに、ほんとの理由でもあるから嘘をついているわけでもない。ムダに気負いもしなくて済む。

「いや、そうだが。俺が言いたいのは…」
「失礼するよ」

 ノックとともに、生徒会長の声が聞こえた。
 大会の打ち合わせに来たようだ。時間切れである。

「あ、じゃ、僕はこれで!」

 僕は読もうと思えば空気を読める男なのだ。たまに間違うけれど、読めないわけじゃない。お邪魔虫にならないように、そそくさと立ち去る。

「失礼しましたー」

 春風のごとく風紀室を出て数歩。ふと、思い出す。

 あれ? クンシラ、そう言えば、何か言いかけてたような…気がしないわけでもない。
 でも、ま、いっか。本当に言いたいことあったら、改めて、なんか言うよね!

「よし、今度こそ成功させるぞ!」

 この時の僕には「作成成功」と言う「恩返し」しか見えていなかった。

 まさか、そのゴールに着く前に、事件が起こるなんて、想像しなかった。
 だってそうだろう? ここまで、何の問題もなかったんだから!





 それから数日経った、大会当日。

「じゃ、アンティ。頑張ってね!」

 保健テントの前で、アンティを激励する。

「おう、アマナが”オレのため”に色々丁寧に教えてくれたからな。上位目指すぜ」

 アンティはそう言うと爽やかに立ち去っていった。
 さすが主人公である。ムダにキラキラしていた。
 アンティの背中を目で追っていると、その横に風紀員の集団がいることに気づいた。

「あ、クンシラだ」

 思わず声が漏れ出てしまった。
 大きくも小さくもない声だったが、クンシラは気づいたようだ。
 さすが、風紀委員長だな。と感心する。

「何かあったか?」
「いや。ちょうど、アンティを見送ってて、横、通り過ぎてたでしょ? 気づかなかった?」
「あぁ、確かにすれ違ったが、異変があったわけじゃなかったから、特に」

 うーん。好きな人が隣りを通り過ぎてるのに。風紀委員長としてってのもあると思うけど、仕事に真面目過ぎるのは、恋愛的にはやはり問題だよな。

「僕はアンティを激励してたんだ。クンシラも今日は長い一日になりそうだね。お互い、頑張ろう」

 昔のように、とは言い難いが、いつかの頃を思い出すように、お互いの健闘を誓い、拳を軽くぶつける。

「……オーアマナも気をつけろよ」
「うん。ありがとう、クンシラ」

 保健部隊の僕らはそうそう危険なことなんてないけどね。
 分かってて、言ってくるんだから、やはり、クンシラは見た目とか、周りが感じるイメージと違って、情に厚いんだよね。みんなにもっと知ってほしい部分である。

『それでは、全学年参加”鬼ごっこ大会”スタートします』

 学園内に響いたアナウンスの終了とともに、学園のシンボル、大きな鐘が鳴り響いた。

 さぁ、戦いの始まりだ!
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