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53 ライク・ヒューマン

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 『昼の部屋』から外に出ると、何故かどっと疲れる。
 あの場所は好きじゃない。自分で創ったのに。
 

「変わった人たちだったネ」
「お前の仲間に、上手くやれるように説明できるか?」

「まだ分からないヨ。ヴァンピールの子たちは、大人を怖がってる子も多いシ」
「上手く説得しろ」


 信者の団結は、審問官に対する恐怖が八割と、俺に対する信仰二割から成り立っている。

 その支配体系は、変えていかなければならない。
 完全に外部から管理できる閉鎖環境が用意できない以上、恐怖で従わせるのは悪手だ。柵がなければ逃げてしまう。

 若者が多いし子供もいるので、俺が本気を出して手段を選ばず全員を調教すれば、数か月後には全員の人間性を抹消することも可能だが、そんなことはしたくない。

 俺は反抗的な奴を躾けるのが好きなのであって、反抗心のない奴から最後の希望すらも無残に奪い取って思考停止させるのは趣味じゃない。


「……あの場所に、少しずつ様子を見ながらヴァンピールを連れて行け。できるだけ大人しくて、愛嬌のある奴だ。砦を落とすまでに慣れさせろ」
「お姫様を住まわせるんじゃないノ?」
「言ったはずだ。彼らはお前らヴァンピールに、血液を提供し、愛情を注いでもらうための人間だと。お前らに慣れなきゃ意味がない」
「なるほどネ」

 それに、594に見せたら、色々と誤解されそうでそれが嫌だ。
 あんな狂信者集団、見せられるわけがない。教壇に立っているところなんて、427に見られたら恥ずかしさのあまり虐殺しそうだ。


「つまり、僕らの餌ってこト?」
「餌として扱うのは最終手段だ。お前らに嗜虐癖があるのかどうかは知らないが、なるべく自発的に提供させたい」
「そんなこと、できるかナ」

「お前が思ってるより、人間っていうのは社会的欲求が強いからな。安全さえ保障してやれば、可哀想な子供達のためにちょっと痛い思いをするくらい、意外とすんなり受け入れてくれる」
「そう……かなア……?」

 ヴァンピールは疑っているようで、首を傾げている。
 気持ちは分からなくもないが。


「その代わり、お前らは人間に感謝を欠かすな。絶対にその人格を軽視せず、人間が困窮してたらすぐに助けてやって、いつもありがとうと定期的にメッセージを送れ。それだけで割とどうにかなる」

「どうしてそんなことをするノ?」
「そうされると、人間は喜ぶからだ」
「それより、宝石をあげた方が喜ぶと思うけどナ」
「金は欲望と争いを生むだけだ。絶対に触れさせるな」

 俺ははっきりと言い放つ。


「看守サン、人間に詳しいネ」
「そう思うか?」
「僕よりも詳しいヨ」
「長い間、人間のフリをして生きてきたからかな」

「人間よりも、ずっと人間らしいネ」
「……」

 ヴァンピールがどんな意図でそう言ったのかは不明だが、そう言われて、何となく複雑な気持ちになった。


 人間が好きかと言われれば嫌いだが、俺が好きなのは人間だ。
 人間になりたいかと言われると、確かに、そうかもしれない。

 人間らしい。
 人間らしい、か。


「ここの部屋だヨ」

 それに答える前に、俺は目的の部屋の前に案内され、ヴァンピールは影の中に潜って消えた。


「……」


 俺は何となく扉をノックして、一歩下がる。

 しばらく返答はなかったが、それからガチャッとノブが回って、ギィとゆっくり扉が開いた。

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