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33 氷とごーもん

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 一生懸命にかき集めた結果、職員は二人、看守は五人くらい生き残っていた。

 残りは殺されたのが十人、ヴァンピール化したのを捕まえたのが二人だ。

 人間のまま殺されたのか、ヴァンピール化した結果殺されたのかは不明。
 捕まえた二人は、しばらくの間捕まえておいたのだが、他の監獄から苦情が来たため、仕方なく安楽死させた。

 死刑囚は檻の中にいたのは無事だった。
 檻の外にいたのと、檻の中にいたが脱走したのは、一人残らずダメだった。
 
 取り敢えず、逃げたのは一人もいなかったので、それでいいと思う。


 そして今、俺は看守長が集まる会議で糾弾されている。

 U字型のテーブルの真ん中の部分。底の方向を向くように立たされている。
 正面には矯正長、左右には各監獄の看守長。
 今回は副矯正長はいないらしい。
 
 四面楚歌ならぬ三面楚歌の状態だ。背後から逃げようと思えば逃げられるが、そういうわけにもいかない。
 

「凶悪な死刑囚を収監しているというのに、この有様ですか?」
「これだから無能は」
「今回ばかりは擁護できない」
「自分の遊び場も守れないのか?」
「これは降格処分にすべきです!」
「いえ、そもそも看守の任を解くべきではありませんか?」
「前代未聞です」

 看守長達は、ここぞとばかりに口々に俺のことを批判する。


「申し訳ありません。どうかご容赦ください」

 ご容赦くださいとは言っているが、俺だってご容赦されるとは思っていない。
 批判されて当然だ。
 看守の7割近くと、ほぼ全ての職員を失ったのだ。

 緊急会議が開かれ、そしてその名の下に袋叩きに遭っている。
 別に降格されたら次に採用になった奴を殺せばいいので別にいいけど。


「……諸君、静まりたまえ」

 矯正長はあくまで冷静沈着で、俺のことを正面から見据えながら言う。

「……全員、各自の持ち場にて、職員と囚人の中にヴァンピールが紛れ込んでいないか、確実に検査するように。決して見逃してはならない」

 矯正長はそう命令した。
 どうやら、一旦は解放されそうだ。


「ですが矯正長、処分は……」
「……」

 第三監獄の看守長は食い下がるが、矯正長は軽く視線を送るだけでそれを黙らせた。
 視線だけで人を射殺さんばかりだ。
 

「今回は事態の収束を優先する。調査が終わり次第、確実に報告を行うように。報告が出揃い次第、再度招集しよう。では」

 矯正長は再び俺に視線を合わせて、そう言った。

「仰せのままに」

 看守長達は席を立ち、敬礼する。
 俺も敬礼し、顔を伏せた。叱られている身分でそそくさと帰宅できるわけもない。


 ところで実は、俺はこの矯正長が苦手だ。
 俺が苦手な人物などそんなにいないが、彼のことははっきりと苦手だ。

 苦手、いや、正直に言うと、怖い。
 死なない俺は基本的に「でもこいつに俺は殺されないし」で大抵の物事は片付けてきたので、怖い相手なんてそんなにいないが、彼のことは怖い。

 その冷たい視線を浴びるだけで、指先が痺れる。
 上手く呼吸ができなくなる。蛇に睨まれた蛙のように。


 正直、他の看守長たちから袋叩きにされるよりも、目の前にいる矯正長が正面から俺のことを見ているという事実の方がしんどい。

 むしろ他の看守長たちがいることで、気持ちがちょっと楽になっていたかもしれないくらいだ。

「第六監獄の看守長は残りたまえ」
「!!?」
 
 思わずビクッと肩を揺らす。
 誰か助けて。振り向くが、当然看守長は誰も立ち止まらない。


「……仰せのままに」

 もちろん嫌ですとは言えないので、俺は仕方なくその場に留まる。
 すぐに部屋には俺と矯正長だけが残された。


「……」
「……」


 なんだ、何されるんだこれ。拷問?

 この矯正長だったら、「貴様のような役立たずはこの監獄に必要ない、永遠の苦痛を享受することが最後の仕事となるのだ」とか言いかねない気がする。

 いや、もしかして、案外「地位を守りたいなら満足させてみたまえ」とか言われて、急にピンク色の展開になったりする?
 それはそれで最悪だけど、確かに無限に拷問されるよりは……


「私が矯正長に就任したのは、君が看守に就任した前の年だった」


 ……怖すぎる。とてもふざけていられない。
 427はどこにいるんだ、こんなときこそお前の空気を読まない下品な発言が必要なんだが。

 
「……そう、でしたでしょうか」

「君は知らないかもしれないが、私は君を看守として採用し、解任しないことを条件に、ある筋から矯正長への就任を斡旋された」
「え?」


 思わず素で驚いてしまった。

 矯正長は信じられないほど冷たい目で俺を見据えている。

 いっそ殺意でもあった方が救われるかもしれないというくらいに冷たい目だ。
 ワンチャンに賭けて色仕掛けをするくらいなら、イチかバチかで物理的にハートを奪いに行った方が正しい。


「裏に何かあるのではないか、と思うような条件だろう。この六監獄の頂点に立つのに、たったそれだけだ。たったの、それだけ。たった一人の若者を、看守として採用し、解任しない。非常に簡単で単純で分かりやすく、安易な条件だ」

「……」

「よほどの無理を通すことになるだろうと覚悟していたが、君は、ごく普通に、誠実に、真面目に、筆記試験をパスし、面接官からそこそこの評価を獲得し、私の職分を逸脱することなく、私は条件をクリアすることができた。君は人の名前を覚えることができないという特性を持っていたが、それすらも上手くカバーしていた。君は優秀な人材だったといえよう」

「……光栄です」

 確かにこの職は官吏に勧められ、斡旋されたものだった。
 試験官の誰かと繋がっているのだとばかり思っていたが、まさかトップと懇意だったとは恐れ入る。


「看守になってからも、君は実によく働いた。問題を起こすことはあったが、失態を演じることはなかった。私はほとんど見守るだけで良かった。そして、君は自分自身の力で看守長まで成り上がってみせた」

「……ありがとうございます」


 褒められて、るのか?

 もしかして、俺が無駄に警戒していただけで、矯正長様はシンプルに助けようとしてくれているのだろうか。
 官吏に言われて入れたから、辞めさせるつもりはない、と言って安心させてくれようと?

 だが、だとしたらどうしてわざわざこんな過去話をする必要があるのだろうか。


「私にとって最も重要な仕事は、『何もしない』ことだった」

「……」
 
 無感情とは違う。
 矯正長は、感情はあるのだが、それを隠すのが巧すぎる。

 しかも最悪の形で隠している。
 何か激情を感じるのに、それが何か分からない。

 しかもそれは多分、恐らく、悪い方の感情だ。


 殺意、悪意、敵意、お前のことを今すぐに殺してやりたいと言わんばかりの憎悪の感情。
 を、見せないのに感じさせるその視線。

 俺が囚人だったら、今すぐにでも罪を悔い心を入れ替え、震えながら赦しを乞うに違いない。


「君には実に感謝している。君のおかげで、私は気に入らない者を全て排除し、盤石な地位を築くことができた」

「……光栄です」

 それは一種のカリスマ性なのかもしれない。
 見る者を委縮させる氷の視線。
 

「だが私は常に君を意識した。意識せざるを得なかった。私が何もしなくても君は上手くやったが、万が一君に何かあれば、私にも災いが降りかかるかもしれない」

「……はい」


「やがて私は、とある考えに支配されるようになった。『私は何かを見逃しているのではないか?』と」

「……はい」


「そして、君のことをずっと監視し続けることにした」

「……はい?」

 変わったな、流れが。
 よくない方向に。


「毎日毎日君を見張り続けた。私は、何か重大なことを見逃しているのではないか。それを見逃したがために、災厄が降りかかるのではないか。その思いが頭から離れなかった。君から目が離せなかった。ほんの一瞬でも私が君を把握できなければ、私は自分が終わってしまうような気がした。私は君を監視し続けた。来る日も来る日も。君が看守長になってからというもの、落とし穴を探し続け、毎日毎日、朝から晩まで、夢の中までずっと、私は君のことを考え続けた」

「……」


 ピンク色がどうとか言っている場合ではなかった。

 確かに捉えようによってはピンク色だが、こんな暗い色のピンク色はお呼びじゃない。っていうか黒すぎて全然ピンク色じゃない。

 これはもうワインレッドだろ。血の色だよ。レイプどころかめった刺しだよ。 


「……先日、ようやくその答えを知ったよ。看守長」

 やっぱりこれ、いずれにしろ逃げなきゃいけない奴じゃないのか。
 上司とか部下とかカリスマ性がどうとか関係なく、俺が怯えるのも無理はないだろ。

 逆に今まで何も気づかなかった自分を殴りたい。他の看守長がいるとかいないとか関係なしに逃げないと。


「君は、兄の息子だったんだな」

 
 は?

 兄?

 息子? 兄の息子?
 兄ってなんだ、急になんだ?
 何、何何どういうことだ。

 息子?
 俺が?
 誰の? 何の? 兄?


「……ぃひっ、あ?」


 思わず変な声が出てしまった。

 矯正長も笑ってくれればいいのに、相変わらずその眼光は恐ろしく冷たい。



「兄は昔から実に合理的な人物だった。家族だからといって、特別扱いすることはなかった。我が子に対してすらそうだった。何を要求しても、必ず等しい対価を要求された。兄に一方的に与えられることは、一方的に奪われるに等しいことだと私はよく知っている。よく分かっている。骨身に染みて理解っている」

「い、ぁぅ、う、と、っく」

 淡々と話し続ける矯正長に、俺は挙動不審になりながらなんとか相槌らしき呻き声で答える。


 そのとき、ガタン、と音を立ててテーブルが割れた。
 矯正長が立ち上がり、テーブルを左右に押し倒したのだ。

 一応破壊されたわけではなく、組み合わせられていた「U」が「しJ」になっただけだが、そういう問題じゃない。


「そんな兄が、私に一方的に与えた。十分に現実的な条件で私を矯正長へと推薦した。即ち兄は、それだけの価値を君に見出した。君にはそれだけのを返す力があると、判断した」

「は、ぁ、矯正長、俺はただ」
「兄は君に何を与え、何を奪ったんだ? 看守長」


 彼は静かに俺に接近し、俺のことを押し倒した。

 そして矯正長は俺の体の上に馬乗りになり、首に両手を添えた。
 脱がされる方がマシだ、と考えてる場合じゃない。

 
「あ、な、きょ、きょうせいちょ、な、何をしてぅがっ」

 わざと器官を潰す位置、意識を保ったまま痛みと息苦しさを感じさせる場所。
 そこをギリギリと締められる。

 
「私は有象無象の一般看守や役立たずの文官共が何人死のうがどうでもいい。ましてや囚人や市井のことなど、心の底からどうでもいい。お前が何人殺そうが逃がそうが、私は容易に揉み消せる。私が知りたいのはただ一つ。君にそれだけのものを与えるに至った兄が、君から何を得たかだ。君は面接試験の時、こう言ったな。『父親に勧められてこの道に至った』と。君は兄に、何を差し出した? 君は兄にとって、失うに惜しい存在なのか?」

 締める力は強くなる。

「うっ、あっ」

 苦しい。
 息が苦しい。
 喉が痛い。

 俺は耐えかねて彼の手首に手を伸ばしたが、それを罰するかのように矯正長は俺の両手首をまとめて掴んで頭の上に拘束し、思いっきり力を込めた。

「いぅっギィ、ガハッ」

 手首の骨が軋み、痛みに身を捩るが、矯正長は一切力を緩めない。
 抵抗ができないはずはないのに、上手く体が動かない。


「たずけっ、しんじゃ、くるし」

 俺は必死に身を捩り、息苦しさを訴える。
 酸欠で頭がズキズキしはじめた。すると矯正長は俺の喉を解放する。


「はーっ、は、はぁ、はぁ、は、ぁ……ギャアアアアア!」

 俺は思わず目を閉じ、息を吐き、吸っては吐き、酸素を体に取り込むが、ガチャンッ、という音が聞こえたと思うと、手首が激痛の後に動かなくなった。
 思わず絶叫して目を見開くと、矯正長は冷たい目で俺を見下ろしていて、その手には大きなネイルガンが握られている。

「ひっ、ィッ、ひぃっ、あ、やめ、おねがいやめて、やめてやめてやめて許しておねがいぃああああああ!!!」

 バチン、と音がして、手の平に激痛が走る。
 絶叫して身を仰け反らせるが、矯正長は全く意に介さず、悠々と胴体に跨って抑えつけ、俺の顔を正面から見つめた。

 
「何故お前は、我が兄の寵愛を受ける?」

 
 矯正長様、完全に頭がイッてないかこれ。
 考えすぎておかしくなってるんじゃないのか。
 割と政府側の奴は狂ってる奴が多いって聞くけど、完全におかしいだろこれ。


「いっ、うぐっ」

 また首を絞められる。
 掌と手首は、しっかりと骨を砕きながら床に突き刺さった釘のせいで、どんなに藻掻いてもピクリとも動かない。
 
 
 矯正長が言う「兄」のことが官吏のことなどだとしたら、俺が彼に差し出したものは多すぎて数えきれないくらいだ。
 差し出したというか、まぁ勝手に奪われたんだけど。
 いずれにしろ、こうして喉を潰された状態では答えようがない。

 拷問の口実の作り方と一緒だ。
 口を塞いでおいて、答えないなら痛い目に遭ってもらうからな、とかいう古来からの方法と同じだ。


「……」
「きょ、きょうせ、い、ちょ、い゛、いう、から、はなしっ、でぇっぐぁ、あ、ああっ、あ゛……」

 必死で身を捩るが、全く歯が立たない。
 矯正長は俺よりも明らかに体格がいいし、なんていうか心が折られてどうしようもない。
 

「……」
「い、いいまっ、ごだえるがらぁ、あっ、あ゛」

 力がさらに強くなる。思いっきり床に押し付けられる。
 喉が潰れる前に、首の骨が折れそうなくらいに押し付けられる。


 喋らせる気、ないだろ。

 殺す気だこの人。なんかよく分からないけど殺される気がする。おかしいな死なないはずなのになんでこんなに死を感じるんだろう。


「……」

 頭がぼんやりする。
 目の前が暗くなる。
 酸素がない。
 吸えない。吐けもしない。
 頭が痛い。


「はっ、はぁ、はぁ、はぁはぁはぁ、ごほっ、は、はぁ」

 抵抗する力すら失ったとき、矯正長は俺の首から手を離し、俺は急速に酸素を体に取り込んで、ゲホゲホと咳き込んだ。
 

「……看守長」
「ひっ」
「お前は監視されているわけではないのか?」
「え、なっ、はいたぶんそうです」
「……つまり、まだ足りないということだな」
「へっ? な、何が足りないって、」

 矯正長は電撃銃を取り出し、ゆっくりと俺の腹部に向ける。


「え、ま、待って、矯正長、俺は、話します矯正長、何でも言います、助けてください」
「私はお前に答えを望んでいるわけではない」
「や、まって、まってそんな、おねがっぃ」

 電極が皮膚を抉る。
 その痛みに息を呑む。


 次の瞬間。


「ぐギャアアアああ、ああぎぃ、ぐぁギャアアア、いぁあああああ!! ゆるじでぁあああああ!!」

 電撃が撃ち込まれた。
 それも何度も。

 全身の神経を逆向きに削られるような激痛。何度も与えられる。


「看守長、演技する必要はない」
「ぃっギィアアア、ああ、あ、なん、なんで、なんっでぁ」

 矯正長は俺を見下ろし、残虐に笑った。

「我が兄は実に残酷だった。兄の息子ならば、この程度の拷問、慣れているだろう?」

 
 何度も、何度も何度も何度も、気絶することすら許されない。

 しかし何事にも終わりは来るものだ。
 俺の命でもあるまいし。



「……」
「うぁっ」

 矯正長は、軽く弾みをつけて電極を引き抜いた。

 俺はもう反応する気力すらほとんど失っており、ただ拷問は終わったのだと悟った。

 
「監視されていないのか?」
「……あぁ……ぁ……」
「ならばそう言えばいいものを」

 矯正長は俺の手から釘を引き抜き、その手を掴んで助け起こす。
 長時間の拷問で意識が朦朧としていて、ほとんど何を言っているのか分からない。
 
 矯正長は俺の耳元で囁くように、何かを呟いている。
 だが何を言っているのか理解できるほど、俺には余裕がなかった。

 
「『境界』から戻った兄は、豹変していた。悪魔に憑かれたのだ。以来私は、あの非道な男を、兄と呼び慕わなければならない」
「うぁ……あぁ……」
「……お前は、兄から愛されている。間違いなく。だが……看守長」

 
 別に可愛がられたわけではないと思うんだけどな。
 でも、これ以上余計なことを言って刺激したくない。

 今俺が一番望んでるのは、とにかくこの部屋から脱出することだ。


「私が義務付けられたのは、お前を解任しないということだけだが、いずれにしろ現時点で処分を決定するのは早すぎる。よって看守長、君は十日間の謹慎処分とする。調査が終わり次第、追加の処分を言い渡す」

 朦朧としていた意識も、徐々に覚醒しつつある。

「……はい、そう、ですか」
「言い分はあるか?」
「い、いえ……つ、謹んでその」

 俺は、その凍るような視線からほんの少しでも逃れたくて目を逸らした。
 
「言い分は必要ない」
「え?」
「私は既にお前の一挙手一投足を把握している。お前の言動も、その思考も、呼吸の回数すらも」

「何もありません。謹慎します。ご寛大な処置に感謝します。帰っていいですか」

 急に怖いこと言わないでくれ。
 頼むからやめてくれ怖いから。


「……良かろう」

 あと、できれば俺の腕を鷲掴みにするのをやめてほしい。本当に許して。帰ってぐっすり寝たい。


「これからも励むといい」


 矯正長は、なおも俺を睨みつけながらゆっくりと離れた。

 俺は一刻も早くダッシュで逃げ出したいのをグッと堪えて、一礼して踵を返す。


「待ちたまえ、看守長」

 グッ、と、矯正長は俺の肩を掴んだ。

 今しがた帰ってもいいって言ったのに。
 相手が官吏なら回し蹴りを食らわせていたかもしれない。


「お前は私に配慮する必要はない。私はお前を守るために見張っているだけだ。お前を害するつもりはない。それから、兄にこう伝えろ。『不肖の弟は、御兄様の為ならば主の首をも差し出すつもりだ』と」

 害なら、たった今たっぷり与えられたような気がするんだけど、気のせいだろうか。
 もしかしてこの程度は害でも何でもないくらいの酷いことをしてやる、みたいな話か?

 確かに、官吏にガチで虐待されてたときにこんな感じのことをされたら、優しすぎて逆に不安になってたかもしれないけど。


「分かるか、看守長。私とお前は、運命共同体だ。私はお前と繋がっているのだ」
「……わっ、かり、ました……」

 正直、何も分からない。理解不能だ。なんだよ運命共同体って? 官吏にいじめられてる仲間だから、被害者の会でも作ろうとしてるのか?

 しかし馬鹿正直に分からないですとは言えず、俺は精一杯の愛想笑いを浮かべて頷く。


 全体的に、やたらとどす黒いというかじっとりしてるというか、なんか粘度が高い気がするのは気のせいだろうか。

 それともなんだ、兄が官吏だからこうなのか?
 または、官吏が兄だからこうなのか?


「私はいつでも見守っている。休暇だと思って、ゆっくりと体を休めるといい」
「……ありがとうございます」

 俺は足早に部屋を出る。
 そのまま一度も振り返らず、逃げるように自分の寮に戻った。
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