上 下
17 / 32

17_ いけにえ

しおりを挟む
「やぁやぁ我こそは傭兵シエル! 冒険者諸君、こんにちは!」
「そんな気の引き方があるか!」

 キャンプの入り口で大声を出すという、極めて原始的な方法にサシャは突っ込みを入れる。

「大丈夫大丈夫。ほら、来たじゃないか。大成功だ」

 確かに冒険者は集まって来ていた。
 しかし彼らは武器を持っていて、すごく警戒されている。
 

「……何をしに来たんだ?」
「ふむ。散歩だ!」
「散歩?」

 冒険者たちは困惑している。
 不審者がキャンプの前で騒いでいたら、誰だって困惑するだろうから不思議はないが。
 

「……で、ここに何か用でもあるのか?
「道に迷ってしまってな! 一緒に山を降りてほしいんだ!」

 およそ頼み事をしているとは思えないほど、申し訳なさのかけらもなく胸を張るシエル。
 どうやら、おかしいのはテドだけじゃなかったようだ。サシャは頭を抱える。


 ざわつく冒険者。
 こんなところで迷子の亜人に助けを求められることなど、そうそうないのだろう。
 
「……いや、迷子は自業自得だろ。俺たちは仕事をしてるんだ。亜人の世話をしてる暇はないんだよ」
「そう言わずに、頼む! ほら、ワタシたちは亜人だぞ? 人間様の庇護なしには生きられない、か弱い下等生物だぞ?」

(人間よりも明らかに強靭な蹄と後脚を持ちながら、どの面下げて言ってんだよ)

「なぁシエル、か弱い下等生物は、人間様と話すときにそんなに偉そうに胸を張らないぞ……」

 と、サシャはこそこそと耳打ちしてみるが、シエルは聞く耳を持たない。
 

「ほら見てみろ、この可愛い愛玩動物も困っているんだ!」

 それどころか、サシャを巻き込み矢面に立たせる。
 
(俺を巻き込むなよ!)

「……あぁ、やっぱり、後ろに乗ってんのも亜人か?」
「そうだぞ! 見てみろ、このつぶらな瞳を! うるうるしてるぞ! ……してるよな?」
「確認してから言えよ」

「変な亜人だな」
「なんかデカいし……」
「……なんでそんなもの乗せてんだ?」
「可愛いからな!」

 冒険者たちはますます困惑し、集まり始めた。
 確かに注目を集めることには成功してはいるものの、どうやって離脱すればいいのか全く分からない。


「……というか、お前らは誰かに飼われてるのか? 主人はどこにいるんだよ」
「ワタシは、亜人だからよく分からなんな! とにかく、可愛い愛玩動物を乗せているんだ! 助けてくれ!」

(こいつ、考えるのが面倒になってる……そのゴリ押しは無理だろ……)

「どうする? 助けるか?」
「今は雇われてるし、勝手に助けるのはマズいんじゃ?」
「でも、こんなところで放り出したら確実に……」
「いや、俺たちの知ったことじゃないだろ」
「というか、助けを求めるなら、もうちょっと態度を考えた方がいいんじゃないのか?」

 と、冒険者は尤もなコメントをした。
 もしかしたら彼らは意外と常識人なのかもしれない、とサシャが考え始めたそのとき。
 
 
「なるほど、もっともだ。すまなかった」
「うわっ」

 意外と素直に認めたシエルは、突然前脚を折りたたんだ。
 対応できなかったサシャは、落馬して地面に転がる。

(土下座でもすんのか? まあそのくらいなら、俺も付き合うけど……)

 そう思ったサシャだったが、シエルは当然のように再び立ち上がった。

(こいつまさか、俺だけに頭下げさせるつもりなのか? レベル差からすれば当然だけど……まあいいや、可愛く振る舞うのがペットの仕事……)

 地面に転がったままのサシャは、釈然としないものを抱えながらも、不自由な足を折りたたんで跪こうとした。

「ほえっ?」

 だがしかし、シエルはサシャの両脇の下に手を入れて抱え上げる。

 かなり大柄なシエルに不意に持ち上げられたせいで、サシャは間抜けな声と共に、高い高いされているような、なんとも言えない格好にされてしまった。
 

「これでどうだ?」
「何がどうなんだよ! ふひゃっ!?」

 尻尾に違和感を感じ、サシャは飛び上がる。

(い、嫌な予感が……)

「なるほど、いい毛並みだ」
「悪くないな」

 わらわらと冒険者たちが寄ってきていた。彼らは、サシャの黒い尻尾を触っているようだ。

「ふざけんな、おい! やめろ! やめさせろ!!」

 ジタバタして逃げ出そうとするサシャだが、シエルの腕からは逃れられない。
 背後を蹴り上げようにも、片方しかない足では上手くいかない。
 
「男なのが残念だがな」
「可愛げがない」
「もう少し愛嬌があった方がいい」
「ほっとけ! 俺は飼い犬じゃねーんだよ!」

 好き勝手に批判される屈辱に、サシャは色々忘れて激しく抵抗する。
 しかし、悲しいくらいにシエルは爽やかに笑っているし、彼らも聞く耳を持っていないようだ。

「すまないが頭を撫でてやってくれ。尻尾よりも頭の方が好きなようだ」
「ふざけるな、おい! おろせよ、シエル!!」

 頭を乱暴に撫でられる。サシャは首を振って逃れようとしたが、上手くいかない。

「いいじゃないか。殴られるより撫でられる方が、キミも嬉しいだろう?」

(確かに……!)

 残りの手足を切り落とされるよりは、何倍もマシだ。
 サシャは諦めて抵抗を止めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

睡眠スキルは最強です! 〜現代日本にモンスター!? 眠らせて一方的に倒し生き延びます!〜

八代奏多
ファンタジー
不眠症に悩んでいた伊藤晴人はいつものように「寝たい」と思っていた。 すると突然、視界にこんな文字が浮かんだ。 〈スキル【睡眠】を習得しました〉 気付いた時にはもう遅く、そのまま眠りについてしまう。 翌朝、大寝坊した彼を待っていたのはこんなものだった。 モンスターが徘徊し、スキルやステータスが存在する日本。 しかし持っているのは睡眠という自分を眠らせるスキルと頼りない包丁だけ。 だが、その睡眠スキルはとんでもなく強力なもので──

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

大罪を極めし者〜天使の契約者〜

月読真琴
ファンタジー
クラスの何人かと一緒に召喚された 神楽坂暁 みんなは勇者や聖女、賢者など強そうな職業なのに僕は無職? みんなを助けようとしても裏切られ、暗い地の底に落ちていった。 そして暁は人間が心の底から信頼できなくなってしまった。 人との関わりも避けるつもりでいた、 けど地の底で暁は最愛と運命の出会いを果たした。 この話は暁が本当に欲しい物を探しだすまでの物語。 悪い所や良い所など感想や評価をお願いします。直していきより良い作品にしたいと思います。 小説家になろう様でも公開しています。 https://ncode.syosetu.com/n2523fb/

レベル1の最強転生者 ~勇者パーティーを追放された錬金鍛冶師は、スキルで武器が作り放題なので、盾使いの竜姫と最強の無双神器を作ることにした~

サイダーボウイ
ファンタジー
「魔物もろくに倒せない生産職のゴミ屑が! 無様にこのダンジョンで野垂れ死ねや! ヒャッハハ!」 勇者にそう吐き捨てられたエルハルトはダンジョンの最下層で置き去りにされてしまう。 エルハルトは錬金鍛冶師だ。 この世界での生産職は一切レベルが上がらないため、エルハルトはパーティーのメンバーから長い間不遇な扱いを受けてきた。 だが、彼らは知らなかった。 エルハルトが前世では魔王を最速で倒した最強の転生者であるということを。 女神のたっての願いによりエルハルトはこの世界に転生してやって来たのだ。 その目的は一つ。 現地の勇者が魔王を倒せるように手助けをすること。 もちろん勇者はこのことに気付いていない。 エルハルトはこれまであえて実力を隠し、影で彼らに恩恵を与えていたのである。 そんなことも知らない勇者一行は、エルハルトを追放したことにより、これまで当たり前にできていたことができなくなってしまう。 やがてパーティーは分裂し、勇者は徐々に落ちぶれていくことに。 一方のエルハルトはというと、さくっとダンジョンを脱出した後で盾使いの竜姫と出会う。 「マスター。ようやくお逢いすることができました」  800年間自分を待ち続けていたという竜姫と主従契約を結んだエルハルトは、勇者がちゃんと魔王を倒せるようにと最強の神器作りを目指すことになる。 これは、自分を追放した勇者のために善意で行動を続けていくうちに、先々で出会うヒロインたちから好かれまくり、いつの間にか評価と名声を得てしまう最強転生者の物語である。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...