14 / 32
14: 飼
しおりを挟む
「ク、クゥ、クゥ!」『テド、コイツ、イキテルゾ!』
「え?」
「クゥクゥ、クゥ、」『イキテルゾ!』
リリーはテドから飛び降りて、スルスルと死体の近くへ寄っていった。
そして死体を見つめて鼻で突く。
「……まだ生きてる?」
「クゥ!」『ソウダヨ!』
意思疎通の奇跡に目をキラキラさせて喜ぶリリーを頭に乗せて、テドは男を覗き込んだ。
息はあるが、気を失っていて、左脚が膝の辺りまで消し飛んでいる。
男の頭には、獣のような耳が生えていた。どうやら亜人のようだ。
「リリー、近くにシエルはいないよね?」
「クゥ」『イナイ』
リリーはプルプル首を振っている。かわいい。
テドは目を細める。
「じゃあ、起きてもらおうかな」
テドは男の頭に水をかけた。都合のいいことに、近くに透明な水が流れていた。
男は蒼白な顔をしていたが、ゆっくりと目を開けた。
「こんにちはー」
「……」
虚ろな目をした男は、顔を上げる力も残っていないのか、瞼だけ開いて、眼球を動かしテドを見上げた。
「まだ生きてる?」
「……」
「まだ喋れる? もし喋れないなら、他の方法を考えるけど」
「……聖女の、護衛か」
男はボソボソと聞き取りにくい声で話す。
「せーじょって、リスペディアのこと?」
「……あぁ」
「リスペディアのことを攫ったの?」
「…………」
「ねぇ、教えてよ」
「……言っとくが、オレは雇われただけだ。命令された……だからこうして、ゲホッ……置き去りに」
男は体を倒し、床に横たわった。座っていることすら辛そうだ。
左足から流れる血が、水に溶けていく。
「雇われたってことは、傭兵なの?」
「そうだよ……傭兵」
「雇い主は誰?」
「……さぁ。多分、冒険者だ」
「冒険者?」
「詳しくは知らない。でも……ハハ、話が違うよな……」
「話が違うって?」
「……お前、何も知らないのか?」
「うん。つい最近まで、辺境の村にいたんだ」
「……」
男は初めて顔を上げ、テドの顔を見た。
蒼白な頬と虚ろな目は、既に死人のように見える。
「……先に手当をしてくれ。何か伝える前に、俺がくたばりそうだ」
「元気そうに見えるけど」
「ハハ……アンタ、さてはまともじゃないな」
「褒めてくれてありがとう。リリー、治せる?」
「クゥ、クゥ」『チッ、シカタネーナ』
リリーはするすると寄ってきて、男の足下で発光した。
しばらくすると、男の出血は止まった。
『アサメシマエ ダゼ』
(カッコつけちゃって、可愛いなぁ)
「……」
男は胡散臭そうにリリーを眺めてから、体を起こした。
リリーはすぐに男の側を離れ、テドの頭の上で丸くなる。
「……派遣されたんだ。中央都市で。迷子の聖女を保護してくれって、簡単な仕事。正確には、それを手伝えって依頼」
「リスペディアのこと?」
「だが保護って話だったのに、実際来てみたら、人攫いの真似事だった。その上、件の聖女様はとんだお転婆で、出会い頭に傭兵仲間が内臓ぶちまけてぶっ倒されて、俺はこのザマだ」
「みんな知らずに来たの?」
「冒険者様から依頼されただけなんだ。多分傭兵連中は、ほとんどそうだろうな」
「でも、誘拐だって最後まで気づかなかったわけじゃないのに、結局協力したんだね」
「傭兵の俺らには、そうするしかないんだよ。亜人だからって冒険者にもなれないのに、依頼不履行で傭兵団のクランからも締め出されたら……」
男は首を振った。どうせ死ぬなら、少しでも生きる可能性に賭けるのが賢いやり方だと思っているのだろう。
「それで、リスペディアは今どこにいるの?」
「さぁな、俺らは全部の作戦を知らされてない。俺らを突っ込ませて気を引き、煙か何かを焚いたんじゃないか。意識は朦朧としてたから、全部を見てたわけじゃない」
「リスペディアはどこにいるの?」
「だから、知らないんだよ。どこにいるかなんて。ただ突っ込めって言われただけだよ」
男は嘘を言っていないようだった。
いや、そんなことはテドには分からないし、どうでもいいことだった。
これ以上聞いても無駄。それだけでいい。
「ふーん……リリー、分かる?」
「クゥ」『イマハ ワカラナイ。ネテル』
テドは立ち上がり、洞窟の入り口の方を見て、少し考えた。
それからふと何かを思いついたように、ニッと笑う。
「ねえ、傭兵さんってなんて名前なの?」
「……俺か? 俺は……サシャだ」
「サシャ、僕はテドっていうんだ」
「テド……って、お前も亜人か?」
「ううん、人間だよ。人間のテド。僕、サシャに一つ、提案があるんだけど」
「……なんだよ」
「サシャ、僕のペットになってよ」
「……へ?」
「クゥ!?」
サシャは、その虚ろな目に困惑と驚きを浮かべ、首を傾げる。
ついでにリリーが、何か言いたげにキラキラした目を大きくして、テドの足下でくるくると動き回っている。
テドは随分と久しぶりに、その手で羊皮紙の束を取り出す。
「僕、サシャみたいな黒くて大きくて可愛いワンちゃんを、ペットにしたかったんだ」
ニッ、とテドは彼の顔を覗き込み、純粋無垢な笑顔を浮かべてそう言った。
「え?」
「クゥクゥ、クゥ、」『イキテルゾ!』
リリーはテドから飛び降りて、スルスルと死体の近くへ寄っていった。
そして死体を見つめて鼻で突く。
「……まだ生きてる?」
「クゥ!」『ソウダヨ!』
意思疎通の奇跡に目をキラキラさせて喜ぶリリーを頭に乗せて、テドは男を覗き込んだ。
息はあるが、気を失っていて、左脚が膝の辺りまで消し飛んでいる。
男の頭には、獣のような耳が生えていた。どうやら亜人のようだ。
「リリー、近くにシエルはいないよね?」
「クゥ」『イナイ』
リリーはプルプル首を振っている。かわいい。
テドは目を細める。
「じゃあ、起きてもらおうかな」
テドは男の頭に水をかけた。都合のいいことに、近くに透明な水が流れていた。
男は蒼白な顔をしていたが、ゆっくりと目を開けた。
「こんにちはー」
「……」
虚ろな目をした男は、顔を上げる力も残っていないのか、瞼だけ開いて、眼球を動かしテドを見上げた。
「まだ生きてる?」
「……」
「まだ喋れる? もし喋れないなら、他の方法を考えるけど」
「……聖女の、護衛か」
男はボソボソと聞き取りにくい声で話す。
「せーじょって、リスペディアのこと?」
「……あぁ」
「リスペディアのことを攫ったの?」
「…………」
「ねぇ、教えてよ」
「……言っとくが、オレは雇われただけだ。命令された……だからこうして、ゲホッ……置き去りに」
男は体を倒し、床に横たわった。座っていることすら辛そうだ。
左足から流れる血が、水に溶けていく。
「雇われたってことは、傭兵なの?」
「そうだよ……傭兵」
「雇い主は誰?」
「……さぁ。多分、冒険者だ」
「冒険者?」
「詳しくは知らない。でも……ハハ、話が違うよな……」
「話が違うって?」
「……お前、何も知らないのか?」
「うん。つい最近まで、辺境の村にいたんだ」
「……」
男は初めて顔を上げ、テドの顔を見た。
蒼白な頬と虚ろな目は、既に死人のように見える。
「……先に手当をしてくれ。何か伝える前に、俺がくたばりそうだ」
「元気そうに見えるけど」
「ハハ……アンタ、さてはまともじゃないな」
「褒めてくれてありがとう。リリー、治せる?」
「クゥ、クゥ」『チッ、シカタネーナ』
リリーはするすると寄ってきて、男の足下で発光した。
しばらくすると、男の出血は止まった。
『アサメシマエ ダゼ』
(カッコつけちゃって、可愛いなぁ)
「……」
男は胡散臭そうにリリーを眺めてから、体を起こした。
リリーはすぐに男の側を離れ、テドの頭の上で丸くなる。
「……派遣されたんだ。中央都市で。迷子の聖女を保護してくれって、簡単な仕事。正確には、それを手伝えって依頼」
「リスペディアのこと?」
「だが保護って話だったのに、実際来てみたら、人攫いの真似事だった。その上、件の聖女様はとんだお転婆で、出会い頭に傭兵仲間が内臓ぶちまけてぶっ倒されて、俺はこのザマだ」
「みんな知らずに来たの?」
「冒険者様から依頼されただけなんだ。多分傭兵連中は、ほとんどそうだろうな」
「でも、誘拐だって最後まで気づかなかったわけじゃないのに、結局協力したんだね」
「傭兵の俺らには、そうするしかないんだよ。亜人だからって冒険者にもなれないのに、依頼不履行で傭兵団のクランからも締め出されたら……」
男は首を振った。どうせ死ぬなら、少しでも生きる可能性に賭けるのが賢いやり方だと思っているのだろう。
「それで、リスペディアは今どこにいるの?」
「さぁな、俺らは全部の作戦を知らされてない。俺らを突っ込ませて気を引き、煙か何かを焚いたんじゃないか。意識は朦朧としてたから、全部を見てたわけじゃない」
「リスペディアはどこにいるの?」
「だから、知らないんだよ。どこにいるかなんて。ただ突っ込めって言われただけだよ」
男は嘘を言っていないようだった。
いや、そんなことはテドには分からないし、どうでもいいことだった。
これ以上聞いても無駄。それだけでいい。
「ふーん……リリー、分かる?」
「クゥ」『イマハ ワカラナイ。ネテル』
テドは立ち上がり、洞窟の入り口の方を見て、少し考えた。
それからふと何かを思いついたように、ニッと笑う。
「ねえ、傭兵さんってなんて名前なの?」
「……俺か? 俺は……サシャだ」
「サシャ、僕はテドっていうんだ」
「テド……って、お前も亜人か?」
「ううん、人間だよ。人間のテド。僕、サシャに一つ、提案があるんだけど」
「……なんだよ」
「サシャ、僕のペットになってよ」
「……へ?」
「クゥ!?」
サシャは、その虚ろな目に困惑と驚きを浮かべ、首を傾げる。
ついでにリリーが、何か言いたげにキラキラした目を大きくして、テドの足下でくるくると動き回っている。
テドは随分と久しぶりに、その手で羊皮紙の束を取り出す。
「僕、サシャみたいな黒くて大きくて可愛いワンちゃんを、ペットにしたかったんだ」
ニッ、とテドは彼の顔を覗き込み、純粋無垢な笑顔を浮かべてそう言った。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
バランスブレイカー〜ガチャで手に入れたブッ壊れ装備には美少女が宿ってました〜
ふるっかわ
ファンタジー
ガチャで手に入れたアイテムには美少女達が宿っていた!?
主人公のユイトは大人気VRMMO「ナイト&アルケミー」に実装されたぶっ壊れ装備を手に入れた瞬間見た事も無い世界に突如転送される。
転送されたユイトは唯一手元に残った刀に宿った少女サクヤと無くした装備を探す旅に出るがやがて世界を巻き込んだ大事件に巻き込まれて行く…
※感想などいただけると励みになります、稚作ではありますが楽しんでいただければ嬉しいです。
※こちらの作品は小説家になろう様にも掲載しております。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる