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08- 死にそうだから放っておけない

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 シエルはテドを乗せ、崩れそうな洞窟を走る。

「アイカミャンド・ザ・スピリト・ァヴザゥインド。イトセンタズ・アンマイハート・フロウティング、イトゴウズ・フォーワド・フラム・メイン・アクセラレイシャン、ジャスト・フォーメイン」

 リスペディアは、自分に浮遊と加速の魔法をかけて追いかけた。

 
「うわぁ、すごい! 飛んでるよ、飛んでる!」
「うっさい! アンタは黙ってシエルの背中に捕まってなさい!」
「僕飛びたい! リリー、僕を乗せて飛んでみてよ! ちょっとこの辺で投げてみるから」
「ウゥゥヴ!」『ダレカ コノ バカヲ コロセ!』

 リリーが、聞いたこともない唸り声を上げている。
 周囲に敵がいる中走っているので怖いみたいだ。

「後にしなさいよ!」

 通路を高速で飛んで戻る。天井が崩れていく。
 瓦礫に潰されたコボルトが、岩に潰されている。

「かなり奥まで来たのね」
「どんどん追いかけてきたら、いつの間にか……えへへ」
「えへへじゃないわよ……」

 それでも、そんなに奥深くまで入れたということはそれだけ実力があるということだ。


「ホント、呆れるくらい強いわね」

「レベルをたくさんくれるからだよ! それにここの魔物、小さくて人間に動きが似てるからね。持ってる武器も人間と同じようなものだし」

「ここを一人で壊滅させるなんて、Bランクの冒険者でも難しいわよ」
「ランクって何?」
「……なんで知らないの? 冒険者の貢献度よ。Bランク冒険者の平均レベルは60程度、Aランクになると平均レベルは80を超えるわ」
「そうなんだー」

 テドは興味なさそうに言う。


 リスペディアに強めのパンチを食らったせいで、今のテドのレベルは50を少し超えている。
 テドは上機嫌だった。
 
「……アンタって色々規格外よね。色んな意味で」
「ありがとう!」
「……ホント、調子狂うわ……」
「二人とも、そろそろ出口だぞ!」


 一気にシエルが外へ飛び出し、リスペディアはその直後を追う。
 次の瞬間、出て来た入り口が崩れ落ちた。間一髪だ。

 すぐ後ろを追って来ていたコボルトは崩れた岩に埋まってぺちゃんこになってしまったが、どうやら別にも入り口があったらしく、方々からコボルトが飛び出して来て、走って来る。


「今度は地上戦みたいね……」
「リスペディア、飛べるなんてすごいね! もっとよく見せてよ!」
「それは後にして。それとテド、その剣どうしたの?」
「これ? ああ、さっき拾ったんだ。リスペディアにもらったのは折れちゃったから」
「折れた?」
「うん、持ち手の方を持って来たよ。折れた刃の方は吹っ飛んでどこかに行っちゃった」
「ギルドで配布してるものだしね。仕方ないわ」

 ここのコボルトの体は金属でできているので硬く、剣を使うと刃がボロボロに欠けてしまう。細い剣だと折れてもおかしくない。

「だから新しいのをもらって来たんだ。ちょっと大きいけど」

 ちょっと大きいと言いながらも、テドは自分の胴体くらいの長さのあるその剣を、容易に振り回している。

(やっぱり、すごい力ね……【物理攻撃】の実数値が知りたいわ)

 
「テド、それ貸して。私も手伝う」
「また殴ってくれるの? ありがとう!」
「違うけど?」

 リスペディアは、テドが持っていた剣を奪い取る。
 それは騎士団が使っているらしい剣だった。刀身は長く頑丈で容易に大量生産できるが、脆く柔軟性に欠ける。

「アイメイクアゥイシュ・トザ・スピリト・ァヴファイァ。イトスプレズ・フラムマイフィンガテプス・アギフト」

 リスペディアが呟くと、剣の刃は炎を纏い、熱を帯びた。
 リスペディアはテドに剣を返した。
 
「切れ味は上がったはずよ。少しは柔らかくなったはず。この討伐、アンタが始めたんだから、頑張ってよね」
「殴ってくれないの?」
「嫌よ。魔法も使いたくないわ」

 リスペディアは、キッパリと断った。

「……まぁ、一応見つけた巣の入り口は潰しておいてあげる。アンタは地上のコボルトの征討に集中しなさい」
「やったぁ! 楽しそうだね!」

 テドはウキウキで満面の笑みを浮かべている。

 
「テド、私に乗れ! リディアは自分の身を守れるか?」
「もちろんよ。心配無用」
「やった! 騎馬戦だね!」

 テドは歓声を上げ、何の遠慮もなくシエルに跨る。そして右手に剣を下げて、強く握った。

「ヤー!」
「ひひーん! ……って、言わせるな!」

 シエルはゲラゲラ笑ってから、小さく呼吸し、コボルトの群れへと駆けた。
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