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03- 数字が全てのこの世界

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 この世界の生き物には、「ステータス」というものが存在する。
 【体力】【魔力】【物理攻撃】【物理防御】【魔力攻撃】【魔力防御】の六種類。

 そしてステータス数値は、ほぼ「レベル」によって決まっている。
 「レベル」は「経験値」によって上昇する。
 経験値を得る方法は様々だが、最も効率的なのは、魔物を倒す方法。普通の生き物と違い経験値に補正がかかるので、家畜を殺すよりも魔物を倒す方が経験値が高い。

 基本的には、レベルが上がればステータスが上がり、ステータスが上がればより強い魔物が倒しやすくなる。

 つまり、ほとんどレベル=実力といえる。
 

 しかし、実はレベル以外にも、ステータスに直接影響を与えるものがあるのだ。

 それが「努力値」。

 努力値はレベルと違い、数値化されないので目に見えず、故にその影響もよく分かっていない。
 ただ、どうやらステータスに微弱な上昇効果を与えるらしいということは分かっている。

 しかし努力値は経験値のように、何かを倒したり、壊したりしても上がらない。
 目に見えてステータスが上昇するわけではなく、「なんかレベルの割にはステータス高いなー」という程度。
 ないよりはあった方がマシ、くらいといえる。
 
 努力値は何しろ上昇効果もいまひとつなので、それを上げようという人なんて聞いたことがない。
 

「つまりテドの強さは、その努力値によるものだってこと?」
「うん、そうなんじゃないかなぁ」

 テドは川の水をバシャバシャしながら言った。

「でも努力値って確か、本当にほんのちょっとの効果しかないんじゃないの? 数パーセントとか聞いたけど」

「僕はレベルが上がらない代わりに、努力値が上がりやすいみたいだよ。何かのハンディキャップを持ってる人って、みんなそうなんでしょ?」
「確かに、そうだけど……じゃあアンタのそれも何かの呪いなの?」
「ううん、違うみたい。原因不明!」
「……」

 そういうリスペディアは、『レベルドレイン』の呪いを持っている。
 その代わり、リスペディアの【魔力】はとても高い。高コストな魔法を連発できるので、一人でも旅ができている。

(ステータスのどれかの数値が、すごく高いっていうのはよくあることだけど……努力値が上がりやすいなんて、初めて聞いた)

「努力値を稼ぐのって、すごく面白いよ。時間を忘れちゃうよね」
「確かに、テドは単純そうだし、素振りとかそういう単純作業が向いてそうよね」
「えへへ、そうでしょ?」
「褒めてない。……いや、褒めてるのかしら。まあいいわ」

 さっき血塗れになったので、リスペディアたちは近くの川に体を洗いに来ていた。
 ウキウキのテドのレベルは、既にだいぶ下がっている。

(努力値はステータスの数値に倍率で補正をかけるから、レベルが上がると大きな効果が出るってことね。それで適正レベルが30くらい上の魔物を一刀両断できた、と)


「……テドが強いに越したことはない、か」

「ねぇねぇリスペディア、魔法を教えてよ。魔物には魔法の方が強いんでしょ?」

「そうだけど、魔法は私が使うからいいわ。魔物の多くは人間と違って【魔力防御】より【物理防御】が高いから、魔法攻撃の方が有効だとされてるけど、物理攻撃でも倒せるならそれでいい」

「確かに、リスペディアは賢者だもんね! じゃ、魔法はリスペディアに任せるよ!」

 テドは、とにかく素直で扱いやすい。
 リスペディアは呑気に鼻歌を歌うテドを見ながら思った。

「それにしてもあのクモさん、すっごく柔らかくておいしそうだったよね。リリーに食べさせてあげればよかったかなぁ」
「クゥ!?」
「あははっ。次に見つけたら、肉団子にしてあげるからね」
「クゥ、クゥ!」

(もしかして、テドって天然とかちょっとアホとかじゃなく、ただの狂人なのかしら)

 リスペディアはぶんぶん首を振って必死に否定するリリーと、心底楽しそうなテドを見ながらふと思った。

「ねえテド、アンタってリリーの考えてること、一切分からないのよね?」
「たまに分かる時もあるよ。お腹が空いてるときとか、お腹を下してるときとか」
「なんで胃腸関係だけ詳しいのよ……」
「クゥ、クゥ!」『ツタワッテ ナイダロ!』

 リリーがご立腹だ。どうやら胃腸関係のことは伝わっていないらしい。

『……デモ、ソウイエバ カンジンナトコロデ ツタワルノハ ホントダゼ。フシギダヨナ』
「へぇ、確かに不思議ね。長い間一緒にいるから、とか?」
「リリーは、生まれたときからずっと一緒なんだよ。卵から大事に育てたんだから」
「へぇ……いつか話せるようになるといいわね」
『テド イガイナラ ココロモヨメルシ、ヨマセルコトモ デキルノニナァ』

 リリーは寂しそうに言った。

(テレパシーって、やっぱり【魔力防御】と【魔力攻撃】を参照するのかしら……いやでも、私の方がステータスが低いとは考えられないし、そもそもテドが防御しなければ、ステータス関係なしに思考盗聴できるはずか)

「難しいこと考えてないでさ、早く行こうよ。もう魔物の血は流したよ!」
「そうね。体を乾かしたら出発しましょ」
「で、どこに行くんだっけ?」
「……湖畔にあるギルド支部に行くわ。そこで待ち合わせしてる人と合流する。目的地も分からずについて来てたの?」
「うん! 特に気にならなかったし!」
「……一応忠告しておくけど、少しくらい気にしなさいよ」

 目的地も分からないまま、昨日今日会ったばかりの人にノコノコついていくなんて、やっぱりちょっと頭が残念なのだろうか。

(本当、よく分からない人だわ……)

 テドは、鼻歌を歌いながらリリーを川の中につっこんでじゃぶじゃぶ洗う。
 全身ずぶぬれになったリリーが、クゥクゥと怒りを露わに騒いでいた。
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