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#3 試練

19 短剣

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 ある日、また島に船が訪れた。

 小屋から少し離れた場所から遠くの海岸を覗く限り、いつもの汽船ではなく、帆船のように見える。


「あの船は? いつもの船とは違うようだが」
「……さあ、何の船だろうね。アタシも知らない」

 アインは正直にそう言って、険しい顔で弓矢を手に取った。

「アンタはここで待ってて、アタシが様子を見て来るから」

 私は目を見開いて首を振り、彼女の手首を捕まえた。


「そんな、危険だ……私も連れて行ってくれ、頼む」
「駄目。この島にはアタシしかいないことになってるから」

 アインは、私にそう言った。

 それは初めて聞く話だった。
 確かに今までも、外界との接触はアイン一人で行っていたが、この島にいるのがアイン一人ということになっているとは。


「それは……どういう?」
「言葉通りの意味だよ」
「そうでなければならない理由があるのか? 私は流れ着いて、ここに来た。そう言えばいいだろう?」

 私はそう言って彼女に訴えたが、彼女は少し寂しそうに笑っただけだった。


「……駄目なの。ごめん」
「どうしてそんなことを言うんだ。訳を、それならその訳を教えてくれ!」

 私はアインに縋りつくようにして彼女を止めようとした。
 しかし彼女は、小さく首を振って私を拒否した。

「アンタは知りたくないと思う。……それにどっちにしても、今は時間がないの。あいつらがここを見つける前に、どうにかしないと」
「あの船は敵なのか? だったら猶更危険だ、私も連れて行け。これでも少しは、人を殺す術を知って、」

「ねえレビィ、」


 アインは私を見つめて、それから目を逸らし、棚を指差した。

「あれを、守っててくれない?」

 それは短剣だった。目覚めたばかりの私に見せた、木製の短剣。


「アタシの家族の形見なの。すごく大事な物。あいつらがここを見つけて、あれを取られたらすごく悲しい。だからお願い、アンタがそれを守ってて」

「そんな、この小屋は海岸から離れてるんだ、奴らが来るわけない!」

 見え透いた言い訳、ただの口実。
 何もかも分かっていた。

 なのに私は、そう言えなかった。

 アインは今までなく切実な表情で、私の手を握った。


「お願い。アタシの大事なものなの。そう言ったでしょ。アタシの代わりに、ね?」

 だからどちらかといえば、そのずさんな理論より、切実な表情に説得させられた。

 どうしようもできなくて、これ以上私が嫌だと言えば彼女を泣かせてしまうような気がして、だから私は、それ以上何も言えなくなった。
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