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#1 実験体
06 喜ぶ顔が見たい
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俺は基本的に犬みたいな性格なので、言われたことはすぐに行う。
奴隷契約がどうのこうのという割に、奴隷はどっちだよという話だ。
思わず乾いた笑みが零れた。
さてココアは、研究所の購買部で売っている。
昼時はそれなりに職員で混雑するのだが、日も暮れかかっているせいか客は少なかった。
嗜好品なのでそれなりに高額だが、買えないほどではない。
俺もたまに飲むし、料理にも使う。
棚の前で彼女の笑顔を思い出し、衝動的に大量購入したいと思ってしまった。しかし、こういう時は常識的な量と質にすべきだということはよく分かっている。
付き合ってもいない女性に、金の指輪を渡してドン引きされたのはまだ記憶に新しい。
下手に高級品とかは良くない。
このくらいが丁度いい。
俺は自室に戻って、ココアを丁寧に鍋で温めてドリンクを作った。
甘い香りがする。
この香りを感じるたびに、彼女のことを思い出すんだろうなぁとかそんなことを考える。
「先輩ったら献身的ですねぇ」
「そりゃ、まあ……別に、変じゃないだろ?」
「さあ、どうでしょうねぇ。先輩は世間知らずですから」
俺はマグカップを一つと一緒に、ココア入りの水筒を紙袋の中に入れた。
「そりゃ、俺は世間知らずかもしれないけど……」
おかしくはない、と俺は何度か自分の行動を振り返る。
今回ばかりは不安要素はない。俺は大概頭がおかしいけど今日はおかしくない。
「……大丈夫だよな」
「どうでしょうねぇ」
俺はそのまま部屋を出た。
収容室までは、そこまで距離はない。数分で着く。少し早足になった。
廊下を渡り、収容室のある棟が見えてた頃に気づけば、小さく肩で息をしている。
……いや、そういうものだろ。すげえ可愛かったもん。
そりゃ早く持って行きたいよ。可愛いし。すごく可愛いし。
「なあ、そうだよな?」
「私に聞かないでくださいよ。なんなんですか」
ついさっき去ったはずの俺が再び現れたことでさすがに驚いたのか、彼女は少しキョトンとして、それを誤魔化すようにムッとしていた。
「ああ、いや、こっちの話……」
俺は目を逸らす。
「ほら、これ。持ってきたよ」
「え、もうですか?」
「ああ、うん……ついでだよ、ついでに」
と、自分でも理由の分からないままに俺は適当に誤魔化す。
彼女は少し怪しみながらも、檻の隙間から差し出された袋を受け取った。
「……」
当たり前だが、彼女の肌は指先まで浅黒かった。
指先は荒れていて、その細い指でくるくると水筒の蓋を開ける。
ふわ、とチョコレートみたいな甘い香りが狭い部屋の中に広がった。
彼女は嬉しそうに目を細めて、カップを両手で持ってふぅふぅと息を吹きかける。
カップの上に舞う、甘い煙がゆらゆら消えては、再び現れる。
「熱いか?」
「……大丈夫です」
彼女は唇を触れさせるようにして小さくカップを食んで、恐る恐る一口口に含む。
「美味しい……」
「本当か? 良かった!」
「……どうして貴方が喜ぶんですか?」
「そりゃ、お前が喜んでくれるなら俺も嬉しいよ。当たり前だろ?」
「変な人ですね」
彼女は呟くようにそう言った。
「また持って来ようか?」
「……ええ」
彼女は自分の手の中にあるカップに目を落とし、小さく頷く。
「貴方は変わった人ですね」
と彼女は再びそう言った。
侮蔑の籠ったような視線じゃなくて、どこか悲しそうな顔をしていて、思わずドキッとする。
「あ、ああ……そうかもな。よく言われるよ。その……俺は世間知らずなんだ」
しかし彼女は、そういう意味で言ったのではありません、と言う。
「世間知らずというなら、私の方がそうですよ。私はずっとこの研究所に居ましたから」
「ずっと? ここの職員だったのか?」
「いいえ。この場所で生まれ育ちました」
「……そういえば、聞いてもいいか? どういう経緯で、実験体になんてなったのか……」
彼女は少しだけ迷う素振りを見せてから、適切な情報を選び取るかのようにゆっくりと、俺の顔を見ながら言う。
「私は実験によって生み出された人工生命体です。ご存じないんですか?」
「お前のことはほとんど……知らない。実験内容も詳しくは知らされてないんだ。人間じゃないのか?」
「少なくとも、人間から生み出されたわけではありませんから、人ではないと言っておきます」
綺麗な赤い瞳をしている。
そう聞かされても、俺には人間にしか見えなかった。
「ごめんな、変なこと聞いて……あんま実感ないな、その……俺には、普通っていうか、ただの人間に見えるよ」
「そうですか。……貴方のように綺麗な方は羨ましいと思います」
「別に羨ましがることないだろ、お前は綺麗だよ、可愛いし」
「貴方は変わってるんですね」
再三繰り返して彼女は言うが、そこには先ほどまでの蔑むような感じはなかった。
ただ単純に不思議がっているような風だ。
「可愛いだなんて、生まれて初めて言われました」
「そんなことないだろ。誰だって子供のころは多かれ少なかれ可愛い可愛いともてはやされた時代があるものだよ」
「私に子供時代はありません。生まれてから、ずっとこの姿です」
「え? そうなのか? もしかして、俺よりだいぶ年上だったりするか?」
「少なくとも貴方よりは年下ですよ。私は約七年前に生み出されました。言語能力は、貴方と同じくらいでしょうけれど。貴方はおいくつなんですか?」
どうやら俺にも少々興味を持ってくれたらしいと思って、俺は嬉しかった。自分ばかり質問攻めに遭っているのが気に食わなかっただけかもしれないけど。
「俺は三十八だよ。糸が長いみたいで、若く見えるだろうけど」
しかし、彼女はキョトンとして聞き返す。
「……糸? 糸とはなんですか?」
「知らないのか?」
「裁縫に使うものだと認識しています。どうして若く見えるとか、それと関係あるんですか?」
「えっと……天寿ってわかるか? 天に定められた、生まれながらの寿命のことだ。糸みたいに見えるから、糸って呼ばれてる」
「いつ死ぬかが分かるんですか?」
「いつ死ぬかっていうより、いつまで生きられるか……だな。殺されたり、病気で早死することもあるから」
「どこにあるんです? 私にもありますか?」
彼女は矢継ぎ早に俺に尋ねてくる。
俺としては至極当たり前の常識みたいなものなので、何故そんなに食いつかれるのかがよく分からなかった。
他の知識は与えられてるのに、どうして糸のことは知らないんだろう。
実験体だし、そういうところは、上手くいってなかったんだろうか。
というか、首輪のことも知ってたよな?
「いやでも、お前、首輪のこと知ってたんだろ?」
「ええ、知っていますよ。天寿を縛るというのがよく分かりませんでしたが」
「糸の知識だけ抜け落ちてるのか?」
「そうですね。私には見えませんが、どこかに隠れているんですか?」
彼女は興味津々で俺に聞いてきた。
「いや、俺にも見えないよ……使徒に見て貰うとかしないと。お前にあるかどうかは、よく分からないけど……知りたいのか?」
「知りたいです。私の体は、生まれてからずっと変化しないんです。だからいつ死ぬかも、よく分かっていません。実験が打ち切られたとき、私に関する記録は削除されてしまいました。だから少し気になるんです。貴方はいつ死ぬんですか?」
すごい直球に聞いてくるな、この子……いや、糸に関する常識はないんだろうから仕方ないんだろうけど……
「だいたい二百年くらい生きられるらしい。しっかり調べれば、もう少し詳しく分かるだろうけどな。……あー、あと、俺は全然いいんだけど、あんまり他の人には聞かない方がいいからな? 一応、あんまり大っぴらにするものじゃないし。俺は気にしないけど、急に殴られたりするから」
「そうなんですね。分かりました、気を付けます」
少ししゅんとした様子で、彼女は頷いた。
なんだこの子すげえ素直だし可愛いな。マジでただの人間に見える。
いや、人間じゃなくても愛せる。
「……あ、そういえば、俺……お前の名前知らないな。名前教えてくれないか?」
「私の名前は5924ですよ。それ以外にはありません」
「じゃあ、俺が何か考えてもいい?」
「私の名前をですか?」
「5924じゃあんまりだろ?」
「私は気に入っていますよ」
「俺は気に入らないの。な? いいだろ?」
「……別に勝手にすればいいじゃありませんか。それより、私はまだ貴方の名前を聞いていません」
「そうだったか? ごめん、俺はブロウっていうんだ。ここの職員だよ。仕事は雑用みたいなものだな。ブロウって呼んでくれ」
「そうですか。ブロウ、ですね。分かりました」
彼女はそう言って、またカップの中にココアを注いだ。
「ブロウは、とてもおいしいココアを持ってきてくれますね。貴方と仲良くすれば、私は毎日これを飲むことができます。だから、明日からも少しくらいは会いに来てもいいですよ」
変に理屈っぽく言うのがおかしくて、俺はつい笑ってしまった。
ツンデレって奴だろうか。ちょっとは心開いてくれたみたいだな。
「ココア以外はいらないのか?」
「他にも持ってきてくれるんですか?」
「そりゃ、俺にできる限りはな」
「ですが、私は他の飲み物や、食べ物を見たことがありません。ココアで十分です」
「別に食い物じゃなくてもいいだろ」
「私が興味を抱くのは、今のところ食べ物だけです」
生まれながらにかなりの知識や常識は教えられていて、知っていたんだろう。
俺の知らない間に、随分大がかりな実験をやっていたらしい。
「それなら、何か欲しいものあるのか?」
「……今すぐには思いつきません。それよりココアがいいです」
「じゃ、次来るときに、何か持ってきてやるよ。ココアと一緒にな」
「はい、分かりました」
彼女は少し微笑むくらいには、柔らかくそう言う。
ココアくらいで、随分態度が軟化してくれた。頑張って作って良かったな。
ところで、収容室の管理は俺の仕事じゃないからよく分からないが、彼女のようなヒト型の実験体はどう扱われるのだろう。
まさか、処分対象だから食事は抜き、とか言わないよな?
仮にも人間だし、そんな残酷なことはしないと思うけど……いや、可能性はあるな。
だとすれば、食事も持って来た方がいいだろう。
何がいいかなとか、考えるだけで胸が弾む。
奴隷契約がどうのこうのという割に、奴隷はどっちだよという話だ。
思わず乾いた笑みが零れた。
さてココアは、研究所の購買部で売っている。
昼時はそれなりに職員で混雑するのだが、日も暮れかかっているせいか客は少なかった。
嗜好品なのでそれなりに高額だが、買えないほどではない。
俺もたまに飲むし、料理にも使う。
棚の前で彼女の笑顔を思い出し、衝動的に大量購入したいと思ってしまった。しかし、こういう時は常識的な量と質にすべきだということはよく分かっている。
付き合ってもいない女性に、金の指輪を渡してドン引きされたのはまだ記憶に新しい。
下手に高級品とかは良くない。
このくらいが丁度いい。
俺は自室に戻って、ココアを丁寧に鍋で温めてドリンクを作った。
甘い香りがする。
この香りを感じるたびに、彼女のことを思い出すんだろうなぁとかそんなことを考える。
「先輩ったら献身的ですねぇ」
「そりゃ、まあ……別に、変じゃないだろ?」
「さあ、どうでしょうねぇ。先輩は世間知らずですから」
俺はマグカップを一つと一緒に、ココア入りの水筒を紙袋の中に入れた。
「そりゃ、俺は世間知らずかもしれないけど……」
おかしくはない、と俺は何度か自分の行動を振り返る。
今回ばかりは不安要素はない。俺は大概頭がおかしいけど今日はおかしくない。
「……大丈夫だよな」
「どうでしょうねぇ」
俺はそのまま部屋を出た。
収容室までは、そこまで距離はない。数分で着く。少し早足になった。
廊下を渡り、収容室のある棟が見えてた頃に気づけば、小さく肩で息をしている。
……いや、そういうものだろ。すげえ可愛かったもん。
そりゃ早く持って行きたいよ。可愛いし。すごく可愛いし。
「なあ、そうだよな?」
「私に聞かないでくださいよ。なんなんですか」
ついさっき去ったはずの俺が再び現れたことでさすがに驚いたのか、彼女は少しキョトンとして、それを誤魔化すようにムッとしていた。
「ああ、いや、こっちの話……」
俺は目を逸らす。
「ほら、これ。持ってきたよ」
「え、もうですか?」
「ああ、うん……ついでだよ、ついでに」
と、自分でも理由の分からないままに俺は適当に誤魔化す。
彼女は少し怪しみながらも、檻の隙間から差し出された袋を受け取った。
「……」
当たり前だが、彼女の肌は指先まで浅黒かった。
指先は荒れていて、その細い指でくるくると水筒の蓋を開ける。
ふわ、とチョコレートみたいな甘い香りが狭い部屋の中に広がった。
彼女は嬉しそうに目を細めて、カップを両手で持ってふぅふぅと息を吹きかける。
カップの上に舞う、甘い煙がゆらゆら消えては、再び現れる。
「熱いか?」
「……大丈夫です」
彼女は唇を触れさせるようにして小さくカップを食んで、恐る恐る一口口に含む。
「美味しい……」
「本当か? 良かった!」
「……どうして貴方が喜ぶんですか?」
「そりゃ、お前が喜んでくれるなら俺も嬉しいよ。当たり前だろ?」
「変な人ですね」
彼女は呟くようにそう言った。
「また持って来ようか?」
「……ええ」
彼女は自分の手の中にあるカップに目を落とし、小さく頷く。
「貴方は変わった人ですね」
と彼女は再びそう言った。
侮蔑の籠ったような視線じゃなくて、どこか悲しそうな顔をしていて、思わずドキッとする。
「あ、ああ……そうかもな。よく言われるよ。その……俺は世間知らずなんだ」
しかし彼女は、そういう意味で言ったのではありません、と言う。
「世間知らずというなら、私の方がそうですよ。私はずっとこの研究所に居ましたから」
「ずっと? ここの職員だったのか?」
「いいえ。この場所で生まれ育ちました」
「……そういえば、聞いてもいいか? どういう経緯で、実験体になんてなったのか……」
彼女は少しだけ迷う素振りを見せてから、適切な情報を選び取るかのようにゆっくりと、俺の顔を見ながら言う。
「私は実験によって生み出された人工生命体です。ご存じないんですか?」
「お前のことはほとんど……知らない。実験内容も詳しくは知らされてないんだ。人間じゃないのか?」
「少なくとも、人間から生み出されたわけではありませんから、人ではないと言っておきます」
綺麗な赤い瞳をしている。
そう聞かされても、俺には人間にしか見えなかった。
「ごめんな、変なこと聞いて……あんま実感ないな、その……俺には、普通っていうか、ただの人間に見えるよ」
「そうですか。……貴方のように綺麗な方は羨ましいと思います」
「別に羨ましがることないだろ、お前は綺麗だよ、可愛いし」
「貴方は変わってるんですね」
再三繰り返して彼女は言うが、そこには先ほどまでの蔑むような感じはなかった。
ただ単純に不思議がっているような風だ。
「可愛いだなんて、生まれて初めて言われました」
「そんなことないだろ。誰だって子供のころは多かれ少なかれ可愛い可愛いともてはやされた時代があるものだよ」
「私に子供時代はありません。生まれてから、ずっとこの姿です」
「え? そうなのか? もしかして、俺よりだいぶ年上だったりするか?」
「少なくとも貴方よりは年下ですよ。私は約七年前に生み出されました。言語能力は、貴方と同じくらいでしょうけれど。貴方はおいくつなんですか?」
どうやら俺にも少々興味を持ってくれたらしいと思って、俺は嬉しかった。自分ばかり質問攻めに遭っているのが気に食わなかっただけかもしれないけど。
「俺は三十八だよ。糸が長いみたいで、若く見えるだろうけど」
しかし、彼女はキョトンとして聞き返す。
「……糸? 糸とはなんですか?」
「知らないのか?」
「裁縫に使うものだと認識しています。どうして若く見えるとか、それと関係あるんですか?」
「えっと……天寿ってわかるか? 天に定められた、生まれながらの寿命のことだ。糸みたいに見えるから、糸って呼ばれてる」
「いつ死ぬかが分かるんですか?」
「いつ死ぬかっていうより、いつまで生きられるか……だな。殺されたり、病気で早死することもあるから」
「どこにあるんです? 私にもありますか?」
彼女は矢継ぎ早に俺に尋ねてくる。
俺としては至極当たり前の常識みたいなものなので、何故そんなに食いつかれるのかがよく分からなかった。
他の知識は与えられてるのに、どうして糸のことは知らないんだろう。
実験体だし、そういうところは、上手くいってなかったんだろうか。
というか、首輪のことも知ってたよな?
「いやでも、お前、首輪のこと知ってたんだろ?」
「ええ、知っていますよ。天寿を縛るというのがよく分かりませんでしたが」
「糸の知識だけ抜け落ちてるのか?」
「そうですね。私には見えませんが、どこかに隠れているんですか?」
彼女は興味津々で俺に聞いてきた。
「いや、俺にも見えないよ……使徒に見て貰うとかしないと。お前にあるかどうかは、よく分からないけど……知りたいのか?」
「知りたいです。私の体は、生まれてからずっと変化しないんです。だからいつ死ぬかも、よく分かっていません。実験が打ち切られたとき、私に関する記録は削除されてしまいました。だから少し気になるんです。貴方はいつ死ぬんですか?」
すごい直球に聞いてくるな、この子……いや、糸に関する常識はないんだろうから仕方ないんだろうけど……
「だいたい二百年くらい生きられるらしい。しっかり調べれば、もう少し詳しく分かるだろうけどな。……あー、あと、俺は全然いいんだけど、あんまり他の人には聞かない方がいいからな? 一応、あんまり大っぴらにするものじゃないし。俺は気にしないけど、急に殴られたりするから」
「そうなんですね。分かりました、気を付けます」
少ししゅんとした様子で、彼女は頷いた。
なんだこの子すげえ素直だし可愛いな。マジでただの人間に見える。
いや、人間じゃなくても愛せる。
「……あ、そういえば、俺……お前の名前知らないな。名前教えてくれないか?」
「私の名前は5924ですよ。それ以外にはありません」
「じゃあ、俺が何か考えてもいい?」
「私の名前をですか?」
「5924じゃあんまりだろ?」
「私は気に入っていますよ」
「俺は気に入らないの。な? いいだろ?」
「……別に勝手にすればいいじゃありませんか。それより、私はまだ貴方の名前を聞いていません」
「そうだったか? ごめん、俺はブロウっていうんだ。ここの職員だよ。仕事は雑用みたいなものだな。ブロウって呼んでくれ」
「そうですか。ブロウ、ですね。分かりました」
彼女はそう言って、またカップの中にココアを注いだ。
「ブロウは、とてもおいしいココアを持ってきてくれますね。貴方と仲良くすれば、私は毎日これを飲むことができます。だから、明日からも少しくらいは会いに来てもいいですよ」
変に理屈っぽく言うのがおかしくて、俺はつい笑ってしまった。
ツンデレって奴だろうか。ちょっとは心開いてくれたみたいだな。
「ココア以外はいらないのか?」
「他にも持ってきてくれるんですか?」
「そりゃ、俺にできる限りはな」
「ですが、私は他の飲み物や、食べ物を見たことがありません。ココアで十分です」
「別に食い物じゃなくてもいいだろ」
「私が興味を抱くのは、今のところ食べ物だけです」
生まれながらにかなりの知識や常識は教えられていて、知っていたんだろう。
俺の知らない間に、随分大がかりな実験をやっていたらしい。
「それなら、何か欲しいものあるのか?」
「……今すぐには思いつきません。それよりココアがいいです」
「じゃ、次来るときに、何か持ってきてやるよ。ココアと一緒にな」
「はい、分かりました」
彼女は少し微笑むくらいには、柔らかくそう言う。
ココアくらいで、随分態度が軟化してくれた。頑張って作って良かったな。
ところで、収容室の管理は俺の仕事じゃないからよく分からないが、彼女のようなヒト型の実験体はどう扱われるのだろう。
まさか、処分対象だから食事は抜き、とか言わないよな?
仮にも人間だし、そんな残酷なことはしないと思うけど……いや、可能性はあるな。
だとすれば、食事も持って来た方がいいだろう。
何がいいかなとか、考えるだけで胸が弾む。
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