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第二話:屋上にて
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宣言通り、涼音は今日も迎えに来た。
いつも通りの元気さで、まるで昨日のことなどなかったかのようだ。
……目は少し赤くなっていたけれど。
授業はどこか上の空のまま過ごした。何をやっていたのか正直良く覚えていないが、転校先の学校では別の場所をやっているだろうから、あまり重要なことではないだろう。
そして四限目の途中、ポケットに入れていたスマホが振動した。教員の目を盗んでこっそりと見てみると、ロック画面に通知で、『今西里香』という名前と『昼休み、話したい事があるんだけど一人で屋上来れる?』とあった。
何の話だろう、と少々訝しく思いながらも、断る理由はないので『了解』と返した。
里香は高校から仲良くなった涼音と共通の友達だ。
共通の友達と言っても、涼音を通して仲良くなったので、涼音とはかなり親しいが俺とはそこそこといったところだ。
だからこうした誘いは本当に珍しい、というか初めてだ。一人でということは涼音は呼んでいないのだろう。なんだか嫌な予感がする。
「凌太、転校するって本当?」
「え、あ、うん」
屋上に着くなり開口一番、里香がそんなことを言った。
誰にも言ってないのにまさか里香の口から言われると思ってもみなかったので、焦って否定しそこねた。
「やっぱり本当なんだ……」
「……なんで知ってるの?」
「今日職員室に行ったときに偶然、先生が話してるのが聞こえたの。『月夜』なんて名字の人他に知らないし、ひょっとしたらって思って」
「ああ……そういう……」
思わぬところからバレるものだ。自分の名字の珍しさを初めて恨んだ。
「ねえ、このこと、涼音は知ってるの?」
心配そうな、不安そうな顔でこちらを上目遣いで覗き込みながら里香が聞く。
「まだ言えてない……」
俺の言葉を聞いた里香は、得心がいったような顔をしながらも『はぁ』と溜息をついた。
「やっぱりね……。じゃあ、もしかして昨日の告白を断ったのって……」
「涼音から聞いたのか?」
「昨日泣きながら電話かけてきたよ」
「……悪い、世話かけた」
「ううん。凌太が謝ることじゃないよ。でもさ、このままって良くないよ。絶対に良くない」
「わかってる」
「それなら私もこれ以上は言わない。でももう時間ないんでしょ? 早めにいいなよ? 私からは黙っておくから」
「ああ」
「それじゃ、これで。――きゃっ!」
「おっと」
歩き出そうとした里香が石畳の出っ張りに躓いて転びそうになったところを、辛うじて受け止める。思いがけず抱き合うような体勢になってしまった。遠くの方でガタリと音が聞こえた気がした。
羞恥から顔を真っ赤にした里香が慌てて俺から離れる。
「ご、ごめん。じゃあね!」
里香は弾かれたように駆け出して屋上を後にする。おいおい、また転ぶなよ。
しかし、これでいよいよ本当に逃げ場がなくなってしまったな。
屋上から見えるどこまでも透き通った青空は俺の複雑な心境を小馬鹿にしているかのようでどこか憎々しく思えた。
いつも通りの元気さで、まるで昨日のことなどなかったかのようだ。
……目は少し赤くなっていたけれど。
授業はどこか上の空のまま過ごした。何をやっていたのか正直良く覚えていないが、転校先の学校では別の場所をやっているだろうから、あまり重要なことではないだろう。
そして四限目の途中、ポケットに入れていたスマホが振動した。教員の目を盗んでこっそりと見てみると、ロック画面に通知で、『今西里香』という名前と『昼休み、話したい事があるんだけど一人で屋上来れる?』とあった。
何の話だろう、と少々訝しく思いながらも、断る理由はないので『了解』と返した。
里香は高校から仲良くなった涼音と共通の友達だ。
共通の友達と言っても、涼音を通して仲良くなったので、涼音とはかなり親しいが俺とはそこそこといったところだ。
だからこうした誘いは本当に珍しい、というか初めてだ。一人でということは涼音は呼んでいないのだろう。なんだか嫌な予感がする。
「凌太、転校するって本当?」
「え、あ、うん」
屋上に着くなり開口一番、里香がそんなことを言った。
誰にも言ってないのにまさか里香の口から言われると思ってもみなかったので、焦って否定しそこねた。
「やっぱり本当なんだ……」
「……なんで知ってるの?」
「今日職員室に行ったときに偶然、先生が話してるのが聞こえたの。『月夜』なんて名字の人他に知らないし、ひょっとしたらって思って」
「ああ……そういう……」
思わぬところからバレるものだ。自分の名字の珍しさを初めて恨んだ。
「ねえ、このこと、涼音は知ってるの?」
心配そうな、不安そうな顔でこちらを上目遣いで覗き込みながら里香が聞く。
「まだ言えてない……」
俺の言葉を聞いた里香は、得心がいったような顔をしながらも『はぁ』と溜息をついた。
「やっぱりね……。じゃあ、もしかして昨日の告白を断ったのって……」
「涼音から聞いたのか?」
「昨日泣きながら電話かけてきたよ」
「……悪い、世話かけた」
「ううん。凌太が謝ることじゃないよ。でもさ、このままって良くないよ。絶対に良くない」
「わかってる」
「それなら私もこれ以上は言わない。でももう時間ないんでしょ? 早めにいいなよ? 私からは黙っておくから」
「ああ」
「それじゃ、これで。――きゃっ!」
「おっと」
歩き出そうとした里香が石畳の出っ張りに躓いて転びそうになったところを、辛うじて受け止める。思いがけず抱き合うような体勢になってしまった。遠くの方でガタリと音が聞こえた気がした。
羞恥から顔を真っ赤にした里香が慌てて俺から離れる。
「ご、ごめん。じゃあね!」
里香は弾かれたように駆け出して屋上を後にする。おいおい、また転ぶなよ。
しかし、これでいよいよ本当に逃げ場がなくなってしまったな。
屋上から見えるどこまでも透き通った青空は俺の複雑な心境を小馬鹿にしているかのようでどこか憎々しく思えた。
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