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第四十話(終):俺と元カノと後輩
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「(ねえ……あの人だよ……)」
「(ああ……例の……)」
学食で飯を食っていると、女子二人がこちらを見て何やらこそこそと話しているのに気が付いた。
そちらの方を向くと、何事もなかったかのように急に動き出し、足早にどこかへ行ってしまった。
俺は視線を、目の前に座ってラーメンを食っている修平の元へと戻す。
「……なあ、修平よ」
「ん? どうした?」
修平は手を止め、顔をあげた。
「なんか俺最近、陰口を叩かれてることが多い気がするんだけど――」
「何か知らない?」と言外に匂わすと、修平は「なんだそんなことか」と言わんばかりに軽く「ああ」と頷いて口を開く。
「そりゃあお前、あれだろ。最近噂されてるからな」
「噂?」
「ああ。元カノと後輩の美女二人をキープしてるクズ野郎だってさ」
「――はぁっ!?」
思いがけない言葉に、つい声を荒げてしまった。
その様子を見た修平は、愉快そうに笑って続きを話す。
「いやさ、お前はそのつもりじゃないかもしれねえけど、傍からみるとそのまんまだぞ。心当たり……あるだろ?」
修平はニヤリと笑い、俺はうっとたじろぐ。
「いやまあ、そう見えるかもしれないけどさあ……」
「まーまー。そのくらいの評価は甘んじて受け入れろ。そのくらいじゃないと釣り合いがとれねえよ」
言いたいことはわかるが納得できないでいると、修平が「お、噂をすればさっそく」と言ったので、そちらの方を見る。
すると同時に「おーい! 先ぱーいっ!」と俺を見つけたらしい藍那が手を振って、駆け寄ってきた。
そしてもう一人――。
「智樹、隣空いてるよね?」といつの間にか近くまで来ていた紗香が、当然のように隣へと座った。
それを見たらしい藍那は、即座に歩調を早めて近づいて来た。
「出たな、元カノ! そうやっていっつも『ここが私の指定席ですけど?』みたいな顔して座らないでください!」
「ちゃんと『後藤先輩』って呼びなよ。私、元カノって名前じゃないし」
「どの口がそれ言うの!? 私のこともずっと『後輩』って呼んでるくせに! 私にはちゃんと都築藍那っていう名前があるんです! ほら、呼んでみてくださいよ!」
「なんか嫌」
「なんでぇ!?」
憤慨する藍那に、俺が「まあまあ」と宥めると「先輩は黙っててください!」と返されたのでさっさと離れた。
……なんか納得いかねえ。
「一回あなたとはちゃんと話をしないといけないと思ってたんだよね」
「それは私のセリフです!」
「じゃあいい機会だし、これからにしようか。時間ある?」
「ええ、いいですよっ! 受けて立ちます!」
「と、そういうことだから、智樹も来て」
「俺も?」
「だってもしものときは止める役割がいないといけないでしょ」
俺は修平に悪いと手を合わせて合図すると、修平はひらひらと手を振って返してくれた。
さっさと行け、とでも言っているのだろう。
すまん、ありがとう。
俺を置いていく勢いで二人は足早に歩いていく。
慌てて食器を下げに行き、駆け足で追いかけた。
「どうせなら、ゆっくり話せるところがいいよね。どこにする?」
「あ、それなら私、いいところ知ってますよ」
「――奇遇だね。私も多分そこ、知ってる」
二人は顔を見合わせて笑い、揃ってこちらを振り返って言った。
「じゃあ、行こうか」「行きましょっ!」
「……どこに?」
訝しむ俺に、「そんなの決まってるでしょ」と紗香。
そして自然と揃った声で言う。
「智樹の家だよ」「先輩の家です」
《了》
「(ああ……例の……)」
学食で飯を食っていると、女子二人がこちらを見て何やらこそこそと話しているのに気が付いた。
そちらの方を向くと、何事もなかったかのように急に動き出し、足早にどこかへ行ってしまった。
俺は視線を、目の前に座ってラーメンを食っている修平の元へと戻す。
「……なあ、修平よ」
「ん? どうした?」
修平は手を止め、顔をあげた。
「なんか俺最近、陰口を叩かれてることが多い気がするんだけど――」
「何か知らない?」と言外に匂わすと、修平は「なんだそんなことか」と言わんばかりに軽く「ああ」と頷いて口を開く。
「そりゃあお前、あれだろ。最近噂されてるからな」
「噂?」
「ああ。元カノと後輩の美女二人をキープしてるクズ野郎だってさ」
「――はぁっ!?」
思いがけない言葉に、つい声を荒げてしまった。
その様子を見た修平は、愉快そうに笑って続きを話す。
「いやさ、お前はそのつもりじゃないかもしれねえけど、傍からみるとそのまんまだぞ。心当たり……あるだろ?」
修平はニヤリと笑い、俺はうっとたじろぐ。
「いやまあ、そう見えるかもしれないけどさあ……」
「まーまー。そのくらいの評価は甘んじて受け入れろ。そのくらいじゃないと釣り合いがとれねえよ」
言いたいことはわかるが納得できないでいると、修平が「お、噂をすればさっそく」と言ったので、そちらの方を見る。
すると同時に「おーい! 先ぱーいっ!」と俺を見つけたらしい藍那が手を振って、駆け寄ってきた。
そしてもう一人――。
「智樹、隣空いてるよね?」といつの間にか近くまで来ていた紗香が、当然のように隣へと座った。
それを見たらしい藍那は、即座に歩調を早めて近づいて来た。
「出たな、元カノ! そうやっていっつも『ここが私の指定席ですけど?』みたいな顔して座らないでください!」
「ちゃんと『後藤先輩』って呼びなよ。私、元カノって名前じゃないし」
「どの口がそれ言うの!? 私のこともずっと『後輩』って呼んでるくせに! 私にはちゃんと都築藍那っていう名前があるんです! ほら、呼んでみてくださいよ!」
「なんか嫌」
「なんでぇ!?」
憤慨する藍那に、俺が「まあまあ」と宥めると「先輩は黙っててください!」と返されたのでさっさと離れた。
……なんか納得いかねえ。
「一回あなたとはちゃんと話をしないといけないと思ってたんだよね」
「それは私のセリフです!」
「じゃあいい機会だし、これからにしようか。時間ある?」
「ええ、いいですよっ! 受けて立ちます!」
「と、そういうことだから、智樹も来て」
「俺も?」
「だってもしものときは止める役割がいないといけないでしょ」
俺は修平に悪いと手を合わせて合図すると、修平はひらひらと手を振って返してくれた。
さっさと行け、とでも言っているのだろう。
すまん、ありがとう。
俺を置いていく勢いで二人は足早に歩いていく。
慌てて食器を下げに行き、駆け足で追いかけた。
「どうせなら、ゆっくり話せるところがいいよね。どこにする?」
「あ、それなら私、いいところ知ってますよ」
「――奇遇だね。私も多分そこ、知ってる」
二人は顔を見合わせて笑い、揃ってこちらを振り返って言った。
「じゃあ、行こうか」「行きましょっ!」
「……どこに?」
訝しむ俺に、「そんなの決まってるでしょ」と紗香。
そして自然と揃った声で言う。
「智樹の家だよ」「先輩の家です」
《了》
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