34 / 40
第三十四話:後輩とデート part 1
しおりを挟む
「と、智樹くん……? ここ、いいところなんじゃ……」
予約していた店まで連れてきたのはいいが、藍那は店に入る前からしり込みしてしまった。
「そんなことないって」
笑いながら言うと、藍那はおそるおそるといったふうだったがようやく着いて来た。
店内は薄暗く落ち着いた雰囲気で、テーブルや椅子、照明にいたるまでどことなく品を感じさせるものばかりだった。
名前を伝えると、予約してあった席まで案内された。
席に着いてもなお、藍那はきょろきょろと落ち着かないように視線を彷徨わせていた。
「絶対いいところだ……。智樹くんに騙された……」
「せっかくのデートだからな」
「だからって――」
「ま、ネタばらしすると、確かにこういう店は夜に来ると結構する。けど、ランチならそうでもないんだよ」
「……そうなんですか?」
「なんなら、この前初めて酒飲んだ居酒屋の方がもっとかかるぞ」
実際のところ、ここのランチコースは一人約三千円。
昼食代として考えれば少々値が張るが、デート代として考えればそんなものだろう。
こういう店にディナーで来れば、平気で一人七、八千円――下手すると一万円以上かかる。
だから質の高い料理を比較的安価で食べられるランチは、お金のない大学生にとって強い味方なのだった。
まあ藍那はこの前大学生になったばかりだし、そこのところの感覚がなくても不思議ではないか。
高校生のうちにこういうところはほとんど来ないだろうし。
「――ん。美味しいっ!」
運ばれてきた前菜に、藍那は舌鼓を打った。
それまでは緊張していた様子の藍那だったが、料理への好奇心が勝ったのか、表情が目に見えて明るくなった。
その様子にほっとしつつ、俺も一口食べる。うん、美味いな。
「次は何ですかねー?」
「確かスープ、魚料理、肉料理、デザート……だったと思う」
「へー! 楽しみですね! 実はコース料理ってほとんど食べたことないんですよ。智樹くんはこういうところ、結構慣れてるんですか?」
「慣れてるってほどじゃないけど、初めてってわけでもないな。数回くらいだよ」
「なるほど。じゃあ……お恥ずかしながら私、テーブルマナーとか全然わかんないんで、よかったら教えてくれませんか?」
「ああ、いいよ。わかる範囲で、だけどな」
△▼△▼△
「智樹くん、いくらでした?」
「んー……まあ、別にいいだろ」
適当にはぐらかしたが、どうやら藍那はお気に召さなかったらしい。
「いーえ! 絶対ダメです! 半分出させてください。私たち、二人とも大学生じゃないですか。こういうのはきっちりしておかないと」
こういうところ、意外と真面目だよな。
「いや、いいって。それならさ、あとで飲み物でも奢ってくれよ」
「でも……」
「いいから。そのくらいカッコつけさせろって。一応彼氏だし、先輩なんだぞ」
「……ありがとうございます。でも、絶対飲み物は奢りますからね? 拒否ったら嫌ですよ?」
「わかってるって」
車を走らせつつ、藍那に問う。
「そういえば、どこか行きたいところあるか?」
「んー、智樹くん、この先は特に予定はなし?」
「一応、いくつか候補はあるけど、藍那が行きたいところあったらそこでいいかな。絶対に行きたいってほどでもないし」
市内の大きな美術館で面白そうな展示をやっていたし、行ってみるのも悪くない。
そろそろ夏物の服のバーゲンが始まる時期だし、ファッションビルをぶらつくのもいいだろう。
近隣の観光地を巡ってもいい。
選択肢はいくらでもあった。
「それなら……わがまま言ってもいいですか?」
「いいよ、何?」
「映画観たいです」
「――映画?」
「はい。最近私たち、家で配信見ること多かったじゃないですか? その中で最新作が今日公開のものがあって――」
「ああ、あれか」
そういえばテレビで何度か宣伝を見た。
前作よりもさらに映像描写に磨きがかかっており、ワンシーン観るだけでわくわくした。
「わかりました? 観に行きましょうよ! 続き、気になっちゃってるんですよね、都築だけに!」
唐突にぶち込まれた冗談に、どう反応していいかわからず、沈黙してしまった。
場がしんと静まりかえる。
五秒、十秒と時が過ぎ……苦し紛れに「ハハッ」と空笑いすると、それを聞いた藍那がおずおずと口を開いた。
「……ごめんなさい。今の忘れてください……」
「…………面白かったぞ?」
「やめてください。居た堪れなくなりますから……。そ、そう! そんなことよりですね――」
誤魔化すように矢継ぎ早に次々と話題を出す藍那にあわせるように、俺も声を少し明るくして話す。
お互いに空回りする空気が元の俺たちのものに戻る頃、諮ったかのように映画館へと到着した。
予約していた店まで連れてきたのはいいが、藍那は店に入る前からしり込みしてしまった。
「そんなことないって」
笑いながら言うと、藍那はおそるおそるといったふうだったがようやく着いて来た。
店内は薄暗く落ち着いた雰囲気で、テーブルや椅子、照明にいたるまでどことなく品を感じさせるものばかりだった。
名前を伝えると、予約してあった席まで案内された。
席に着いてもなお、藍那はきょろきょろと落ち着かないように視線を彷徨わせていた。
「絶対いいところだ……。智樹くんに騙された……」
「せっかくのデートだからな」
「だからって――」
「ま、ネタばらしすると、確かにこういう店は夜に来ると結構する。けど、ランチならそうでもないんだよ」
「……そうなんですか?」
「なんなら、この前初めて酒飲んだ居酒屋の方がもっとかかるぞ」
実際のところ、ここのランチコースは一人約三千円。
昼食代として考えれば少々値が張るが、デート代として考えればそんなものだろう。
こういう店にディナーで来れば、平気で一人七、八千円――下手すると一万円以上かかる。
だから質の高い料理を比較的安価で食べられるランチは、お金のない大学生にとって強い味方なのだった。
まあ藍那はこの前大学生になったばかりだし、そこのところの感覚がなくても不思議ではないか。
高校生のうちにこういうところはほとんど来ないだろうし。
「――ん。美味しいっ!」
運ばれてきた前菜に、藍那は舌鼓を打った。
それまでは緊張していた様子の藍那だったが、料理への好奇心が勝ったのか、表情が目に見えて明るくなった。
その様子にほっとしつつ、俺も一口食べる。うん、美味いな。
「次は何ですかねー?」
「確かスープ、魚料理、肉料理、デザート……だったと思う」
「へー! 楽しみですね! 実はコース料理ってほとんど食べたことないんですよ。智樹くんはこういうところ、結構慣れてるんですか?」
「慣れてるってほどじゃないけど、初めてってわけでもないな。数回くらいだよ」
「なるほど。じゃあ……お恥ずかしながら私、テーブルマナーとか全然わかんないんで、よかったら教えてくれませんか?」
「ああ、いいよ。わかる範囲で、だけどな」
△▼△▼△
「智樹くん、いくらでした?」
「んー……まあ、別にいいだろ」
適当にはぐらかしたが、どうやら藍那はお気に召さなかったらしい。
「いーえ! 絶対ダメです! 半分出させてください。私たち、二人とも大学生じゃないですか。こういうのはきっちりしておかないと」
こういうところ、意外と真面目だよな。
「いや、いいって。それならさ、あとで飲み物でも奢ってくれよ」
「でも……」
「いいから。そのくらいカッコつけさせろって。一応彼氏だし、先輩なんだぞ」
「……ありがとうございます。でも、絶対飲み物は奢りますからね? 拒否ったら嫌ですよ?」
「わかってるって」
車を走らせつつ、藍那に問う。
「そういえば、どこか行きたいところあるか?」
「んー、智樹くん、この先は特に予定はなし?」
「一応、いくつか候補はあるけど、藍那が行きたいところあったらそこでいいかな。絶対に行きたいってほどでもないし」
市内の大きな美術館で面白そうな展示をやっていたし、行ってみるのも悪くない。
そろそろ夏物の服のバーゲンが始まる時期だし、ファッションビルをぶらつくのもいいだろう。
近隣の観光地を巡ってもいい。
選択肢はいくらでもあった。
「それなら……わがまま言ってもいいですか?」
「いいよ、何?」
「映画観たいです」
「――映画?」
「はい。最近私たち、家で配信見ること多かったじゃないですか? その中で最新作が今日公開のものがあって――」
「ああ、あれか」
そういえばテレビで何度か宣伝を見た。
前作よりもさらに映像描写に磨きがかかっており、ワンシーン観るだけでわくわくした。
「わかりました? 観に行きましょうよ! 続き、気になっちゃってるんですよね、都築だけに!」
唐突にぶち込まれた冗談に、どう反応していいかわからず、沈黙してしまった。
場がしんと静まりかえる。
五秒、十秒と時が過ぎ……苦し紛れに「ハハッ」と空笑いすると、それを聞いた藍那がおずおずと口を開いた。
「……ごめんなさい。今の忘れてください……」
「…………面白かったぞ?」
「やめてください。居た堪れなくなりますから……。そ、そう! そんなことよりですね――」
誤魔化すように矢継ぎ早に次々と話題を出す藍那にあわせるように、俺も声を少し明るくして話す。
お互いに空回りする空気が元の俺たちのものに戻る頃、諮ったかのように映画館へと到着した。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~
楠富 つかさ
青春
落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。
世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート!
※表紙はAIイラストです。
俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
お隣さん家にいる高2男子が家の中で熱唱してて、ウチまで聞こえてるのはヒミツにしておきます。
汐空綾葉
青春
両親の仕事の都合で引っ越してきた伊里瀬佳奈です。お隣さん家には、同級生の男子が住んでるみたい。仲良くなれてきたけれど、気が向いたら歌い出すみたいでウチまで聞こえてきてるのはヒミツにしておきます。
おっぱい揉む?と聞かれたので揉んでみたらよくわからない関係になりました
星宮 嶺
青春
週間、24hジャンル別ランキング最高1位!
ボカロカップ9位ありがとうございました!
高校2年生の太郎の青春が、突然加速する!
片想いの美咲、仲の良い女友達の花子、そして謎めいた生徒会長・東雲。
3人の魅力的な女の子たちに囲まれ、太郎の心は翻弄される!
「おっぱい揉む?」という衝撃的な誘いから始まる、
ドキドキの学園生活。
果たして太郎は、運命の相手を見つけ出せるのか?
笑いあり?涙あり?胸キュン必至?の青春ラブコメ、開幕!
魔法少女の敵なんだが魔法少女に好意を寄せられて困ってる
ブロッコリークイーン
青春
この世界では人間とデスゴーンという人間を苦しめることが快楽の悪の怪人が存在している。
そのデスゴーンを倒すために魔法少女が誕生した。
主人公は人間とデスゴーンのハーフである。
そのため主人公は人間のフリをして魔法少女がいる学校に行き、同じクラスになり、学校生活から追い詰めていく。
はずがなぜか魔法少女たちの好感度が上がってしまって、そしていつしか好意を寄せられ……
みたいな物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる