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第三話:元カノとGW計画

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「ただいまー」
「おかえり。もうすぐ出来るから向こう片付けといてよ。あ、外から帰ってきたんだから、まずは手を洗ってね」
「おかんかな?」

 ツッコミつつ、素直に手を洗う。
 片付けは雑誌を少しどかすくらいなので、すぐに終わった。

「よし、出来た。――はい、おまちどうさま」
「おー! めっちゃ綺麗に出来てるな!」
「ふふん。どんなもんよ」

 胸を張ってドヤ顔をきめる紗香。

「さすがだわ。なあ、食っていいか?」
「はいはい、ちょっと待ってね。――よし、いいよ。はい、いただきます」
「いただきます」

 冷蔵庫から二人分の麦茶を持ってきた紗香と食卓について唱和する。
 まず麦茶で軽く喉を潤してから、オムライスの卵を割る作業にかかった。

 スプーンで切れ込みを入れると、真ん中でさけた卵がとろりと両側に覆いかぶさった。
 ちょうどいい固まり具合で、いかにも食欲をそそる。
 上からケチャップをかけ、食べ始めた。

「うまっ」

 つい口に出し、スプーンをすすめる。
 卵もケチャップライスも程よい加減で味付けされており、とても美味しかった。

 一心不乱に掻きこんでいると、あっという間に食べ終わってしまった。

 はぁー……と一息つくと、やや呆れたような顔をした紗香と目が合った。

「相変わらず美味しそうに食べるね。そんなふうに食べてもらえると、作り手冥利につきるよ」
「実際、美味いからな。ほら、紗香も冷めないうちにさっさと食ったほうがいいぞ」
「私はそんなに早く食べられないからゆっくり食べるよ。――そういえば、何しにコンビニに行ってたの?」
「観光情報が載った雑誌買ってきたんだよ。ほら、ゴールデンウィークの話してただろ」
「え、本当に? ありがとね」
「あとシュークリームも買ってきたし、食後に雑誌見ながら一緒に食べようぜ。コーヒー淹れる準備しとくわ」
「ありがと。でも私、紅茶がいいな。まだティーバッグ残ってたよね?」
「へいへい」

 立ち上がり、キッチンへ行ってケトルにお湯を入れ、スイッチを押した。
 しばらくしてコポコポと音が聞こえてくる。
 沸き上がると、一旦カップを温めてからお湯を捨て、バッグをカップに入れてお湯に浸した。
 しっかり蒸らしながら既定の時間を待ち、軽く振ったバッグを取り出して完成だ。

 ちなみに俺は何でもいいので、インスタントコーヒーを適当に入れて終わり。

 買ってきたシュークリームを皿に載せ替えていると、食べ終わったらしい紗香が皿を持ってキッチンへとやってきた。

「ありがと、智樹。お皿洗っちゃうから、先に向こう行ってて」
「そんなん後で俺がやるし、一緒に行こうぜ。せっかくの紅茶が冷めるぞ」
「うーん……じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。ありがとね」
「こっちは作ってもらったんだから当たり前。じゃ、シュークリームの方よろしくな」

 カップ二客をお盆に載せて運ぶ。
 シュークリームの皿までは載らないので、そちらは紗香に任せた。

「――さ、早いとこ決めようぜ」
「急に乗り気じゃん」
「そりゃあ、せっかく遊びに行くんなら、楽しまないと損だろ」
「うんうん。そういう切替の早さは智樹のいいところだね。じゃあ――」

 雑誌の特集記事を見ながら、それぞれ意見を言っていく。
 だけどなかなか決まらない。

 テーマパークやアウトレットは人がごった返しそうだから却下。
 かと言って二人でキャンプしたり、潮干狩りしたりするのも何か違う。
 そもそも、付き合ってる頃にすらしたことないし。

「意外と決まんねえなあ」
「二人の希望合わせるとどうしてもねー。――あ、そうだ」
「ん? どうした?」
「智樹、パソコン借りれる?」
「ああ、いいけど」

 紗香はデスクの上でスリープモードになっていたノートパソコンを持ってくると、ブラウザから旅行サイトを開いて何やら検索し始めた。
 覗いてみると――。

「温泉か」
「そう、温泉。それほど混雑してないし、旅行した感はあるし、いいかと思って。ゴールデンウィーク料金だからちょっと高いけど、私から誘ったんだし多めに出すよ」
「いや、別に切迫してるわけじゃないからそこまでしなくてもいいけどさ」

 最後に行ったのはいつだっけ。あれは確か別れる前の夏頃だから……もう半年以上前だ。

「でもさ、紗香はその……いいのか?」
「いいって何が?」
「何って、付き合ってもない男と二人で温泉なんて」
「他の男となら奢りって言われても行かないけど、智樹だし」
「そっか」

 そんなもんか。
 じゃあ俺だけが気にしても仕方ないな。

 と、思い改めていると、紗香が妙に言い辛そうな様子で言った。

「智樹はその……嫌だった?」
「ん?」
「私と温泉行くのは」

 不安そうに見える。

 余計なことを言ったせいで気を遣わせてしまったかな。

「いや、全然。むしろ紗香となら男友達より気を遣わなくていいくらいだし」
「──ん。なら……よし! さ、どこにしよっか。早く決めないと予約枠埋まっちゃうよ」

 努めて明るい声で言うと、紗香はあからさまにほっとした紗香の様子を見せた。
 そのことに俺も安堵し、改めて小さなノートパソコンの画面を二人で見た。

 さっきまでより、ほんの少しだけ――近くに座って。

 恋人じゃない。
 友達とも少し違う気がする。

 それでもあえて言い表すなら、やっぱり友達としか言えないとは思う。
 だけど今は――

 ──この距離が、ただひたすらに心地良い。
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