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2,「灯」が消えたランプ
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‐1-
人間とは。
頭脳があって感情があって、二足で歩いて、規則を作って、反社会的存在を排除するものである。
その文章を書いた彼はほっと息をついた。
薄暗い部屋の中で机に頬杖をつきながらその文章を繰り返し彼は読んだ。
彼の部屋の奥にはカーテンがあり、それはひらひらと揺れていた。カーテンが揺れるたびに月明かりでほんのりとした影が浮かび上がった。
「誰だよ、窓開けたの」
彼は眉間にしわを寄せ、握っていたペンを放り投げた。
彼の足元にはくしゃくしゃに丸め込まれた紙が無数に転がっていた。
彼はいつもそうして過ごしている。誰かがやって来るのを待っている。窓を閉めようとしてもそれは閉まらず彼は光をコントロールする術を知らない。
彼のいらいらの理由は数多くあるが、そのいらいらはいつも悲しみから訪れているのであった。
‐2-
ある街に、名物な女の子がいた。彼女は、容姿端麗で男からモテた。
けれども彼女は男にそこまで興味がなかった。彼女はいつもロマンティックな恋や情熱的な愛は馬鹿げてると感じていた。
付き合っては別れ付き合っては別れを繰り返すうちに、一番最後のボーイフレンドはこういった。
「君は、人間じゃないよ。人を好きになれないんだから」
彼女はその言葉を聞いてふと笑った。「どれだけ人間から生まれ変わりたいと思ったって生まれ変われないのだから仕方がない」と。
彼女は飽き飽きしていた。恋だ愛だと騒ぐ人間という生き物に。そして自分自身も恋や愛を大事にする人間という生き物であるという事実に。
彼女は、そんなことを繰り返し考えながらも洗濯物をベランダから取り込んだ。今日は、夕方から雨が降るらしく母親から頼まれたのである。ついでに夏休みのせいで妹の面倒もちゃっかりとお願いされてしまっていた。
「ねえ、さや姉。魔法使いって知っている?」
先ほどまで夏休みの宿題をしていて静かだった妹がいきなり口を開いた。
「魔法使い?なんでそんなこと急に聞くの」
「図書館でね、魔法使いがでる本を借りてきたの。でね、魔法使いって多くの願いを叶えれるんだって。まやはね、しょう君のお嫁さんになれますようにってお願いするんだ」
彼女は妹の言葉に思わず苦笑した。
「へえ。そっか。いいお願い事だね」
「さや姉は、何お願いする?」
「うーん、なんだろ。お金持ちになれますように、とか?」
「いいねー、お金持ちになったら何しよう」
彼女はいろいろと夢を持って話す妹を見て口角を上げた。それと同時に「ごめん」と心の中でつぶやいた。
夕方になると雨がぽつぽつと降ってきて、やがて激しい雨風が吹くようになった。妹は一人でテレビを見にリビングへと行っていた。そのうち親が帰ってくる、彼女は憂鬱な気分で窓の外を眺めた。空は灰色で雨風によって窓はガタガタと振動する。稲妻が空に走って大きな音でどこかに雷が落ちた。
彼女はぼうっとして外を眺めていたが、その視界の隅でうごくものに目が留まった。
「人?」
彼女は目を凝らしてそっちの方を見やった。
そこには豆粒くらいにしか見えない人が大きく手を振っていた。このどしゃぶりの中である。彼女は怪訝な顔をしてその人を見つめた。
そして、なぜかその人はどんどん大きくなって、彼女の目の前に現れたのである。それは男性であった。短髪で小麦色に焼けた顔に白い歯がきらりとのぞいていた。彼女は息を呑むと同時に、思わずそばにあった妹のリコーダーを掴んだ。
「そんなに警戒することないじゃん」
その男性はそう言った。その声は楽し気な声で生き生きとしていた。
「君ってここらじゃ有名な女の子なんでしょ?」
「だ、…だれなの?警察呼ぶわよ」
「呼んでもいいよ、別に。ただ君が精神的におかしいと思われるだけだから」
彼女は余裕の笑みを浮かべる男性をきっとにらみつけてリコーダーをぎゅっと握りしめた。
「あなた、なんなの?いったい何が目的?金なら家にはないわよ!」
「お金?いらないよ。俺が欲しいのは君だもん」
ゴロゴロゴロと機嫌の悪い空模様の音がやけに不気味に彼女の耳に届いた。「変質者」その三文字が彼女の頭の中をぐるぐると回った。
「なに、あんたも私に馬鹿げたこというつもり?」
「馬鹿げたこと?」
「好きだ、恋したんだ、愛してる。その三単語よ」
彼女はそう吐き捨てるとごみを見るような目で男性を見つめた。「変質者」、特に恋、愛だとわめく連中であれば彼女はいつだってそういう目になってしまう。そして軽蔑してしまう。
そういう目で見れば男だって察してくれるはずだ、そんな憶測が彼女にはあった。
しかし、そんな彼女の憶測とは裏腹に、男性は乾いた声で笑った。
「君って面白いね。うん、面白いし興味深い」
彼女はその言葉にぞわぞわと身の毛がよだつのを感じた。それと同時に危険を知らせる警報音が頭の中で鳴った。逃げるべきか、はたまたリコーダーで一撃を食らわせて警察を呼ぶべきか。その瞬間、妹の顔が頭に浮かんで彼女は咄嗟に判断した。
思い切って腕を上げて、リコーダーを男性にたたきつけようとした―――。
「だけど、俺が言っているのは君を俺の女にするとかじゃないんだよ」
「え?」
男性は彼女が振りかざしておろしたはずのリコーダーをくるくると手で回しながらそう言った。何が何だかわからず混乱して彼女は目の前の男性を目を見開いて見つめることしかできなかった。
そして彼女ははたと気づいたのである。その男性の言葉に頭の中の警報音がピタリとやむと同時に不機嫌だったはずの空から一筋の光が差し込んでいることに。
「君の願い、俺が引き受けるよ」
そう、男性が静かに言った。その言葉は重くそしてなぜか深かった。
「君と僕が入れ替わる、たったそれだけ」
彼女は、男性の言葉に高揚するほどの快楽の世界が見えた気がした。思わず興奮して彼女は男性の手を取った。
「人間じゃないってこと?」
男性はゆっくりと笑った。その目は穏やかでこの世のものとは思えなかった―――。
-3-
薄暗い部屋の中で女性は椅子に腰かけていた。部屋の奥から差し込む一筋の光によってゆらゆらと彼女の影が揺れた。その一筋の道程は彼女がいた世界へつながる入口である。人間社会の月明かりとは違う。彼女の知る太陽の光の道筋である。
彼女はその光である文章を読む。
そして、それを書いた人物の人間への憧れを知る。又、ここから解放するために彼女が利用されたことも。
「人間とは。
頭脳があって感情があって、二足で歩いて、規則を作って、反社会的存在を排除するものである。
そして要望にまみれた存在である。
アラジンに出てくるジャファーのように。」
人間とは。
頭脳があって感情があって、二足で歩いて、規則を作って、反社会的存在を排除するものである。
その文章を書いた彼はほっと息をついた。
薄暗い部屋の中で机に頬杖をつきながらその文章を繰り返し彼は読んだ。
彼の部屋の奥にはカーテンがあり、それはひらひらと揺れていた。カーテンが揺れるたびに月明かりでほんのりとした影が浮かび上がった。
「誰だよ、窓開けたの」
彼は眉間にしわを寄せ、握っていたペンを放り投げた。
彼の足元にはくしゃくしゃに丸め込まれた紙が無数に転がっていた。
彼はいつもそうして過ごしている。誰かがやって来るのを待っている。窓を閉めようとしてもそれは閉まらず彼は光をコントロールする術を知らない。
彼のいらいらの理由は数多くあるが、そのいらいらはいつも悲しみから訪れているのであった。
‐2-
ある街に、名物な女の子がいた。彼女は、容姿端麗で男からモテた。
けれども彼女は男にそこまで興味がなかった。彼女はいつもロマンティックな恋や情熱的な愛は馬鹿げてると感じていた。
付き合っては別れ付き合っては別れを繰り返すうちに、一番最後のボーイフレンドはこういった。
「君は、人間じゃないよ。人を好きになれないんだから」
彼女はその言葉を聞いてふと笑った。「どれだけ人間から生まれ変わりたいと思ったって生まれ変われないのだから仕方がない」と。
彼女は飽き飽きしていた。恋だ愛だと騒ぐ人間という生き物に。そして自分自身も恋や愛を大事にする人間という生き物であるという事実に。
彼女は、そんなことを繰り返し考えながらも洗濯物をベランダから取り込んだ。今日は、夕方から雨が降るらしく母親から頼まれたのである。ついでに夏休みのせいで妹の面倒もちゃっかりとお願いされてしまっていた。
「ねえ、さや姉。魔法使いって知っている?」
先ほどまで夏休みの宿題をしていて静かだった妹がいきなり口を開いた。
「魔法使い?なんでそんなこと急に聞くの」
「図書館でね、魔法使いがでる本を借りてきたの。でね、魔法使いって多くの願いを叶えれるんだって。まやはね、しょう君のお嫁さんになれますようにってお願いするんだ」
彼女は妹の言葉に思わず苦笑した。
「へえ。そっか。いいお願い事だね」
「さや姉は、何お願いする?」
「うーん、なんだろ。お金持ちになれますように、とか?」
「いいねー、お金持ちになったら何しよう」
彼女はいろいろと夢を持って話す妹を見て口角を上げた。それと同時に「ごめん」と心の中でつぶやいた。
夕方になると雨がぽつぽつと降ってきて、やがて激しい雨風が吹くようになった。妹は一人でテレビを見にリビングへと行っていた。そのうち親が帰ってくる、彼女は憂鬱な気分で窓の外を眺めた。空は灰色で雨風によって窓はガタガタと振動する。稲妻が空に走って大きな音でどこかに雷が落ちた。
彼女はぼうっとして外を眺めていたが、その視界の隅でうごくものに目が留まった。
「人?」
彼女は目を凝らしてそっちの方を見やった。
そこには豆粒くらいにしか見えない人が大きく手を振っていた。このどしゃぶりの中である。彼女は怪訝な顔をしてその人を見つめた。
そして、なぜかその人はどんどん大きくなって、彼女の目の前に現れたのである。それは男性であった。短髪で小麦色に焼けた顔に白い歯がきらりとのぞいていた。彼女は息を呑むと同時に、思わずそばにあった妹のリコーダーを掴んだ。
「そんなに警戒することないじゃん」
その男性はそう言った。その声は楽し気な声で生き生きとしていた。
「君ってここらじゃ有名な女の子なんでしょ?」
「だ、…だれなの?警察呼ぶわよ」
「呼んでもいいよ、別に。ただ君が精神的におかしいと思われるだけだから」
彼女は余裕の笑みを浮かべる男性をきっとにらみつけてリコーダーをぎゅっと握りしめた。
「あなた、なんなの?いったい何が目的?金なら家にはないわよ!」
「お金?いらないよ。俺が欲しいのは君だもん」
ゴロゴロゴロと機嫌の悪い空模様の音がやけに不気味に彼女の耳に届いた。「変質者」その三文字が彼女の頭の中をぐるぐると回った。
「なに、あんたも私に馬鹿げたこというつもり?」
「馬鹿げたこと?」
「好きだ、恋したんだ、愛してる。その三単語よ」
彼女はそう吐き捨てるとごみを見るような目で男性を見つめた。「変質者」、特に恋、愛だとわめく連中であれば彼女はいつだってそういう目になってしまう。そして軽蔑してしまう。
そういう目で見れば男だって察してくれるはずだ、そんな憶測が彼女にはあった。
しかし、そんな彼女の憶測とは裏腹に、男性は乾いた声で笑った。
「君って面白いね。うん、面白いし興味深い」
彼女はその言葉にぞわぞわと身の毛がよだつのを感じた。それと同時に危険を知らせる警報音が頭の中で鳴った。逃げるべきか、はたまたリコーダーで一撃を食らわせて警察を呼ぶべきか。その瞬間、妹の顔が頭に浮かんで彼女は咄嗟に判断した。
思い切って腕を上げて、リコーダーを男性にたたきつけようとした―――。
「だけど、俺が言っているのは君を俺の女にするとかじゃないんだよ」
「え?」
男性は彼女が振りかざしておろしたはずのリコーダーをくるくると手で回しながらそう言った。何が何だかわからず混乱して彼女は目の前の男性を目を見開いて見つめることしかできなかった。
そして彼女ははたと気づいたのである。その男性の言葉に頭の中の警報音がピタリとやむと同時に不機嫌だったはずの空から一筋の光が差し込んでいることに。
「君の願い、俺が引き受けるよ」
そう、男性が静かに言った。その言葉は重くそしてなぜか深かった。
「君と僕が入れ替わる、たったそれだけ」
彼女は、男性の言葉に高揚するほどの快楽の世界が見えた気がした。思わず興奮して彼女は男性の手を取った。
「人間じゃないってこと?」
男性はゆっくりと笑った。その目は穏やかでこの世のものとは思えなかった―――。
-3-
薄暗い部屋の中で女性は椅子に腰かけていた。部屋の奥から差し込む一筋の光によってゆらゆらと彼女の影が揺れた。その一筋の道程は彼女がいた世界へつながる入口である。人間社会の月明かりとは違う。彼女の知る太陽の光の道筋である。
彼女はその光である文章を読む。
そして、それを書いた人物の人間への憧れを知る。又、ここから解放するために彼女が利用されたことも。
「人間とは。
頭脳があって感情があって、二足で歩いて、規則を作って、反社会的存在を排除するものである。
そして要望にまみれた存在である。
アラジンに出てくるジャファーのように。」
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