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四章 ヒメナとアリア編

百六話 ポワンの魔法

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「アリアお願い……【終焉の歌】を歌って!!」

「……っ……でも……」

 アリアは私が頼んでも躊躇っていた。
 以前私が理性を失い、アリアも歌うのを途中で止めることが出来なかったから無理もないことだろう。
 でも、アリアに歌ってもらわないと私はポワンに勝てない。

「私は覚悟を決めている!! アリアもお願い!! 私達は一蓮托生でしょ!?」

「……分かったわ。その代わり、必ず勝って」

「……当たり前よ」

 アリアは納得してくれたのか大きく息を吸い込み、【終焉の歌】を歌い始める。

 終焉を告げるような、儚くもどこか悲しい歌。
 何一つ希望のない、絶望の歌。

 ドクン。

 来た――。

 ドクン。

 今度は飲まれない。

 ドクン。

 理性を持ってかれるな。

 ドクン。

 皆の仇をとるんだ。

 ドクン。

 私がポワンを殺さないといけないんだ。

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。


 あんな悲劇の連鎖を……戦争をもう二度と起こしちゃいけない。
 何が正しくて、何が間違いなのかは分からないけど――きっと戦争はもう起こしちゃいけないから。


 ――ドクンッ!!


「わああああぁぁぁぁ!!」


 私は絶叫した。
 まるで獣が雄叫びを上げるかのように。
 真紅の目の、魔人と化すために。

 理性が吹き飛びそうになるも、二回目のおかげか何とか耐えることが出来た。
 私のマナ量は数倍となり、闘気はポワンにも匹敵……いや現段階では超えている。

「ほぉ……」

 魔人化した私を見て、ポワンは素直に感心していた。
 ポワンも魔物は数多く見たことがあっても、魔人を見るのは初めてなんだろう。

「い……く……よああぁぁ!!」

 半ば吹き飛びそうな理性を何とか手繰り寄せ、私はポワンに襲い掛かる。
 ポワンも私の闘気を見て、流石に構えをとった。

 とてつもなく力強い闘気を纏いながら、放つ連続攻撃。
 自分でもはっきり実感できる。
 さっきとは桁違いのスピードとパワーだ。

「……ぬ!!」

 これには流石のポワンも受けに回った。
 同程度以上の闘気を纏ったモノと闘うのは今回が初めてなんだろう。

「がああぁぁ!!」

 私の右足での蹴りが防御しきれなかったポワンに、まともに当たる。

「ぬぅっ……!!」

 ポワンの左腕からは、ボキボキッと骨が折れる嫌な音が響き渡り、そのまま吹っ飛ばした。
 ポワンは百メートルほど宙を飛んでいく。
 私は【瞬歩】を使って吹き飛んだポワンを先回りし、右手の義手によるストレートを放った。

「こふっ……!」

 ポワンの背部に直撃し、再びポワンを遠くに殴り飛ばした。
 そしてまた【瞬歩】で先回りし、追撃する。
 幾度もそれを繰り返して、最後は両手を組んで空中から地面へと叩きつけた。
 地中に埋まり、動かなくなったポワンに私は――。

「ぐ……ら……ええぇぇ!!」

 【闘気砲】を放った。

 超級闘気砲を超える【闘気砲】。
 太い光線は地面に直撃し、爆発を生む。
 砂塵を巻き上げ、地面に大穴を開けた。
 【闘気砲】の直撃を受けたポワンの姿は、見る影もない。


 勝ったんだ……私……。
 あのポワンに……世界最強に……。


 そう思った矢先――。

「【探魔】を使わんとは、迂闊じゃの」

 まだ空中にいた私の目の前に、【瞬歩】を使ったポワンが現れた。
 折れたはずの左腕は元に戻っており、まったくの無傷となっていた。

 嘘……!?
 何で無傷なの!?

 私が疑問を抱いたその瞬間、空中から蹴り落とされる。

 強烈な勢いに地面へと叩きつけられた私。
 【終焉の歌】時にダメージを負ったのは初めてだけど、どうやら痛覚はないようだ。
 闘うために不要だからかもしれない。

 目の前にポワンが着地する。
 やっぱり無傷だ。
 確実に左腕は折ったはずなのに……。

「不思議か? ワシの魔法は【時間】。マナを消費し、自身の体内の時間を操ることが出来るのじゃ。怪我する前に時間を戻しただけなのじゃ」

 ポワンが数百年生きてるのも、もしかしてその魔法のおかげ……!?
 モルテさんの【不死】に近い魔法ってこと……?

「ワシのマナが尽きさせるか、あるいは一撃で殺すしかないのう」

 ポワンは全力で闘気を纏う。
 私の闘気と同等……いや、それ以上だ。

「戦闘で魔法を使うのは百年振りくらいかの。使わせたことは褒めてやるが、お主にワシが殺せるかの?」

 私も全力で闘気を纏う。
 ポワンと同等で闘気は拮抗していた。

「が……づ……!!」

 勝つ……負けられない!!

 再びポワンと私は衝突し、闘いは激化していった――。
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