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第二章 訪れる迷える子羊篇
第9話 時の聖職者
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ああ…やっぱり今日もグチグチネチネチ言われた。オドオドしている俺を見てバカにした笑いも突き刺さる。
何で俺ばかりこんなに嫌な目に遭わなければいけないのだろう。
陰キャだからか。陰キャだからなのか。
帰宅途中の俺はイヤホンで耳を塞ぎ、お気に入りの曲を聴くのがお決まりになっていた。最近よく聴くのは「音無花陽」の新曲「Super Nova」。
音無花陽は最近ネットで話題になっている女性アーティストだ。ニ〇ニコとかYou〇ubeにちょくちょく曲を上げ、それがじわりじわりと伸び始め、ランキングに乗るレベルになってきていた。
彼女の曲は妙に現実味のある切ない曲が多かった。噂だと大学生らしいのだが、同年代とは思えない程に歌詞が深く共感できるものばかりで、歌声もとても綺麗で心の中に「スっ」と響いてくるようなそんな歌声だった。
そして新曲の「Super Nova」。相変わらず歌詞は重く人生の理不尽さを歌っているのだが、暗い明るい曲調で段々と希望を見出していこうとする前向きな歌詞に変わっていく。ギターとドラムの音が心地よく、歌声も聴きやすくて毎日ループして聴いていた。どうせすぐ飽きるんだろうけど。
「辛い1日を乗り越えても 誰も褒めてくれやしない 土日の休みはすぐに消え 時間だけ過ぎてゆく いつまでこの現実を耐えればいいのだろう。…すげえ歌詞。でも俺のための歌だよなぁ、まさに毎日地獄だからなあ。」
悲劇の主人公のような気分で歩き続け家に着く。
「さて、今日もあそこに行こう…。また話を聞いてもらうんだ。」
鞄を投げるように部屋に置き、ペンと鍵を取りだす。
そう、ジョーカーから貰った"影切丸"と"黄水晶の鍵"だ。
黄水晶の鍵を握りしめ念じる。
「時の廻廊へ……!」
すると黄水晶の鍵から淡い光が放たれ、俺の体を包み込んだ。
……………………………………………
光に包まれて気がつくと俺は"時の廻廊"に立っていた。何回か入り浸っているせいか、実家のような安心感がある場所だ。
「ふぅ…やっぱりここはいいな、すごく落ち着く…。そうだ、ジョーカー達は。」
ジョーカーやサブローを探しキョロキョロしていると、後ろから誰か歩いてきた。
「あ、ジョ━━━━━━━━━━」
「おお、迷える子羊よ。貴方の心には大きな陰りが見えます。」
「だ、誰っ!?」
話しかけて来たのはジョーカーではなく、修道服を着たジョーカーによく似た何かだった。
(えっ、えっ。誰この人!?…人ではないか…ジョーカーに似てるけど…同じ種族の女の人?)
「陰りはやがて大きな"闇"となり貴方を包み込むでしょう。」
「や、闇…?俺を…?な、何言ってるんですか?というかあなたは誰なんですか…?」
「大きな闇は人を狂わせる。いえ、崩壊させると言ってもいいでしょう。」
目の前の人(?)が何を言っているのか全く理解できなかった。
「えっと…。」
「崩壊した人間は生きたまま死んでいる、人でも迷える子羊でもない別の存在となるのです。」
ジョーカーに似たその人は、伏し目がちで俺を見ながらそう言った。
伏し目な上に無表情だから感情は伝わってこない、しかし何か真に迫ったものを感じる。
生きたまま死んでいる…迷える子羊でもない別の存在に……本当に自分がそんな得体の知れないモノになってしまうんじゃないかと、不安が遅ってきた。
「俺…が…そんな……。」
「恐れることはありません。我らが女神様のお導きの通りにしていればあなたの魂は浄華され、大いなる光の下に1つとなるでしょう。」
「女神様……?俺は宗教は信じてなくて…。」
「大丈夫です、いずれあなたも女神様の洗礼を受けることになるでしょう。さぁ、まずはこれを身に付けてください。」
そう言うと、藍色に輝く宝石の付いた首飾りを差し出してきた。
何で俺ばかりこんなに嫌な目に遭わなければいけないのだろう。
陰キャだからか。陰キャだからなのか。
帰宅途中の俺はイヤホンで耳を塞ぎ、お気に入りの曲を聴くのがお決まりになっていた。最近よく聴くのは「音無花陽」の新曲「Super Nova」。
音無花陽は最近ネットで話題になっている女性アーティストだ。ニ〇ニコとかYou〇ubeにちょくちょく曲を上げ、それがじわりじわりと伸び始め、ランキングに乗るレベルになってきていた。
彼女の曲は妙に現実味のある切ない曲が多かった。噂だと大学生らしいのだが、同年代とは思えない程に歌詞が深く共感できるものばかりで、歌声もとても綺麗で心の中に「スっ」と響いてくるようなそんな歌声だった。
そして新曲の「Super Nova」。相変わらず歌詞は重く人生の理不尽さを歌っているのだが、暗い明るい曲調で段々と希望を見出していこうとする前向きな歌詞に変わっていく。ギターとドラムの音が心地よく、歌声も聴きやすくて毎日ループして聴いていた。どうせすぐ飽きるんだろうけど。
「辛い1日を乗り越えても 誰も褒めてくれやしない 土日の休みはすぐに消え 時間だけ過ぎてゆく いつまでこの現実を耐えればいいのだろう。…すげえ歌詞。でも俺のための歌だよなぁ、まさに毎日地獄だからなあ。」
悲劇の主人公のような気分で歩き続け家に着く。
「さて、今日もあそこに行こう…。また話を聞いてもらうんだ。」
鞄を投げるように部屋に置き、ペンと鍵を取りだす。
そう、ジョーカーから貰った"影切丸"と"黄水晶の鍵"だ。
黄水晶の鍵を握りしめ念じる。
「時の廻廊へ……!」
すると黄水晶の鍵から淡い光が放たれ、俺の体を包み込んだ。
……………………………………………
光に包まれて気がつくと俺は"時の廻廊"に立っていた。何回か入り浸っているせいか、実家のような安心感がある場所だ。
「ふぅ…やっぱりここはいいな、すごく落ち着く…。そうだ、ジョーカー達は。」
ジョーカーやサブローを探しキョロキョロしていると、後ろから誰か歩いてきた。
「あ、ジョ━━━━━━━━━━」
「おお、迷える子羊よ。貴方の心には大きな陰りが見えます。」
「だ、誰っ!?」
話しかけて来たのはジョーカーではなく、修道服を着たジョーカーによく似た何かだった。
(えっ、えっ。誰この人!?…人ではないか…ジョーカーに似てるけど…同じ種族の女の人?)
「陰りはやがて大きな"闇"となり貴方を包み込むでしょう。」
「や、闇…?俺を…?な、何言ってるんですか?というかあなたは誰なんですか…?」
「大きな闇は人を狂わせる。いえ、崩壊させると言ってもいいでしょう。」
目の前の人(?)が何を言っているのか全く理解できなかった。
「えっと…。」
「崩壊した人間は生きたまま死んでいる、人でも迷える子羊でもない別の存在となるのです。」
ジョーカーに似たその人は、伏し目がちで俺を見ながらそう言った。
伏し目な上に無表情だから感情は伝わってこない、しかし何か真に迫ったものを感じる。
生きたまま死んでいる…迷える子羊でもない別の存在に……本当に自分がそんな得体の知れないモノになってしまうんじゃないかと、不安が遅ってきた。
「俺…が…そんな……。」
「恐れることはありません。我らが女神様のお導きの通りにしていればあなたの魂は浄華され、大いなる光の下に1つとなるでしょう。」
「女神様……?俺は宗教は信じてなくて…。」
「大丈夫です、いずれあなたも女神様の洗礼を受けることになるでしょう。さぁ、まずはこれを身に付けてください。」
そう言うと、藍色に輝く宝石の付いた首飾りを差し出してきた。
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