時の廻廊の守り人

鏡華

文字の大きさ
上 下
4 / 9
第一章 時の守り人篇

第4話 時の庭園

しおりを挟む
ヒュンッ!!という風切り音が響き渡り、物凄い速さで刃が抜かれた。
そして、チンッという音がした。刃を鞘に戻したのだろう。

「…………士くん…。」

「バ、バゥ……(士…)。」

心配そうな声色のジョーカーさんとサブローさんの声がする。
俺は。切られる寸前で頭を下げて、

「あぁ……俺って奴はいつもこうなんだ……死ぬ勇気すらない…ダメな奴なんだ……。何に対しても向上力が無くて、いつもいつも中途半端で……。」

自分で自分の顔を殴っていた(ビビって弱い力で)。

「クソっ!クソっ!!弱虫!!意気地無し!!!お前なんか死━━」

パシッと俺の手をジョーカーさんが止めた。その顔は優しく微笑んでいた。

「士くん、自分で自分を傷つけるのはやめるんだ。」

「ジョーカーさん……だって俺…今自分で責任持つって言ったのに……結局逃げてっ…。」

「それは違うよ、士くん。私は間違いなく。だから君はちゃんと責任ある行動を取ったんだ。」

ジョーカーさんが何を言っているのか全く分からなかった。

「で、でもっ……俺は死ぬのが怖くて避けて……。」

「私が切ったと言ったら切ったんだ。それでいいじゃないか、今私が話している君はだ。そして君は生きたいという選択をした。だから今こうして生きている。そういう事だよ。」

「バウバウ、バーウ!(悪るいな士、こいつ割と馬鹿だから何言ってるか分からないかもしれねが、お前は間違ってねえぞ。)」

「は、はぁ……。」

訳分からない事を言うジョーカーさんのフォローをするサブローさん。
俺は何となくだがそれに納得した。

「馬鹿とは失礼だなぁ、サブロー。まぁ士くんも分かってくれたみたいで良かったよ。さぁ、またお茶でも飲んで話をしようか。」

優しく微笑みかけ、膝ついて泣いている俺に手を差し出すジョーカーさん。
俺は涙をふいてその手を掴む。

「あ、そうそう。約束通り私の事もサブローのことも呼び捨てで、普通に話してほしいな士くん。」

「えっ、でもまだ俺……。」

「いいからいいから、1回確実に別れたんだから、士くんと会うのはこれで2だ。」

またまた謎理論だけど、屈託のない笑顔のジョーカーさんになんだかこっちまで笑ってしまった。

「分かった、色々とありがとう。、その…改めてよろしく…。」

「こちらこそよろしく、士くん。」

「バウバウバウ!!!(俺様を忘れんなよ!?)」

「あっ、サブロー!さっきはありがとう…慰めてくれて…。」

俺はサブローを抱きかかえてお礼を言う。

「バウバウ、バウバーウ!(おうとも、礼には及ばねえぜ。ちょっと元気になったみたいで嬉しいぜ!!)。」

ふふん、と満足気な顔のサブロー。よく見ると割と可愛い。思わず頭を撫でていた。

「バゥ~♪(撫でられるの好きなんだよな)。」

満足顔のサブローをよそに、ジョーカーが話しかけてきた。

「そうだ、士くんに見せたい場所があるんだ。そこでお茶の続きといこうか。」

「見せたい場所…?」

「あぁ、着いてきてくれ。」

再び優しく微笑み、ジョーカーはどこかへと歩き始めた。
それに着いていく俺とサブロー。


長く代わり映えのしない時の回廊を真っ直ぐ進んでいく。

「…ジョーカー、この時の回廊って一体…すごく長いけど、どのくらい長いの?これだけのゲートを把握するのは大変そう…。」

「さぁ、私にも分からない。ゲートに関しても、どのゲートがどこに繋がっているのか分からないものもある。そもそもどこがどこに繋がるのかはランダムなんだ。」

「ジョーカーでも分からないんだ!?ランダム…。」

「あぁ、そもそも私は…………。」

そこで言葉を詰まらせるジョーカー。
後ろ姿だけど少し悲しそうに見えた。

「…ジョーカー……?」

「……すまない。あ、ほらあそこだ。」

誤魔化すようにジョーカーは目的地を指さす。
ジョーカーの指の先は1つの大きなゲートをさしていた。光り輝くその中は先が見えなかった。

「バウバウ!!(おっ、お気に入り所じゃねえか!!)。」

「お気に入りの所…?ゲートはランダムなんじゃ…。」

ウキウキしてしっぽを振るサブロー。
率直に疑問に思ったことを俺はジョーカーに聞いた。

「何故かここだけは変わらないんだ。たぶんここもこの回廊の一部なんだろう。」

大きなゲートの前に立つ。ゲートの中は光り輝いていて何も見えない。
その光のからとても爽やかな風が吹いている。

「な、何にも見えないんだけど大丈夫なの?」

「大丈夫だ、問題ない。さぁ士くん、どうぞ中へ。」

どこかで聞いたような事を言うジョーカー。俺は恐る恐る前へと足を踏み出した。





ゲートの中をくぐると目の前に

どこまでも続く青空と、広大な草原が広がっていた。不思議と気持ちが安らいできた。

「ここは…。」

「バウバウッ!!(すげーだろ~!!)。」

「気に入ってくれたかな?"時の庭園"と私は呼んでいる。私の一番好きな場所だ。」

サブローとジョーカーが続いて入ってくる。

「本当に…なんか上手く言葉に表せないけど、すごく綺麗で…落ち着く場所だね。」

「そうだろうそうだろう、あそこを見てごらん。あれが私の宝物だ。」

嬉しそうに言うジョーカーの目線の先にはとても大きなが佇んでいた。

「桜の木…?」

「その通り。小さな木の苗からあそこまで大きく育ってくれたんだ。」

樹齢100年なんてものじゃない、500年…いや1000年は超えていそうな大きさだ、桜の木がどれだけ長生きかはよく分からないけど、それだけの時の流れを桜の木からは感じられた。

「士くんの考え通り、1000年くらいは経ってるかな。」

「バゥ…(もうあれから1000年も経つのか、早いもんだな)。」

「唐突に俺の考え読むのやめて!?というかあの木が小さな苗の頃からってジョーカー達は何歳なんだよ!?」

つい怒涛のマシンガンツッコミを入れてしまう。

「すまないすまない、ついやってしまった。ちなみに私達は1000歳は超えてることになるな。」

「バウバウン(そうだな、割と長生きだな)。」

「めちゃくちゃ軽くない!?……とてもそんなに長生きしてるようには見えないけど…。」

見た目は人っぽい何かと犬っぽい何かだから、具体的に年齢がどうとかは分からない。それでも1000歳以上には見えない。

「2人はほんとに一体何者なの……?」

「…私達は━━━━━━━」


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ドゴォーーーーーン

ジョーカーが何か言おうとした時、どこからか女の子の悲鳴と大きな地鳴りのような音が聞こえた。

「な、何!?女の子!?それに今の音は…!?」

「今の声は"イズナ"と……」

「バウバウ、バゥ!!(あぁ、だな、急がねえとイズナが危ねぇ!!」

さっきまで笑っていた2人が真剣な眼差しで走り出した。

「ちょっ!?2人とも!?」

「すまない士くん!!少し待っていてくれ、が出来てしまった!!!」

「バウーーーー!!!(危ねぇからここでじっとしてろよ~!!!)。」

そう言い残して2人はゲートの中へ戻って行った。

「な、何なんだ……一体…。……ちょっと待ってよ!!」



1人取り残されるのも何か嫌だったし気になるので着いていくことにした。
ここで行かない、という選択をしても、遅かれ早かれいつかはだろう。



ここに来る者は皆、迷える子羊ストレイシープなのだから……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

とある婚約破棄に首を突っ込んだ姉弟の顛末

ひづき
ファンタジー
親族枠で卒業パーティに出席していたリアーナの前で、殿下が公爵令嬢に婚約破棄を突きつけた。 え、なにこの茶番… 呆れつつ、最前列に進んだリアーナの前で、公爵令嬢が腕を捻り上げられる。 リアーナはこれ以上黙っていられなかった。 ※暴力的な表現を含みますのでご注意願います。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...