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cafe all-sorts Day&Night
黒と白2
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「さっきの質問だが、優希の性的な興奮状態をこれで管理しているんだ。今日はちょっと数値が安定しなくて、この装置だけじゃ対応しきれない可能性があって、前もって研究所で点滴を受けさせて来たんだ」
サトルさんはそう言いながら、優希さんの耳についているダイヤのピアスを見せてくれた。
「ごく少量の血が定期的に抜き取られ、チェックが入る。優希は、テストステロン値が一定濃度を超えると、未成年に会うことを禁じられている。このピアスは、未然に性被害を減らすために使用されている器具だが、これはまだ開発段階の未認可品なんだ。調整は、開発関係部署にも携わっている俺に任されている……って難しいな。えっと……」
「優希がお前たちに手出しをしないように、左の耳から血を採って調べてるんだ。その血の中に悪いものがあったら、右のピアスから薬が出るようになってる。そうやって体調管理してるんだよ」
研究機関で大人とばかり話しているサトルさんには、小学生の俺たちへの説明が難しかったようで、子供慣れしている葵さんが言い換えてくれた。
葵さんの助け舟にサトルさんは
「そういうことだ」
と言って、恥ずかしそうに笑った。
「ごめんな。いつも研究にしか興味のないやつばっかりいる狭い世界でしか過ごしてないから、こういうの苦手なんだ。サンキュー、葵。さすが毎日たくさんの人に会う接客業の人間は違うな」
サトルさんがそう声をかけると、得意げな顔をした葵さんはこくりと頷いて、優雅にコーヒーを啜った。
俺がそれを見て笑っていると、隣では碧が難しい顔をして何かを考え込んでいる。どうにも飲み込めない言葉があるようで、サトルさんの方をじっと見つめたまま、それを言おうかどうか迷っているようだった。
「碧、どうかした?」
それに気づいた優希さんが、優しく笑いかけながら尋ねた。すると、碧はほっと安心したような表情を見せて一つ頷いた。
「うん。あの、今の話だとね、優くんが私たちに会うためには、薬が必要っていうことになるってことなのかなと思って。もしかして、それが無いとこうやって会う事も出来ないの?」
そう尋ねた碧の声は、言いながら悲しみに濡れていった。聞きたいことはそれで間違いないはずなのに、それを口に出さなければならないことに、段々と自分で傷ついていく。
誰かに会うために薬が必要だという事がどういうものなのか、はっきりはわからなくても、何か良く無いことがあるのだということは、なんとなく俺たちにもわかっていた。
優希さんはそんな碧のことを申し訳なさそうに見ていた。その手が、彼女を慰めてあげたくて宙を泳いでいる。でも、それはしてはいけない事なのだろう。ギュッと目を瞑ったかと思うと、その手を引っ込めた。
「碧、悲しくなった? ごめんね。……そうなんだ、まだ二人に会うためには薬の助けが必要になるみたい。でも、これからまたしばらく治療していけば、もう二人にそういう意味で興味を持つことは無くなるはずなんだ。だから、悲しまないでいいよ。ごめんね、僕のせいで……」
そう言って項垂れる優希さんを、サトルさんが支える。何も言わずに肩を抱いて体を支えてあげている姿を見ていると、こんな時なのに何故か嬉しくなってしまったのを強く覚えている。
あの時一番感じたのは、誰かに支えてもらうことが無かった優希さんが、素直に甘えて寄りかかっている姿を見て、ただ嬉しいという気持ちだけだった。
俺たちの存在は、それまで優希さんが感じる事もなかった劣等感に気づかせた上に、その状態を強要したまま生活の面倒を見させていたという酷いものだった。
どれほど感謝したところで、俺たちからは何もしてあげられなかった。むしろ、彼の目の前に存在するだけで、自分の醜さを突きつけていた。
でも、今はサトルさんがいるだけで、彼はとても幸せそうな顔をする。それまで神様なんて信じたことは無かったけれど、願いを叶えてもらえたことを強く感謝した。
「ただね、もしリョウとミドリにそういうつもりで少しでも手を出してしまったりすると、治療は一からやり直しになるかもしれないんだって。もちろん、僕はそんなことが無いように一生懸命頑張るんだけど、もし、もしも僕が二人に何かをして来たら、全力で止めて欲しいんだ。そのために、協力して欲しいことがあって」
そう言って、優希さんは二組のピアスを差し出した。
「これを貰って欲しいんだ」
それは優希さんのものと似たようなピアスだった。一組はダイヤ、もう一組は黒いダイヤが嵌め込まれている。どちらもスタットピアスだ。アクセサリーは好きだから、その時からよく知っていた。それは一般のものよりは、ヘッドの部分がやや分厚いように見える。
でも、優希さんのピアスの話を聞いた直後だったから、これも何かの道具なんだろうなというのは、なんとなく想像できた。
「これね、防犯用の道具みたいなものなんだ。ヘッドとキャッチを強い力で押して近づけると、信号が生まれるようになっているんだよ。その信号を、この指輪が拾う」
優希さんは自分の左手の指輪を見せてそう言った。艶やかに輝くその指輪は、ダイヤが埋め込まれたよくあるタイプの結婚指輪にしか見えない。
その埋め込まれている石が、実は宝石のダイヤではなく、それに似せた受信機なのだと言う。驚く俺たちに、さらに優希さんは説明を続けた。
「指輪がピアスから信号を受信したら、僕の異常行動を抑制するために、指輪から電流が流れるようになっているんだ。それで踏みとどまれるようになってる。万が一それだけじゃ足りないと判断された時は、こっち。アンクレットから麻酔薬が打ち込まれるようになってるよ」
そう言って指差した先のパンツの裾を、サトルさんが少しだけめくって見せてくれた。そこには黒いアンクレットがつけられていた。
「で、電流? 麻酔薬? なんで……」
ことも無げに話す優希さんとは対照的に、俺たちは目を見開いて驚いた。
「指輪とかピアスとかつけると嬉しいものだと思ってた。それが罰を下すなんて……」
この話を聞いた時は、結構なショックを受けてしまったのを覚えている。ただ、その時俺は気づいてしまった。もしかしたら、優希さんはそのことを当然のように受け入れたのでは無いだろうか。
何故なら、彼は高校を卒業するまで、毎日のように酷い虐待を受けていたからだ。この仕組みは、隣の佐藤家から時折聞こえていた、あの声が言っていたことと同じことをしようとしている。それを受け入れるのは危険では無いのかと俺は思ってしまった。
「優くんが俺たちに何かしようとしたら、やめさせるための罰として電気が流れて、痛い思いをさせられるんですか? ……悪いことをしたら、罰を受けるのは当たり前だっていう、あの発想?」
優希さんが行動療法と言ったから、そうなのかもしれないと思った。ある行動の後に、毎回嫌な思いをする要素が続けば、その行動は減って行くということを、その頃の俺は既に何かで読んで知っていた。
「うん、そうだよ。でも、指輪からの信号は、静電気のちょっと強いやつって感じだから、心配はしないで大丈だからね。だから、少しでも僕のすることが嫌だと感じたら、躊躇わずに押して欲しいんだ。そうすることで、僕は本当の意味での解放に近づける。だから可哀想だって思わないでね。それでね、これは僕に会う時には必ずつけていて欲しいんだ。それを見ると僕も安心すると言うか、あまり構えなくてもいいんだなって思えるからさ。せっかく会うんだから、そんな時くらいは何も考えずに過ごしたいでしょ? だから、この店にも予備を置いてもらうことにするよ。今は二人に会うとしたら、場所は大体ここでしょ?」
「そうだけど……」
確かに今、優希さんと顔を合わせるのはオールソーツにいる時だけだ。三人とも昔の家には住んでいないし、その家は三つとも既に無い。
俺と碧は、優希さんと離れてから一度疎遠になりかけたけれど、葵さんが面倒を見やすいようにと今の家で暮らし始めてからは、それまでと変わらない頻度で会っている。
でも、優希さんとは、生活環境が変わってしまってからは、顔を合わせる機会を一気に失っていた。そういうわけで、今の俺たちが共通して利用する場所は、ここだけになっている。
俺は葵さんの店の手伝いをしていて、碧も家にいつも一人でいるため、葵さんがここへ来るように言っている。二人ともまだ給料をもらうようなことをするわけにはいかないから、お家のお手伝い程度に店の事を手伝ったり、ここで宿題をしたりしている。
カフェタイムが終われば、俺たちは葵さんと一緒に帰宅する。店はそのままバータイムへ対応するために準備に入るけれど、それは他のスタッフさんやバータイム店長の沙枝さんがやってくれている。
どんなに遅くなったとしても、この店にいるのは十九時までだ。
一方の優希さんは、カフェタイムにはあまり顔を出さない。編集の仕事は遅くなることが多く、深夜にオールソーツで軽い食事をして帰ることがほとんどだ。
昔は、時々仕事終わりの葵さんとそのまま店で食事をして、飲んで帰ることもあったらしい。でも今はそれもほとんどない。店でサトルさんと落ち合って帰るか、直帰するからだ。
つまり、今の俺たちはほとんど顔を合わせることが無い。それくらいの頻度でしか会わないのにこんなものが必要なのかと、俺は絶望に近いものを感じた。それほど慎重にならなければばならない問題を優希さんは抱えていたのかと思うと、苦しくて胸が潰れそうになった。
そして、これからもその枷をつけて生きて行かなければならないのかと思うと、彼を酷く不憫に思った。
優希さんなら、きっと性的な目で見るような事がなかったとしても、自分達に優しくてくれていたに違いない。そんなことは俺たちが一番わかっている。
純粋に、弱者である俺たちへとあの優しい手を差し伸べてくれていただろう。自分は誰にもそれをしてもらえなかったのに、俺たちには惜しまずに愛情を向けてくれた。彼はいつだって優しかった。そんな男にのし掛かる悲しい運命が、俺には憎らしくて堪らなかった。
サトルさんはそう言いながら、優希さんの耳についているダイヤのピアスを見せてくれた。
「ごく少量の血が定期的に抜き取られ、チェックが入る。優希は、テストステロン値が一定濃度を超えると、未成年に会うことを禁じられている。このピアスは、未然に性被害を減らすために使用されている器具だが、これはまだ開発段階の未認可品なんだ。調整は、開発関係部署にも携わっている俺に任されている……って難しいな。えっと……」
「優希がお前たちに手出しをしないように、左の耳から血を採って調べてるんだ。その血の中に悪いものがあったら、右のピアスから薬が出るようになってる。そうやって体調管理してるんだよ」
研究機関で大人とばかり話しているサトルさんには、小学生の俺たちへの説明が難しかったようで、子供慣れしている葵さんが言い換えてくれた。
葵さんの助け舟にサトルさんは
「そういうことだ」
と言って、恥ずかしそうに笑った。
「ごめんな。いつも研究にしか興味のないやつばっかりいる狭い世界でしか過ごしてないから、こういうの苦手なんだ。サンキュー、葵。さすが毎日たくさんの人に会う接客業の人間は違うな」
サトルさんがそう声をかけると、得意げな顔をした葵さんはこくりと頷いて、優雅にコーヒーを啜った。
俺がそれを見て笑っていると、隣では碧が難しい顔をして何かを考え込んでいる。どうにも飲み込めない言葉があるようで、サトルさんの方をじっと見つめたまま、それを言おうかどうか迷っているようだった。
「碧、どうかした?」
それに気づいた優希さんが、優しく笑いかけながら尋ねた。すると、碧はほっと安心したような表情を見せて一つ頷いた。
「うん。あの、今の話だとね、優くんが私たちに会うためには、薬が必要っていうことになるってことなのかなと思って。もしかして、それが無いとこうやって会う事も出来ないの?」
そう尋ねた碧の声は、言いながら悲しみに濡れていった。聞きたいことはそれで間違いないはずなのに、それを口に出さなければならないことに、段々と自分で傷ついていく。
誰かに会うために薬が必要だという事がどういうものなのか、はっきりはわからなくても、何か良く無いことがあるのだということは、なんとなく俺たちにもわかっていた。
優希さんはそんな碧のことを申し訳なさそうに見ていた。その手が、彼女を慰めてあげたくて宙を泳いでいる。でも、それはしてはいけない事なのだろう。ギュッと目を瞑ったかと思うと、その手を引っ込めた。
「碧、悲しくなった? ごめんね。……そうなんだ、まだ二人に会うためには薬の助けが必要になるみたい。でも、これからまたしばらく治療していけば、もう二人にそういう意味で興味を持つことは無くなるはずなんだ。だから、悲しまないでいいよ。ごめんね、僕のせいで……」
そう言って項垂れる優希さんを、サトルさんが支える。何も言わずに肩を抱いて体を支えてあげている姿を見ていると、こんな時なのに何故か嬉しくなってしまったのを強く覚えている。
あの時一番感じたのは、誰かに支えてもらうことが無かった優希さんが、素直に甘えて寄りかかっている姿を見て、ただ嬉しいという気持ちだけだった。
俺たちの存在は、それまで優希さんが感じる事もなかった劣等感に気づかせた上に、その状態を強要したまま生活の面倒を見させていたという酷いものだった。
どれほど感謝したところで、俺たちからは何もしてあげられなかった。むしろ、彼の目の前に存在するだけで、自分の醜さを突きつけていた。
でも、今はサトルさんがいるだけで、彼はとても幸せそうな顔をする。それまで神様なんて信じたことは無かったけれど、願いを叶えてもらえたことを強く感謝した。
「ただね、もしリョウとミドリにそういうつもりで少しでも手を出してしまったりすると、治療は一からやり直しになるかもしれないんだって。もちろん、僕はそんなことが無いように一生懸命頑張るんだけど、もし、もしも僕が二人に何かをして来たら、全力で止めて欲しいんだ。そのために、協力して欲しいことがあって」
そう言って、優希さんは二組のピアスを差し出した。
「これを貰って欲しいんだ」
それは優希さんのものと似たようなピアスだった。一組はダイヤ、もう一組は黒いダイヤが嵌め込まれている。どちらもスタットピアスだ。アクセサリーは好きだから、その時からよく知っていた。それは一般のものよりは、ヘッドの部分がやや分厚いように見える。
でも、優希さんのピアスの話を聞いた直後だったから、これも何かの道具なんだろうなというのは、なんとなく想像できた。
「これね、防犯用の道具みたいなものなんだ。ヘッドとキャッチを強い力で押して近づけると、信号が生まれるようになっているんだよ。その信号を、この指輪が拾う」
優希さんは自分の左手の指輪を見せてそう言った。艶やかに輝くその指輪は、ダイヤが埋め込まれたよくあるタイプの結婚指輪にしか見えない。
その埋め込まれている石が、実は宝石のダイヤではなく、それに似せた受信機なのだと言う。驚く俺たちに、さらに優希さんは説明を続けた。
「指輪がピアスから信号を受信したら、僕の異常行動を抑制するために、指輪から電流が流れるようになっているんだ。それで踏みとどまれるようになってる。万が一それだけじゃ足りないと判断された時は、こっち。アンクレットから麻酔薬が打ち込まれるようになってるよ」
そう言って指差した先のパンツの裾を、サトルさんが少しだけめくって見せてくれた。そこには黒いアンクレットがつけられていた。
「で、電流? 麻酔薬? なんで……」
ことも無げに話す優希さんとは対照的に、俺たちは目を見開いて驚いた。
「指輪とかピアスとかつけると嬉しいものだと思ってた。それが罰を下すなんて……」
この話を聞いた時は、結構なショックを受けてしまったのを覚えている。ただ、その時俺は気づいてしまった。もしかしたら、優希さんはそのことを当然のように受け入れたのでは無いだろうか。
何故なら、彼は高校を卒業するまで、毎日のように酷い虐待を受けていたからだ。この仕組みは、隣の佐藤家から時折聞こえていた、あの声が言っていたことと同じことをしようとしている。それを受け入れるのは危険では無いのかと俺は思ってしまった。
「優くんが俺たちに何かしようとしたら、やめさせるための罰として電気が流れて、痛い思いをさせられるんですか? ……悪いことをしたら、罰を受けるのは当たり前だっていう、あの発想?」
優希さんが行動療法と言ったから、そうなのかもしれないと思った。ある行動の後に、毎回嫌な思いをする要素が続けば、その行動は減って行くということを、その頃の俺は既に何かで読んで知っていた。
「うん、そうだよ。でも、指輪からの信号は、静電気のちょっと強いやつって感じだから、心配はしないで大丈だからね。だから、少しでも僕のすることが嫌だと感じたら、躊躇わずに押して欲しいんだ。そうすることで、僕は本当の意味での解放に近づける。だから可哀想だって思わないでね。それでね、これは僕に会う時には必ずつけていて欲しいんだ。それを見ると僕も安心すると言うか、あまり構えなくてもいいんだなって思えるからさ。せっかく会うんだから、そんな時くらいは何も考えずに過ごしたいでしょ? だから、この店にも予備を置いてもらうことにするよ。今は二人に会うとしたら、場所は大体ここでしょ?」
「そうだけど……」
確かに今、優希さんと顔を合わせるのはオールソーツにいる時だけだ。三人とも昔の家には住んでいないし、その家は三つとも既に無い。
俺と碧は、優希さんと離れてから一度疎遠になりかけたけれど、葵さんが面倒を見やすいようにと今の家で暮らし始めてからは、それまでと変わらない頻度で会っている。
でも、優希さんとは、生活環境が変わってしまってからは、顔を合わせる機会を一気に失っていた。そういうわけで、今の俺たちが共通して利用する場所は、ここだけになっている。
俺は葵さんの店の手伝いをしていて、碧も家にいつも一人でいるため、葵さんがここへ来るように言っている。二人ともまだ給料をもらうようなことをするわけにはいかないから、お家のお手伝い程度に店の事を手伝ったり、ここで宿題をしたりしている。
カフェタイムが終われば、俺たちは葵さんと一緒に帰宅する。店はそのままバータイムへ対応するために準備に入るけれど、それは他のスタッフさんやバータイム店長の沙枝さんがやってくれている。
どんなに遅くなったとしても、この店にいるのは十九時までだ。
一方の優希さんは、カフェタイムにはあまり顔を出さない。編集の仕事は遅くなることが多く、深夜にオールソーツで軽い食事をして帰ることがほとんどだ。
昔は、時々仕事終わりの葵さんとそのまま店で食事をして、飲んで帰ることもあったらしい。でも今はそれもほとんどない。店でサトルさんと落ち合って帰るか、直帰するからだ。
つまり、今の俺たちはほとんど顔を合わせることが無い。それくらいの頻度でしか会わないのにこんなものが必要なのかと、俺は絶望に近いものを感じた。それほど慎重にならなければばならない問題を優希さんは抱えていたのかと思うと、苦しくて胸が潰れそうになった。
そして、これからもその枷をつけて生きて行かなければならないのかと思うと、彼を酷く不憫に思った。
優希さんなら、きっと性的な目で見るような事がなかったとしても、自分達に優しくてくれていたに違いない。そんなことは俺たちが一番わかっている。
純粋に、弱者である俺たちへとあの優しい手を差し伸べてくれていただろう。自分は誰にもそれをしてもらえなかったのに、俺たちには惜しまずに愛情を向けてくれた。彼はいつだって優しかった。そんな男にのし掛かる悲しい運命が、俺には憎らしくて堪らなかった。
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