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69話

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「……私も水筒を忘れたから、一口もらっても良いかしら」

 今まで蚊帳の外にいた撫子はなにかをカバンにしまうと、瑞希に水筒の水を飲ませてほしいと懇願して来た。
 あの真面目で用意周到な撫子が珍しいことだ。
 ちなみに、そのカバンにしまったのが水筒だったことは誰も気づくことはなかった。

「私の飲みかけだけど、大丈夫か?」
「別に大丈夫よ。いちいち間接キスで騒ぐほど子供じゃないもの」

 一応男女の間接キスを心配した瑞希は撫子に確認を取るものの、撫子は涼しい表情を浮かべながら水筒を受け取ると、なんの躊躇もせず水筒に口を付ける。
 高校生にとって男女の飲み回しは普通なのか。
 瑞希はまた一つ高校生の常識を知った。

「ありがとう、おいしかったわ」
「そりゃーどうも」

 撫子は唇の端に手の甲で拭いながら、瑞希に水筒を返した。
 瑞希はそれを受け取ると、まだ喉が渇いていたためもう一度水分を補給する。
 その時、撫子が瑞希から視線を外したことに瑞希は気づいていなかった。
 やはり、撫子との間接キスもなんの味もしなかった。



 その後、休憩を挟みながら瑞希たちはゴミを拾い続けた。

「そろそろ終わりか」

 お昼になり、そろそろボランティアも終わる時間だ。
 さすがに昼食をはさんでやるほど、ブラックではなかった。

「……疲れたな」

 さすがにずっとゴミを拾い続けていたせいで、脚がパンパンである。
 そのせいで少し脚がふらつく。

「そろそろ終わりね。一旦ゴミを集めるから、拾ったゴミを持ってきて」

 さすがリア充の椿である。
 みんなを上手く仕切っている。

「あぁー、やっと終わったー」
「さすがに僕も疲れたな」

 早織はやっとボランティアから解放されると喜んでいるらしく、声が弾んでいる。
 帆波も部活をやって足腰は鍛えているがそれでも、疲労は溜まっているらしい。

「……もう二度とこんなことはしたくはないわね」
「……あはは、さすがにあたしももうやりたくないかも」

 真面目な撫子でさせ、次はやりたくないと言っている。
 それぐらいゴミ拾いは大変なことである。
 だからゴミを捨ててはいけないのである。環境汚染にもなるし。
 舞もそんな撫子に共感し、疲れを滲ませていた。
 ゴミを一か所に集めるため、瑞希は椿たちの方へ向かう。

「あっ……」

 その時、瑞希は足を滑らせる。
 脚が限界を迎えていた瑞希は河原の石で滑ってしまった。
 動きがスローモーションのように見える。
 人間、身の危険が及ぶと世界がスローモーションになると言われているが、それはあながち間違いではないのかもしれない。
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