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85話

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「早く食べないと冷めるから食べようよ」
「そうですね。料理は熱々が一番おいしいですもんね」

 二人の空気を察した清美と麗奈はわざと明るく大きな声で会話する。

「そうだな。北野後輩も遠慮なく食べたまえ」
「ありがとうございます。では遠慮なく食べますね」

 紗那は買ってきた焼きそばを真希に手渡す。
 真希もできるだけいつも通りの感じで紗那から焼きそばを受け取る。
 焼きそばはまだ温かく、匂いも香ばしく食欲がそそられる。
 今日の紗那はやけに積極的に真希に話しかけてくる。
 いつも通りのウザい紗那に、真希は安心していた。
 これであのキスで真希を嫌いになったから話かけてこなかったという推測は違うことになる。
 まさか、ウザい紗那に安心する日が来るなんて。
 そんな未来を想像していなかった真希は心の中で驚いていた。
 その後、真希たちは四人で焼きそばやたこ焼き、フランクフルトなどを食べた。

「清美、なぜ紅ショウガ抜きにしなかったんですか」
「あっ、ごめんごめん。食べてあげるから許して」
「それではこの部分全部取ってください。その分、清美の分からもらいますから」
「えぇー、それはないでしょ麗奈。って麗奈取りすぎ」
「別に取りすぎではありません。同じぐらいです」
「北野後輩は紅ショウガは大丈夫かい?」
「はい。食べられますので大丈夫です」
「もしなにか苦手なものがあったら教えてほしい。ちゃんと考慮するから」

 買ってきた焼きそばやたこ焼きを食べながら四人は他愛もない会話で盛り上がる。
 清美が紅ショウガを抜き忘れて麗奈に怒られているのは面白かったし、紗那が真希の食の好き嫌いを気遣ってくれたことは純粋に嬉しかった。
 もし紗那が真希のことが嫌いならこんなに気遣ったり、優しくしたりはしないだろう。
 勝手に嫌われたと被害妄想をしていた自分が恥ずかしい。
 紗那はこんなにも真希に歩み寄ってくれている。
 もちろん、紗那とキスをして気まずい感情がないわけではない。
 真希はこの思いをどう昇華させれば良いのか分からなかった。
 忘れることもできないし、気にしないこともできない。
 分からないなら直接本人に聞くのが良いと愛理と陽子は言っていた。
 あの時覚悟したはずなのに、本人を目の前にすると体が委縮してしまう。
 それにせっかく元通りに戻りそうなのに、あのキスの話をしてもう一度気まずくなるのも嫌だ。
 紗那はいつも通りに真希に接してくれている。
 だから真希もいつも通り接するのが良いと分かっている。
 あのキスのことを忘れ、いつも通り紗那と接することができれば、前みたいな日常が戻ってくる。
 でも頭では分かっていても心がついていかない。
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