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63話

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「散々北野に迷惑かけたからこのことは借りにしておくから。それで許されるとは思わないけど。それじゃーまた」
「おい。別にお前の借りなんていらねーよ……って行っちゃった。ホント桐島は牧野のことが好きだな……」

 いつの間にか愛理への貸しが一つできてしまった真希。
 別に愛理からの貸しなんていらなかったのだが断る前に屋上から出て行ってしまった。
 本当に陽子第一優先である。

「……帰るか」

 もうこれ以上真希が屋上にいる意味がない。
 真希は茜色に染まる空を背にドアを開けて校舎の中に入る。
 これで明日から変に愛理に絡まれることはなくなるだろう。
 ようやく真希は肩の荷が下りてストレスから解放されたのであった。

「どうやら上手くいったようだな」
「……鈴木先輩」

 一人で階段を下りていると踊り場で真希のことを待っていた紗那と遭遇する。
 ちなみに清美と麗奈の姿はない。

「先ほど桐島後輩と思しき女の子が階段を降りて行ったよ。彼女、凄く清々しい顔をしていたよ。それを見て上手くいったんだなとあたしまで安心したよ」
「……なんで鈴木先輩がホッとしているんですか」
「そりゃー可愛い後輩の悩みが解決したからだよ。あたしも今日一日気が気でなくてね。上手く解決できて良かったよ」

 紗那の言う通り、これで真希と愛理のわだかまりは溶けただろう。
 これで明日から変に睨まれたり怒鳴り合うことはなくなると思う。
 それを知った紗那はまるで自分のことのように安心し、喜んでくれた。

「なんで鈴木先輩が一日中緊張していたんですか。おかしいでしょ」
「おかしくないさ。北野後輩は大切な後輩だからね。心配するのは当たり前のことだよ。それに清美も麗奈も一日中ソワソワしてたし。それぐらいみんな北野後輩のことが好きなんだよ」

 自分のことでないのに、一日中緊張していた紗那に真希は呆れていた。
 本当にお人よしすぎる。
 しかも一日中緊張して心配していたのは紗那だけではなく清美と麗奈も同じようにソワソワしていたことを知って、さらに真希は呆れるもその好意は嬉しかった。

「そう言えば今日は沢田先輩と黒木先輩はいないんですね」
「清美はバイトで麗奈は塾に行っている。二人とも北野後輩に会いに行けなくて悔しそうな顔をしてたよ」

 一日中ソワソワしていたはずなのに、なぜかここに清美と麗奈がいないことに疑問を抱いた真希が紗那に質問する。
 紗那に二人がいない理由を言われて、真希は一人納得した。
 塾ならまだしもバイトは自分勝手な理由でさぼるわけにはいかない。

「そうなんですね。では二人には明日伝えますか」
「ンフフ……」
「なに笑ってるんですか」

 いきなり紗那にクスクス笑われた真希は不機嫌そうな表情を隠さずに紗那を睨みつける。
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