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61話

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「北野」
「ん?」
「本当にごめんなさい。あたし北野に最低なことしてた」

 いきなり名前を呼ばれた真希は首を傾げると、愛理は本当に申し訳なさそうな表情をしながら頭を下げた。
 この言動には真希も面食らう。
 これは夢なのだろうか。
 あの傲慢で真希ばかりきつく当たっていた愛理が真希に頭を下げているのだ。
 しばらくの間、真希は自分の目に映っている光景が信じられなかった。

「あたし、陽子のことになるといつも周りが見えなくなって。また人を傷つけた」
「そうだな。お前のせいで私は傷ついたしストレスで体調が悪くなりそうだった」

 陽子のことになると周りが見えなくなると愛理は反省している。
 しかし、だからと言って簡単に許せるかと言われれば無理だ。
 そのせいで真希だってかなり傷ついたしストレスで体調もおかしくなりそうだった。
 真希だって文句の一つや二つぐらいある。

「そうだよね。あたしにはもうこれぐらいしかできないけど」
「……なっ」

 そう言って愛理はその場で深く真希に土下座をした。
 あまりにも急で、美しい土下座に逆に真希は戸惑った。

「……本当にごめんなさい」

 今にも消えそうな愛理の声。
 あの威勢の良かった愛理はもうどこにもいなかった。
 その土下座を見た瞬間、真希は愛理が心の底から反省していることが伝わった。

「……分かったよ。許すよ。だから顔を上げてくれ。居心地が悪い」

 さすがにずっとされ続けると逆に居心地が悪くなる。
 だから真希が止めるように言うと、静かに愛理は顔を上げた。

「桐島も反省していることだし、もう帰るか」
「ちょっと待って。せっかくだからあたしも話を聞いてほしい」

 もう真希の用事は終わったのでこれ以上、愛理といる必要はない。
 だから真希が屋上を出ようとすると、今度は逆に真希が愛理に止められる。
 これ以上なにを話すことがあるのだろうか。

「……分かったよ」
「ありがとう」

 ここで断って機嫌を損ねられたらまた面倒だ。
 そう考え真希は渋々愛理に付き合うことにした。
 今までの愛理からは想像ができないほど優しい笑みが浮かんでいた。
 前に陽子が『愛理は優しい女の子』と言っていたがその意味が少し分かったような気がする。
 ただ突っ立っているのも疲れるので真希たちは柵にもたれるように立ちながら話す。

「あたしさ、嫉妬深い女なんだ」
「それはなんとなく分かった」
「うん。だからすぐに嫉妬しちゃうんだ。北野のことだってそう。嫉妬しちゃってつい当たっちゃった」
「そんな軽いノリで嫉妬された私の身にもなれ」
「……それはごめん」

 さすがにそんな軽いノリで嫉妬しないでほしいと真希は思う。
 もう一度反省を促すために厳しい口調で愛理に話すと、痛いところを突かれた愛理は申し訳なさそうに謝る。
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