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3話

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「……先輩……いや~良い響きだな。初めて後輩に先輩と呼ばれたよ」

 初めて後輩に『先輩』と呼ばれて凄く嬉しかったらしい。

「いや、鈴木先輩って三年生ですよね。去年は一度も呼ばれなかったんですか」

 鈴木紗那は今年高校三年生と言っていた。
 つまり去年は二年生である。
 今年二年生ならまだしも今年三年生なら二年生の時普通、後輩から一度ぐらい『先輩』と呼ばれなかったのだろうか。

「……それがだな、あたしが近づくとなぜか後輩が避けるんだよ。そして後輩が誰一人寄り付かなくなった」
「あぁー……」

 落ち込んでいる紗那には悪いが、その理由は簡単に想像できる。
 むしろ、共感しかない。
 真希だって電車を待っていなければ、ウザいのですぐにでもこの場から離脱したいと思うほどだった。
 最初に口ごもったように見えたのは真希の見間違いだろうか。

「なぜ後輩はあたしを避けるんだと思う?」
「えっ、それって先輩がウザいからですよね。そんなにウザければ普通逃げます」
「やっぱり北野後輩もウザいと思うのか。あたし的には普通に接しているだけなのだが」

 紗那になぜ後輩に避けられているのか聞かれたので真希は素直に答える。
 そもそも紗那と仲良くする気もなかったので、嘘偽りのない現実を突きつけた。
 紗那の反応を見るに前から『ウザい』と言われた経験はあるが、本人は納得していないらしい。

「いやいや、十分ウザいですって」
「そうか。でも北野後輩は優しいな。ウザいと思ってもあたしの話に付き合ってくれている」
「別に優しくはありませんよ。ただ逃げ場がないだけです。私も電車を待っていなければ面倒なのですぐに逃げてます」

 こんなに『ウザい、ウザい』と言われているのに嬉しそうに真希に話しかける紗那はマゾなのだろうか。
 それに真希だって電車を待っているせいで逃げ場がないだけで、学校だったらすぐに逃げている。

「いや、北野後輩は優しいよ。ただ可愛げがないだけで」
「……ウザい鈴木先輩にそんなこと言われる筋合いはありません」

 前半の良いセリフも後半のせいで全て台無しである。
 本当に嫌な先輩である。
 真希が拗ねるように紗那から顔をそらすと、嫌らしい笑みを浮かべながら真希を茶化す。

「北野後輩は本当に可愛げがないな~。拗ねちゃって」
「なっ、本当にウザいですね。静かにできないんですか」
「あたしは人とおしゃべりするのが好きでね。静かにしてるのは嫌いなんだ」
「私は静かな方が良いので、もう喋りかけないでください」
「もう拗ねちゃって~。可愛げはないが可愛いな~北野後輩は~」

 からかわれて拗ねた真希が可愛いのか、真希の肩を抱いてくる。
 その時、紗那の方が真希よりも身長が高いせいで頬に紗那の胸が当たってくる。
 制服越しからも分かるぐらい、紗那の胸は弾力があり男の娘の真希からすれば反応に困る行為だった。
 そのせいもあって、頬が若干赤くなる。
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