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誰でしょう
しおりを挟む2人の結婚を許したのが、間違いだったとは思わない。
息子の好きな人は、愛情深い人。
だからこそ、損得勘定はいらないと言った元夫に誇りを持って言い切れた。
息子には、あの人こそ相応しいと。
けれど、そう言ったことで初対面のあの女の子がどういう動きに出るかなんて、予測しようがなかった。
訃報が知らされた時……父親をなくしても、私からの過度な期待に応えるべく努力していたときも、泣かなかったあの子が。
声を押し殺すことすら忘れて泣くのを、私は慰めることすらできなかった。
わかるのだ。
くだらない嫉妬で両親を殺された私には、どんな言葉もその命が戻らないのでは意味がないと、知っていたから。
最愛の人を亡くした息子に、ごめんの一言も言えなかった。
監督の話では、撮影のエキストラに紛れていた彼女は、主演の彼に現場にあったカッターで切りかかったらしい。
それを庇おうとしたカメラマンをむしろ背後に庇い、腹部を刺されて意識不明。
病院に着いてすぐ、息を引き取ったと言う。
バカ。優しすぎるから。なんでお前が。わかってる、お前だからだよね。
愛しい彼の元へ行くから、と息子に言われた時。
私は、笑顔で見送った。
だって、あの子のあんなに眩しい笑顔、本当に久しぶりだったのよ。
ずっと一緒にいた私でも滅多に見れなかったのに、そんな笑顔をすぐに作れる人に会わせてあげないなんて、そんな酷いことないわ。
彼によろしくね、そう言って、背中を押してあげたの。
彼の住む高級マンションの、彼の部屋。
外を一望出来る壁一面くらいの大きさの窓ガラスを、彼と並んで座ったソファを投げて割ったらしいわ。
彼にもらったピアス、彼にあげたネックレス、彼にもらったヘッドホン、彼にあげたタイピン。
それ以外にもあったけど、全部ぜんぶ身につけて、真っ青な空にダイブしたんですって。
涙と笑顔でぐっちゃぐちゃの、最後のあの子は美しかったわ。
血に濡れたあの子は見てない。
飛び降りる前、カメラに微笑んだあの子。
彼の元に届けたかったのは、幸せを分かち合ったあの頃の思い出を全部持って、この世で1番輝く笑顔を見せていたあの子だから。
私?
私はあの後、ふたりの仲を世間に広めたの。
ふたりの悲願も、大恋愛の行く末も、ぜーんぶ。
だって愛しい我が子の晴れ姿が見られなかったのよ。
私が描かなきゃ、誰が見せてくれるというの。
これでいいの。
あの子たちのハッピーエンドを、今度こそつくってあげなきゃ。
転生なんて信じてなかったけど……これであの子たちが結ばれるなら、私はいくらでも手伝えるわ。
だから早く、あの子に気づいてちょうだい。
女の子になったからって、見失わないであげてほしいわ。
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