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私の愛しいあの子。
今度こそ、ちゃんと守るって決めたの。
したいことをさせてあげよう、そう思うのに。
……あの人にだけは、近づけたくなかったのに。
私といるから、あの子はあの人と出会ってしまうのかも。
……考えすぎだといいけど。
優しいあなたが大好きよ。
今世も同じ事にならないよう、私は私なりに頑張るつもり。
私とあの人に縛られない、自由な人生を歩んでね。
愛しい愛しい、私の子。
佐藤沙奈江、35歳。
彼女は離婚した。
大学を卒業する前年のため、就職活動に勤しむ息子だけが残された。
慰謝料など、彼女の個人資産に比べれば1%にも満たなかった。
彼女は優秀すぎたのだ。
そのため売れ残った彼女に何も知らず、金の存在すら気にせず良くしてくれた。
結婚してからも自分が経済的に支えると言ってくれた、そんな夫に命さえ投げ出すほどの愛を捧げてきた。
しかし、優しく普通だった夫はただ美人に惚れ、優柔不断ゆえに言い寄ってきた女性にいいように奪い去られてしまったのだ。
夫は知らなかった。
妻が愛した者には無条件で全てを与えるが、一度見限った人間(愛する者、この場合息子を傷つけた人)には二度と、水の一滴すら与えないということを。
彼女は夫に関わる全ての人とのつながりを絶った。
息子のために豪邸を建て、国内海外問わず本邸と全く遜色ない別荘を建てた。
息子が内定をつかんだ大手企業の株を買い占め、海外の有名企業から何人もアドバイザーを呼び、息子を様々な講演会に連れ回し成長させ、ついには独立し国内一勢いのある企業として名を馳せさせた。
独り立ちして息子からプレゼントされた豪邸に移り住み、息子の結婚相手を探していたある日、息子から悩みを打ち明けられる。
とある女性から、異常なほどアプローチされるのだという。
私たちは異母兄弟なの、それって運命だと思わない?と。
息子はもう38だが、二十代後半と言っても過言ではない若々しさがある。
一回り以上も下の女性にそのようなことを言われれば、突然いなくなった父親を勘ぐるのだろう。
その女性に会いたいと言うと、今度カフェに誘われたからそこに父親を連れてくるよう頼むと返事が来た。
そして当日。
見る影もないやせ細った男が来た。
リストラに遭い、現在職がないらしい。
「いま、相楽は社長なんだろう?娘を頼むには他にいないんだ」
「……好きな人くらい、いるから。押し付けられると、困る」
「いやでも、会ってみてどうだい?いい子だろう」
「お父さん、あたしこの人と結婚したい!」
「ほら、この子もそう言っていることだし…」
「やめてくれよ、俺は母さんを幸せにしてくれる人と結婚したいんだ。……あんたに関わる人間なんて、顔を合わせるのも嫌だ」
「母さんに何か言われたのか?でもね、父さんだってお前を手放したかったわけではないんだよ」
「愛人と結婚するのに邪魔だからじゃないのかよ」
「それは違う!誰がそんな嘘を?」
「母さんは何も言わないよ、俺がそう思ってるだけ。それに、俺がその人と結婚したってなんのメリットもないだろ」
「結婚に損得勘定はいらない!大事なのは愛だろう、なんだってそんなことを言いだすんだ?」
「さすが、不倫・離婚の経験者は言うことが違うね。ねえ、母さんも言ってやってよ。このロクでもない男にさ」
「そうね……欲に目が眩んだのかしら?
そんな売れ残りみたいなアバズレ娘、押し付けてこようだなんて。
私も売れ残りだったけどね、金目当てに結婚なんてしなかったわ。
お金なら浴びるほどあったもの。
それを知らずとも愛してくれた貴方が好きだったんだけど……お金があること、言わなくて良かったわ。
こんな薄汚いハゲ親父を息子の会社に重役として採用するはずもないし、化粧ばかり濃くて脳もない娘も嫁にはいりません。
相楽、悩んでたけど決めたわ。
あの俳優さんとの結婚、認めてあげる。
2人が準備できるまでに日本での同性婚を全国余さず認めさせてくるから、待ってなさい。」
「ありがとう!じゃあちょっと建大に電話してくる!」
「な、なんで……君は僕のことを愛してたんじゃ…」
「愛してたわよ?
でもね……私の愛って、重いの。
裏切られたら、それは全部敵意になるの。
極端なのよね……相楽を不幸にしかけた貴方を私は許さないわ。
たとえ来世でも、相楽を傷つけようとしたら……私、貴方のこと殺しちゃうかも。
ふふ、気をつけてね?
そこの見た目だけの性格ブスも、評判は聞いてるわよ?
仕事はできないし男関係で面倒起こすし。
最不良案件って本当のようね」
「そんな……お父さん!社長の奥さんになれるって言ったじゃない!!」
「あぁ、もう終わりだ……妻になんて言えばいいんだ…」
辞世の句でも詠めば?
なんて、こんなこと言ったのがバレたら、息子に見放されちゃうわ。
二度と息子に近づけないようにしとかなくっちゃ☆
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