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 最近はらいちのことで、ちょっと心がささくれ立っていたので、グミさんとのなんてことないお喋りに安心しちゃってるだけなんだと思う。
 決して、好きとかそういったやつじゃない。うん。きっとそう。
     
 ━━━━そんなことをここ三日、ずっと考えている。少しでも時間があると、また初めから同じことを延々とループしてしまうので、最近店内で設立された水泳部に参加して、プールに通い出した。ということで、今はプール施設内のジャグジーで泡に包まれている。とても気持ちいい。
「杏ぉ~、雨が降ってきちゃったー! お洗濯ベランダに干してきたわよね?」
 いつの間にか隣に座っていたドラゴンさんが話しかける。
「あーそうですね……ドラゴンさん、プールの後って直接店でしたっけ?」
「そうなのよねぇ……今日は知り合いが顔出すって言ってたからさぁ、家戻れないわぁ」
 ドラゴンさんはジャグジーの泡に揺られながら、雰囲気で指示を出した。
「じゃあ、俺先に上がって家帰りますね」
「悪いわねー」
 なんてことはない。スケジュール的に俺が先にプールから上がって、洗濯物を取り込んだり、場合によってはもう一度洗い直したりするのが効率良い。
 わかっているけど、天気に予定を左右されるのは気分が悪い。
「らいち~」
 プールサイドで水分補給をするらいちを見かけて、声をかける。
「あ、お兄ちゃん。ちょうどよかった、洗濯物お願いしていい? なんか私、最近少し太ったかもって思ってて、もうちょっと泳いで絞らなきゃないかなって……」
「そう?」
 改めてらいちを観察する。彼女は少し背が低いので、近距離で眺めると見下ろす形になる。そうなると胸の大きさ以外の情報が入ってこない。今日もいつも通り、胸は大きい。こいつは家内安全のために、しっかり運動をして、夜ぐっすり寝てもらわないと困る。
「わかった」
「む。やっぱり太ったよね? ああ~……泳がないと!」
 俺の不躾な視線を、どう解釈したのか。らいちは慌ててプールの方へ去っていった。
 結局、家で一人、洗濯物を始末することになってしまった。市民プールから出ると、思ったより強い雨に、干す前よりも濡れたタオルを想像して、絶望的な気分になった。
 傘を忘れていたので、上着を頭から被る。ドラゴンさん達に傘を届けないといけないな。などと考えながら足速に家へ向かう途中。公園に見覚えのある人影があった。
「グミさんだ……」
 見たものがそのまま独り言で出てきた。距離的に声が聞こえたわけじゃないと思うけれど、彼が振り向く。そして、俺を見つけて右手を軽く振った。

「グミさーん。何してるんですか?」
「見ての通りだよ」
 促されるまま、彼の様子を伺う。雨の平日、午前中に公園の東屋で一人、コンビニの惣菜と缶ビール、缶酎ハイを広げている。
「わかんないすね」
「実は僕もわかんない。けど、乾杯」
 グミさんは新発売と思しき、可愛らしいパッケージの缶ビールを飲み干して呟く。
「ほら、君らの店まだ開いてないから」
「あー……でも、家で飲めば良くないですか? 雨だし」
「なんっかさぁ……家じゃないんだよね」
「へー」
 なんとなく。本当になんの気無しに、彼の隣に腰掛ける。
「一本どう?」
 グミさんに酒を勧められた。
「すみません。この後洗濯物洗い直してコインランドリー行って、乾かす間にドラゴンさんに傘届けて、学校行って、その後店に入ってーなんで、飲んでる場合じゃないですね。てかビール以外全部9%だ」
「酔うために飲んでるからね。酔っ払ったついでに言うけどさ、さっきの全部フケちゃえば?」
 グミさんはかなり酔いが回っているのか、ふにゃふにゃ笑っている。
「不良だなグミさんは……」
 でも確かに。
 バイトも今日はドラゴンさんがいるし、学校も別に行かなくてもいいやつだ。洗濯も今取り込んだところでずぶ濡れだし、傘なんか俺だって傘なしで移動してるんだから、彼らだって濡れて歩けば良い。
 9%の缶酎ハイのプルタブに、指をかける。ドラゴンさんとらいちには、「友達とばったり会ったので遊びに行きます。バイト入らなくても大丈夫ですよね?」とだけメッセージを入れた。
「杏くんは不良だな。僕なんか仕事ちゃんと終えて飲んるだけなのに」
 グミさんが缶を傾けてにやけている。可愛い。
「なんか今、全部どうでも良くなって、悪魔の囁きにたぶらかされましたね」
「そっか、いいよいいよ。全部僕のせいにしちゃってフケよ。かんぱーい」
 中身が半分になった缶同士をぶつける。
 やらなきゃいけないと思っていたことを全部投げ捨てたけれど、どうってことはなかった。
 雨の中、ずぶ濡れで昼間から飲む。サラダチキンは安定の味だし、卵の燻製は食べたことがなかったので、新しい発見だった。多分、次も買う。ずぶ濡れついでに二人並んで、ブランコに乗る。低くて足が引っかかるから立ち漕ぎしかできない。いい歳して馬鹿みたいだ。グミさんも俺も、毒にも薬にもならないどうでもいい話ばかりして笑い合った。どうでも良すぎて内容なんて覚えていない。
 ただ、楽しくて、勝手に頬が緩む。憂鬱な日が、特別な日に思えた。

 俺は、過去に色々とやらかしたことがあるので酒を控えていた。なので、酔っぱらったのはかなり久しぶりだった。
「いやぁグミサァーンっ! なんか、いいですねースッゲー楽しい」
 雨降りの昼中、公園で酒を飲み、酔っ払いついでに遊具で遊んでいる。楽しい。
「あはは。僕もここまではっちゃけると思わなかった」
 ブランコに腰掛け、ずぶ濡れではにかむグミさんは、相変わらず可愛らしい。
「かわいぃなぁ。グミさん? スッゴイ可愛いですね!」
「杏君は意外と酒乱だね」
 苦笑いも可愛いグミさん。

 俺は酒色々とやらかしているから……控えていた……筈。

 彼の顔を覗き込む。会話が途切れ、目を合わせたまま数秒が経過した。なんでもいいから話をしたくて口を開く。
「グミさん。好きです」
「はいはい。ありがと」
 何も響いていないように受け流された。

 だからつい、ムキになった。

「好きってセックス前提の好きです。わかりますか?」
「はいはい。わかるわかる。そろそろ帰ろうか?」
 グミさんは変わらない様子で、後始末を始めた。

 酒は色々と……やらかしてしまう
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