僕は冷徹な先輩に告白された

隻瞳

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17話 忘れ物②×睡眠

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ピンポーン!

一方、夕陽が沈んでいくにつれて辺りがよりも暗くなる中、里奈ら無事賢人の家までたどり着きインターホンを鳴らしているところだった。

「・・・?」

しかしインターホンを鳴らして数十秒経っても家に居るはずの賢人が出てこない。
試しに何回か鳴らしてみても出てくる気配は無かった。
ついさっきまで一緒に家に居て玄関まで見送ってくれたというのに、一体どうしたのだろうか?

「おかしいなぁ。こうなったら仕方ない!!

とうとう痺れを切らした里奈はインターホンを鳴らすのは止めて、ゆっくりと玄関のドアノブを捻った。
すると鍵は掛かっていなかったのか、ドアはあっさり開いた。
ということはあの後すぐに鍵を掛けないまま出ていったのかもしれない。
里奈は予想外の事態に驚きつつもそのまま家の中に入り、玄関先で大声で賢人を呼んだ。

「賢人くーん、いるのー?鍵開いてたよー?」

それでも賢人は出てくるどころか、返事すらない。
しかし里奈は忘れてきた携帯を諦められず脱いだ靴を綺麗に揃えて、ゆっくりと進んでいった。
本来なら他人の家に誰も居なければ勝手に入ってはいけないことだが、インターホンも鳴らしたのにしかも鍵も開けっぱなしのままで出てこないとなるとやむを得ない。

里奈は自身を正当化しつつ廊下をゆっくり進んでいき、リビングへと繋がるドアを目前にするとここもドアが開けられたまま部屋の電気もつけっぱなしで隙間から明かりが漏れていた。
里奈は誰か居るのかと思いつつ恐る恐るリビングを覗いてみた。

(やっぱり誰も居ないか・・・)

さっきまで見ていたテレビの電源は切られていたが、居間と台所の電気が付いたままの状態で部屋には誰も居ないことだけあって
『静寂』としか言いようがない不穏な雰囲気に包まれていた。

里奈は少々不気味さを覚えながらもすぐに落ち着いてこの部屋の中で自身が座った場所や移動したところに携帯が落ちていないか、徹底的に探した。
しかし自身が使った椅子の下やソファーの座った位置等、携帯を落としていそうなところを探すも残念ながら見つからなかった。

となると他に思い当たりがあるのは五人でテスト勉強していた賢人の部屋がある2階しか無い。
里奈は皆と居た時とは違い延々と続く足取りをさせる雰囲気が漂う階段を一段一段と慎重に上がっていき、ようやく賢人の部屋の前にたどり着くと、部屋の中に入るためにドアノブを握ろうと手を伸ばすが・・・

(・・・う~ん、やっぱり無理な気がする!!)

あと数センチだけ手を伸ばせばドアノブに届くはずが何故か寸前で手を引っ込めてしまった。
里奈にとってこの状況で思わず手を引っ込めてしまうのも無理もなかった。
親友や後輩といった友人達と一緒に入った時はすんなり入れたが、
たった一人で彼氏の部屋に入ると思うと急に胸がドキドキしてくる。
しかしここまで来て大切な携帯を置き去りにして引き返す訳にはいかない。

(大丈夫、大丈夫よ。落ち着いて、落ち着いて・・・・・・)

里奈は少しでも緊張をほぐして、いつものように冷静になろうと、自己暗示を繰り返した、

(・・・・・・よし、行こう!)

心の準備ができた里奈は覚悟を決めてドアノブを握りしめて音を立てないようにゆっくりとドアを開けて中を覗いてみると、こちらでも部屋の電気は付いたままで誰もおらず、ベッドの上の毛布がしわくちゃになっていたこと以外は何も変わっていなかった。
 
里奈はこの状況に対して不思議に思いつつも、記憶を頼りにこの部屋の中で自身が座った場所や移動したところをを中心に携帯が落ちていないか探し出した。


「・・・あった!ここに落ちてたのね」

賢人が使うとされるデスクとは別に皆でテスト勉強する時に使ったちゃぶ台(?)式の机の下、ちょうど里奈が座っていた位置に携帯があった。
どうやらテスト勉強している最中にトイレに行くフリをして賢人の後を追い掛けて部屋を出ようと立ち上がったその拍子にポケットから落ちてしまったらしい。

「ふぅ・・・」

里奈は携帯を見つけることができ、更に無事だったことから部屋に入る前から体に走っている緊張感がすーっと抜けていき、安心して胸を撫で下ろした。

「さてと!早く帰らなくちゃ」

無事に携帯を見つけてふと時計を見てみると六時を過ぎていた。
もうここに居る用も無く、これ以上彼氏の家にお邪魔する訳にもいかないと、今度はちゃんと落とさないようにポケットではなく他の私物とごっちゃにならないよう携帯を鞄の中に入れ、鞄を肩に掛けて部屋を出ようとしたその時だった。


ーーーもぞもぞ。


「・・・!?」


部屋を後にしようとしたその時、突然後ろから何かが動く物音が聞こえてきた。
この部屋に来た時は誰もおらず誰かが入ってくる気配どころか、今この家には自分以外は居ないと思っていたはずだが、今ここで後ろに人がいると思うとあまりの恐怖に里奈は固まってしまった。

まさか泥棒?そんなはずはないと、里奈は勇気を振り絞って恐怖のあまり動けなかった体に思いっきり力を入れて物音がする後方に素早く振り向いた。

「・・・?」

しかし振り向いた先には誰もおらず壁に飾られた色鮮やかなペナントとその下にある毛布とベッドしかなかった。
ところが不思議なことに何故今まで気付かなかったのかベッドの上にある毛布は使用済みにしては、人が普通に入れるぐらいに膨らんでいた。
里奈が様子を伺っていると毛布の膨らんでいる部分がもぞもぞとゆっくり動いた。

「・・・!」

里奈は物音を立てて動くベッドの方に近づいて毛布の端を持ち、
ゆっくりと毛布をめくってみた。
すると・・・

「け、賢人くん・・・!?」

そう、布団の中では賢人がすやすやと眠っていた。
あれほど綺麗に見えた大きなみどり色のは、今ではすっかり閉じられ、すうすうと小さな呼吸を繰り返しながら眠るその姿は、さぞや気持ち良さそうだった。

「・・・少しだけなら、良いよね・・・・・・?」

そう言って里奈は賢人が眠るベッドのすぐ横に寄り添い、両腕の肘をベッドに付けて頬杖を作った。
本当は携帯を見つけたらすぐに出ていくつもりだったが、里奈は賢人が目の前で眠っているこの状況を好機・・とみて、しばらくの間だけ寝ているより賢人を眺めることにした。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・賢人くん可愛い過ぎ♡」

普通に聞こえる程度の距離で喋っても賢人はまだ目を覚まさず、あまりの可愛さに里奈はいつものように賢人の寝顔を撮ろうと携帯を取り出したが、それは流石にアウトだと思い再び携帯を鞄に仕舞ってそのまま眺めるだけにした。
賢人が元々小柄な体格であることから、里奈から見た今の賢人は2歳程度の赤ん坊が眠っているようだった。
しかしそうやって白雪姫の如く深い眠りについている賢人を眺めているうちに、里奈の体に異変が起こった。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

里奈の体はいつの間にか、今まで感じたことのない熱が全身を覆い、呼吸は一段と荒くなっており心臓の音もより一層激しさを増していた。
体だけではない。胸も乗り物酔いしたみたいにモヤモヤしてきてなんだか変な感じだった。

まさか彼氏の寝顔を見ただけで発情してしまうなどそれは先輩としても彼女としてもあるまじき行為とは分かっている。
しかし頭ではそれはいけないことだとすぐに言い聞かせられるが、体が言うことを聞いてくれない。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・少しだけ、少しだけだから・・・!」

里奈は自身を再び正当化して賢人との距離を縮めて、賢人の顔がすぐ目の前に程の距離まで近づくと自身の長髪を耳元でかきあげ・・・・・・


ーーーペロッ


一体何を血迷ったと言うのか里奈は寝ている賢人の頬をゆっくり舐めた。

「うっんっ・・・ん」

流石に体を触れられたからか、賢人は微かに声を出して反応を見せるが目はまだ開いていなかった。
ではなくで触れているが、それでも賢人の頰は実際に触ってみると意外以上にプクプクとした感触で、非常に触り心地が良かった。
 
それでも里奈は一回では物足りないのか、微かに反応する賢人が可愛くて仕方なく尚も舐め続ける。


ーーーペロッ、ペロッ


「んっん・・・ん・・・・・・」

賢人の頬を舐めれば舐める程、賢人もそれなりの反応を示す。
里奈にとってこれは幸せの他ならず興奮の度合いが高まっていく。

しかし賢人の頬を舐めているうちにとうとう我慢できなくなった・・・・・・・・・里奈は一旦舐めるのを止めたかと思いきや今度は静かに毛布を被る賢人に馬乗りからの向かって四つん這いになって上になった。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

賢人に聞こえてしまいそうな程に荒くなった吐息と鼻息を必死に押さえつけるが、横から見ていた賢人の顔が今度は真正面にあるので、恥ずかしいあまり思わず視線を逸らしそうになった。
里奈はもう一度髪をかきあげ、自身の顔を賢人の顔に近づけた。

「賢人、くん・・・」

彼の名前をそっと呟いて唇と唇が皆既日食のように重なり合おうとしたその時だった。

「んっ、う~ん・・・」

「!!」

熟睡していた賢人が突如眠っている表情を変えたと思いきやゆっくり起き上がった。
おそらく自身が乗っかったことから重さを感じ、抑えきれなかった吐息と鼻息が当たり、頬にはねっとりとした感触が伝わってくることに違和感を覚えて目が覚めてしまったのだろう。
いきなり賢人が起き上がってきた事に驚いた里奈は思わずベッドから飛び出し、賢人の様子を窺った。

「・・・?」

賢人は自分以外に誰かが部屋の中に居ることは気配ですぐに分かったが、起きたばかりで眠気が残っている影響でぼーっとした表情で意識と視界が朦朧としていたため、すぐに里奈を捉えることが出来なかった。

やがて睡眠の影響から来る疲労感に慣れてきたのか次第に意識も視界もまともになってきて・・・

「里奈・・・先輩!?」

里奈は予想外の出来事に対処できず部屋から出ていこうとも考えたが、もう手遅れで観念しようとその場に留まった。
一方の賢人はなんで怜人達と帰っていったはずの里奈が部屋に居るのかが理解できず、怒鳴るどころかあたふたしていた。

「え?里奈先輩・・・なんで!?」

「あの、その・・・携帯を忘れてきてから取りに戻ってきたんだけど・・・
インターホン鳴らしても賢人くん出てこなかったから・・・
それで勝手にお邪魔して、賢人の部屋で携帯は見つかったんだけどたまたま賢人くんが寝てたから、それで・・・」

「そ、そうなんですか・・・」

里奈から事情を聞かされてすぐに納得いった賢人だが、賢人にはどうしても気になる・・・・ことがあった。
男の子らしからぬいつもの癖で、右頬を人指し指で掻いたが、何故か違和感を感じる。

まるでローションをペンキ気分で塗られたように、謎の透明な液体が頬に付いていた。
寝ている最中、意識ははっきりしていなかったが、そのように触れられた感触があった。

しかもこの感触は初めてではない。
これと全く同じ事が起きた記憶は、賢人にとってまだ新しい。
賢人は東京の高校に転校してきてから最近までの記憶をDVDの巻き戻しの2倍速感覚で振り返ってみた。


“君の事、意外と気に入っているんだもん♡“


その瞬間、賢人の脳裏に里奈との初デートの日の記憶が蘇った。
途中で里奈の友人達に偶然(?)にも会い、帰り道にその一人である重盛蘭子と鉢合わせした時、
意味深な言葉を口にしながら頬を舐めてきたのを思い出した。

まさか、ついさっきまで自身が寝ている間に里奈は蘭子がしたこと・・・・と同じことをしたのだろうか?
いや、いつも凛としている里奈に至ってそんなこと・・・・・するはずはない!
そう疑いたくなかった賢人だったが、この状況で再び起こっているとしたら、里奈しかやる人物はいない。
賢人はすぐに確信したが、敢えて知らないフリをして里奈に質問した。

「里奈先輩、ちょっと変なこと聞くかもしれないですけど・・・
あの、僕が寝ている間に僕のほっぺた舐めたりしました・・・?」

「・・・」

言ってしまった。
こんなことを言っている時点で妄想が激しいだけのちょっとヤバい人だ。
流石にこれは引く上、聞くのにも無理があった・・・と思った矢先里奈はそのようなことをする様子はなく、むしろ恥ずかしがっている様子でゆっくり口を開いた。

「あの、その・・・別に悪気があってやったワケじゃないの!
賢人くんが寝ていた事も知らなかったのは本当よ?でも賢人くんの寝顔見ていたら、なんだか分からないけど段々変な気持ちになっていって、それで・・・」

「・・・」

「その、ごめんなさい・・・」

里奈の方もまた、賢人の考えていたのとは違い、彼女としてあるまじき行為をしたこと、そしてそれを賢人に聞かれたこと里奈は否定することなくすぐに認めて賢人に謝罪した。

これから怒られることを覚悟したのか正座になって気落ちしてしまっている彼女を見て、怒るどころか最初から里奈に怒る気など無い賢人は急にベッドから起き上がってきたかと思いきや、突然里奈の胸に勢いよく抱き着いた。
 
「・・・!?」

その表情は凛としていると同時に、何処か恥ずかしそうで瞳には熱が宿っていた。

里奈はいきなり男に抱き着かれ相手がいつか自分が抱き締めたいと思っていた賢人だったこと、もう何もかもが唐突過ぎて頬を染めた。
そんな刹那、戸惑いと熱に包まれていく里奈に、
賢人はゆっくり口を開いた。

「ぼ、僕の寝顔を見て興奮・・してもうたんやったら・・・もっと僕を感じさせてあげるわ。
だから、もうしばらくこうさせて・・・?」

「~~~っ!!」

たとえ恋人であろうと、寝ている時にそんな行為・・をされたら誰でも憤慨して「変態」罵倒するが、昔から人の人格や抱え持つ事情を理解してきた賢人は憤慨することなく、むしろ彼女里奈が考えていることに敢えて乗ることで理解してあげようと行動に出たのだ。

彼女としてあるまじき行為をしたにも関わらず、向こうから求めてくれている(?)賢人のことが嬉しくなり、それに応える意味を込めて抱き着いてくる賢人の背中に両手を伸ばして抱きしめ返した

実際に賢人を抱きしめてみると、やはり身長と体格の差もあって里奈の妄想以上に賢人は小さく感じ、里奈の胸によって賢人の顔が今にも埋まってしまいそうだった。

二人の男女によって部屋の中は言葉で表現すれば難しいといえる度合いの熱に包まれ、もはや外部から手が出せない状態がいつまでも続くと思っていたがここで・・・


ーーーキィ


「「!?」」


ドアが開く音がしたと思って見れば、その隙間から赤茶色の髪に赤い眼鏡を掛けた見慣れた顔があった。
それが誰だといえば、あの人しかいない・・・・・・・


「「り、莉央(先輩)!?」」


「ごめんなさいねー?どうしてもふたりのことが気になっちゃって・・・
それにしても、知らない間に二人ともそこまで・・・・仲良くなったんだー?(笑)」

賢人の家に戻っていった里奈のことに、莉央は彼氏と交際していた頃を思い出し、まさかと思いつつこっそり後をつけてきたのだ。
莉央に図星を突かれた二人は慌てて互いに距離を取った。

「え、いや・・・その・・・」

「あの、これには深ーいワケがあってですねー・・・」

「部屋の中で男女が、熱く抱擁し合う事にワケなんかあるのー?
・・・ささっ、私のことは気にせずそのまま続けて下さいな!」


「「いや、しませんから!!」」


その後、なんとか落ち着きを取り戻し里奈と真依は賢人にバス停まで送ってもらい、それぞれが無事に家まで帰っていった。

互いが互いの事情を知らず、思わぬ偶然が重なって生まれた事故だったとはいえ、テスト勉強中の時も含めて今回の一件で賢人と里奈は互いを知りたくても勇気が出ないせいで無意識に出来ていた距離感が縮まり、より親密な関係になれたのかもしれない。
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