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【第四話 かつき君の不思議な夏の体験記】
【4-5】
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「でも、おかあさんはきょうとのひとなの。おうたをおしえてもらったんだ」
「京都かぁ」
なるほど、さっきの手毬唄はお母さんから教わったのか。
まよちゃんは持っていた手毬をじっと見つめる。
「これ、おもいでなんだ、おかあさんの」
悲しそうな目をしてそう言った。
そうか、この子は不遇な環境で育ったのか。なんだかいたたまれない気持ちになる。
あまり親に手をかけてもらえないのだろうか。それでコンビニに寄る機会がなかったのかもしれないと、俺は考えた。
ふと、手毬の模様の色紙がところどころ剥がれているのに気付いた。
だから俺は鮭おにぎりと図工用のりをひとずつ買い足した。
席に座り、まよちゃんにおにぎりを差し出す。
「よかったらどうぞ。お腹空いてなかったら俺が食べるから」
まよちゃんはぽかんとした顔で俺を見上げる。
「……たべていいの?」
「ああ、子供は遠慮するもんじゃないぞ」
おにぎりを包むビニール袋を開けてあげる。
しばらくおにぎりを眺めていたまよちゃんは、意を決したようにはむっとひとくち。
しばらく視線が宙をさまよう。それから顔がぱああと明るくなる。素直な歓喜の表情だ。
「……おいしい、おいしいよぉ。やっぱりここは、ごくらくじょうどなんだねぇ」
ご飯をほおばりながらも、まよちゃんは確かにそう言った。
よかった、喜んでもらえて。俺はほっとした。
「けほっ、けほっ」
夢中で食べたせいか、少しむせこんだようだ。
「あわてて食べなくていいよ、ご飯は逃げないから」
「うん」
俺はたらこスパゲッティの包装を開け、よくかき混ぜてからほおばった。
まよちゃんは手を止めて俺の顔を眺めている。
「ん?」
「おしるのないおそば、おいしいの?」
変な質問をしてきた。
「うん、スープスパゲッティも好きだけど、そうじゃないのも美味しいよ」
「……へええ、いろんなごはんがあるんだねぇ、いつかはたべてみたいなぁ」
「コンビニにはたいてい置いてあるから、いつでも食べられるよ」
俺はそう答えたけれど、まよちゃんはふるふると首を横に振る。
「いつでもなんて、たべられないよ」
もしかすると、まよちゃんは貧しい境遇なのか。
聞くに聞けないことだけど、それなら普通の子供が味わうような経験を少しでもさせてあげたい。
まよちゃんはふたたびおにぎりをほおばる。
俺はコカコーラのキャップを開け紙コップに注ぐ。
薄茶色の泡が吹き上がり、静かに落ち着きを取り戻す。まよちゃんは興味津々に眺めていた。
ふと、俺の中にいたずら心がわき起こった。まよちゃんはたぶん、炭酸ジュースを飲んだことがない。
初めて炭酸ジュースを飲む子供がどんな反応をするのか知りたくなってしまったのだ。
だけどそれは罪なんかじゃない。コーラはれっきとした飲み物だ。
「まよちゃんも飲んでみる?」
「これ、のめるの?」
「甘くておいしいよ、刺激があるけど」
もうひとつ、紙コップにコーラを注ぐ。それから見本として自分のコーラを一気に飲み干し、ぷはーっとひと息ついて満足の表情を作った。
それをじっと見ていたまよちゃんは、コップを持ち上げゴクっとひとくち、コーラを飲み込む。
数秒間、全身の動きが止まった。目だけが宙をふらふらと泳いでいる。
急に目と口を大きく開けて騒ぎ出した。
「はふっ、はふっ……!」
思いっきり舌を伸ばし、手のひらでぱたぱたと叩く。同時に足もばたつかせている。
「おくちのなかに、おくちのなかにっ!」
目を白黒させて叫ぶ。
「おくちのなかに、オバケがでたああああっ!」
俺はそんなまよちゃんの姿に噴いて、笑いが止まらなくなった。
「京都かぁ」
なるほど、さっきの手毬唄はお母さんから教わったのか。
まよちゃんは持っていた手毬をじっと見つめる。
「これ、おもいでなんだ、おかあさんの」
悲しそうな目をしてそう言った。
そうか、この子は不遇な環境で育ったのか。なんだかいたたまれない気持ちになる。
あまり親に手をかけてもらえないのだろうか。それでコンビニに寄る機会がなかったのかもしれないと、俺は考えた。
ふと、手毬の模様の色紙がところどころ剥がれているのに気付いた。
だから俺は鮭おにぎりと図工用のりをひとずつ買い足した。
席に座り、まよちゃんにおにぎりを差し出す。
「よかったらどうぞ。お腹空いてなかったら俺が食べるから」
まよちゃんはぽかんとした顔で俺を見上げる。
「……たべていいの?」
「ああ、子供は遠慮するもんじゃないぞ」
おにぎりを包むビニール袋を開けてあげる。
しばらくおにぎりを眺めていたまよちゃんは、意を決したようにはむっとひとくち。
しばらく視線が宙をさまよう。それから顔がぱああと明るくなる。素直な歓喜の表情だ。
「……おいしい、おいしいよぉ。やっぱりここは、ごくらくじょうどなんだねぇ」
ご飯をほおばりながらも、まよちゃんは確かにそう言った。
よかった、喜んでもらえて。俺はほっとした。
「けほっ、けほっ」
夢中で食べたせいか、少しむせこんだようだ。
「あわてて食べなくていいよ、ご飯は逃げないから」
「うん」
俺はたらこスパゲッティの包装を開け、よくかき混ぜてからほおばった。
まよちゃんは手を止めて俺の顔を眺めている。
「ん?」
「おしるのないおそば、おいしいの?」
変な質問をしてきた。
「うん、スープスパゲッティも好きだけど、そうじゃないのも美味しいよ」
「……へええ、いろんなごはんがあるんだねぇ、いつかはたべてみたいなぁ」
「コンビニにはたいてい置いてあるから、いつでも食べられるよ」
俺はそう答えたけれど、まよちゃんはふるふると首を横に振る。
「いつでもなんて、たべられないよ」
もしかすると、まよちゃんは貧しい境遇なのか。
聞くに聞けないことだけど、それなら普通の子供が味わうような経験を少しでもさせてあげたい。
まよちゃんはふたたびおにぎりをほおばる。
俺はコカコーラのキャップを開け紙コップに注ぐ。
薄茶色の泡が吹き上がり、静かに落ち着きを取り戻す。まよちゃんは興味津々に眺めていた。
ふと、俺の中にいたずら心がわき起こった。まよちゃんはたぶん、炭酸ジュースを飲んだことがない。
初めて炭酸ジュースを飲む子供がどんな反応をするのか知りたくなってしまったのだ。
だけどそれは罪なんかじゃない。コーラはれっきとした飲み物だ。
「まよちゃんも飲んでみる?」
「これ、のめるの?」
「甘くておいしいよ、刺激があるけど」
もうひとつ、紙コップにコーラを注ぐ。それから見本として自分のコーラを一気に飲み干し、ぷはーっとひと息ついて満足の表情を作った。
それをじっと見ていたまよちゃんは、コップを持ち上げゴクっとひとくち、コーラを飲み込む。
数秒間、全身の動きが止まった。目だけが宙をふらふらと泳いでいる。
急に目と口を大きく開けて騒ぎ出した。
「はふっ、はふっ……!」
思いっきり舌を伸ばし、手のひらでぱたぱたと叩く。同時に足もばたつかせている。
「おくちのなかに、おくちのなかにっ!」
目を白黒させて叫ぶ。
「おくちのなかに、オバケがでたああああっ!」
俺はそんなまよちゃんの姿に噴いて、笑いが止まらなくなった。
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