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【第三話 みずほ先輩と情熱的なラブレター】

【3-3】

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「『10』と『6』の数字がついたふたつの丸だけどね、文中には『飛び散る汗はまるで宝石のよう』って書かれているわ。キラキラマークが付いているし、あたかも宝石を連想させようとしているじゃない」
「なるほど。――あっ、もしかして数字は『誕生石の月』を表しているってことすか」
「さすがね、かつき君。でももしそうなら、どの宝石になるのかわかるかな?」
「待ってください、すぐ調べます!」

 みずほ先輩と俺はふたりで顔を寄せてスマホの画面をのぞき込む。検索したところ、十月がオパール、それに六月がパールだった。

「って、全然意味がわからないっすよ」
「ああ、それなんだけどね、誕生石には和名があるのよ。ちなみにオパールは『蛋白石』、パールは『真珠』だよね」
「蛋白石、真珠ですか――あっ!」

 聞いて正直、驚いた。

 そう、俺はそのに心当たりがあったのだ。



白石真しらいしまこと』――それは猪俣と接点のある人物だった。

 ショートボブの髪型で背は高いほう。中学生の頃は男子に混ざってサッカーをやっていたという快活な女子。サッカーが心底好きなのか、今は男子サッカー部のマネージャーをやっている。

 猪俣とは中学時代からのクラスメイトで、一緒にいるところをたびたび見かけた。

 知る人によれば、「私と猛司は戦友だから!」が彼女の口癖らしい。

 宝石が彼女の名前を示していることは確かだと思う。だけどどうも納得できない。

「その近しい関係性から察するに、あのラブレターを白石が書いたと思えないっす」
「確かに本人かどうか、確認してみる必要がありそうね」

 みずほ先輩は本棚に足を運び、ファイルを一冊取り出した。

 それは新入生が入学時に記載した自己紹介のコピーをファイリングしたものだ。

 ページをめくり、途中で手を止める。そこには白石の名前と自己紹介文があった。

「見比べると、筆跡はきれいに一致していると思わない?」
「確かにこれは間違いないとしか……」

 ともに簡単に真似できない、特徴的な丸文字だ。本人だと納得せざるを得ない。

 けれど白石が親しい猪俣に対して遠回しなラブレターを書いたとすれば、その理由は何だろうか。

 ふと、猪俣の『みずほたん』という呼び方を思い出した。

 それから、みずほ先輩に対する猪俣の馴れ馴れしい態度。

 そして、もらったラブレターをぞんざいに扱うという違和感。

 さらに、ラブレターを書いたのは親しい女子だという事実。

 情報は俺の中で輪を形成してゆく。

 そしてひとつの仮説にたどり着いた。まさかと思い、みずほ先輩に尋ねる。

「もしかして猪俣って、みずほ先輩に気があるんじゃないですか? それが謎の動機だと、俺は思ったんです」

 みずほ先輩はきょとんとしているが、俺は自分の仮説を説明する。

「猪俣はみずほ先輩に近づくための作戦を考えた。生徒会がお悩み相談をしていると知り、白石と結託して謎を込めたラブレターを書き上げてもらう。そして謎解きを口実にして、みずほ先輩を相談窓口として指名した」

 そうだとすれば、もらったラブレターをみずほ先輩に渡したことも納得がいく。

 送り主の名前が滲んでいたのは、涙のしずくではなく、謎かけの必要条件だったのだろう。

「謎が解けたらラブレターを取りに来ると、猪俣は言っていました。このラブレターは、ふたりの接点を維持するにも有効だってことです」

 そして謎が解けずに悩めば悩むほど、みずほ先輩は猪俣のことを脳裏に思い描くだろう。猪俣を意識させるための仕掛けなのか。

「なるほど、そう考えるとつじつまが合うわね」

 聞いたみずほ先輩は、好意を寄せられていると知っても顔色ひとつ変えることはない。ラブレターを再読し考えを巡らせている。

「この文面、ほんとうに謎かけのためだけに書かれたものなのかなぁ……」

 突然、何か閃いたようで、パソコンの画面と向き合う家須先輩の背中に声をかけた。

「そうだ家須君、ひとつお願いがあるんだけどいいかな」

 いつにもまして深い黒を湛えた瞳。真剣なその横顔に俺はどきっとした。

 そして、みずほ先輩が考えたのは、ラブレターにまつわる真の謎を解くための方法だった。

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