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【第二話 みずほ先輩は女優さんに怒られる】
【2-4】
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★
みずほ先輩と俺に用意されたのはカフェテラスの一角にある白い円卓。
場面の雰囲気作りのため、画面の隅っこにカップルを映したいとのことらしい。
けれど制服姿でそんなことしていいのか?
「あの、俺たち高校生っす。親も学校も承諾してないっすよ」
「構わねえ、すみっこのほうなんざ誰も見ねえしな。それにこんな貴重な体験を逃していいのかよ。よくないよな?」
いやおうなしに断る路線が塞がれる。
「誰もやるなんて言ってないっす。それに素人っすよ、俺たち」
「凝った演技はいらねえ。普段通り、カップルらしく振る舞っててくれればいいからさぁ」
そう言われても、あくまで先輩と後輩――いや、主人と下僕である。
しかしはた目には、そんなふうに見えてしまうのだろうか。こんな、消しゴムのカスのよれたやつみたいな男とカップルに思われるなんて、みずほ先輩に悪い気がしてしまう。
迷っていると、カフェショップの店員がてんこ盛りのフルーツパフェをふたつ運んできた。それらが指定の円卓に置かれる。
その瞬間、みずほ先輩が振り返る。拳を固く握りしめている。
「かつき君。ぜひやりましょう!」
ごくっと喉を鳴らして意思を表明した。
「みずほ先輩、今絶対、パフェを見て意思が変わりましたよね」
「そんなことはありません! 最初から助けてあげたいと思っていました!」
みずほ先輩はドヤ顔で俺に訴える。こうなったら彼女は引くことを知らない。
「……まあ、食ってるだけでいいなら」
「こほん、妥当な判断ね。これも社会貢献の一環よ」
そういうとみずほ先輩はくるりと背を向けて小さなガッツポーズをとった。
やっぱりこのひとは、スイーツという魔物によって脳内ホルモンがだだ洩れになる性質らしい。
★
「テイクワン、スタート!」
スレートの軽快な音が響く。遠方の固定カメラは芸能人のふたりに向けられ、ショルダーカメラのカメラマンが彼らのサイドアングルを捉える。
シリアスな場面のようで、ベンチに並んだふたりは思いつめた表情。放送時にはバラードが差し込まれそうだ。
みずほ先輩はつま先で俺のすねをとんとんと小突く。
「カメラを気にしちゃ駄目。パフェに全神経を集中して食するのよ」
「いや、カップルの役なんですから、あーん、とかするのがお約束でしょ」
スプーンでクリームをすくって目の前に差し出すと、みずほ先輩はびくりと身をそらし、顔を赤らめた。
「ばっ、ばかっ! そんなことできるわけないでしょ! だいたい女子に気安いのはいろいろ誤解を招くのよ。自重しなさい!」
みずほ先輩はあわてて自分のパフェをすくい上げ口にかき込む。
顔を上げると、鼻の頭にはクリームが乗っていた。
もうひとくち食べると、鼻のクリームはさらに大きくなった。
すっとしたきれいな鼻筋に乗ったクリームは、まるで富士山の雪帽子のようだ。
「あ――」
「なに?」
当の本人は気づいていない。言うべきか受け流すべきか迷ったけど、撮影中だけにNGの原因となったらまずい。
俺は意を決して伝えることにした。
「みずほ先輩って、ほんと鼻につくひとっすね」
とたん、みずほ先輩の顔が紅潮する。しだいに怒り顔になった。
「なっ、なによ!『鼻につく』なんて、かつき君はわたしがうっとうしくて嫌だってこと⁉ それともさっそくわたしに飽きたってこと⁉ どっちよ! でもどっちの意味でもあんまりよ! わたし、かつき君のこと、もっと誠実なひとだと――」
「あっ、えーと、その……」
みずほ先輩は意味を大幅に誤解したらしい。こういうときは言葉で説明しても感情が先行し収集がつかない。となると無実の証明は行動あるのみだ。
俺はすかさず手を伸ばし、親指の腹でみずほ先輩の鼻先をぬぐった。
「――あっ!」
誤解に気づいたみずほ先輩はすぐさま閉口した。指についたクリームをぺろりと舐める。
「鼻先にクリームつけてむきになるみずほ先輩、めっちゃ可愛いですよ」
とたん、みずほ先輩の顔が真っ赤に燃え上がる。赤面レベルが3に上がった。
「なっ、なっ、何言っちゃってんのよー! とっ、とっ、尊すぎて大罪よーっ!」
そう叫んだ瞬間――。
「ハイ、カットォォォ‼ そこ、盛り上がりすぎィィィ‼」
監督がメガホンを俺らに向けて声を張り上げた。
やばい、みずほ先輩は鼻クリームというハプニングについ、自身の立場を忘れてしまったようだ。
「「すっ、すいませんっ! お許しを!」」
そうして俺たちふたりはひたいに汗を浮かべ、監督に平謝りすることとなった。
みずほ先輩と俺に用意されたのはカフェテラスの一角にある白い円卓。
場面の雰囲気作りのため、画面の隅っこにカップルを映したいとのことらしい。
けれど制服姿でそんなことしていいのか?
「あの、俺たち高校生っす。親も学校も承諾してないっすよ」
「構わねえ、すみっこのほうなんざ誰も見ねえしな。それにこんな貴重な体験を逃していいのかよ。よくないよな?」
いやおうなしに断る路線が塞がれる。
「誰もやるなんて言ってないっす。それに素人っすよ、俺たち」
「凝った演技はいらねえ。普段通り、カップルらしく振る舞っててくれればいいからさぁ」
そう言われても、あくまで先輩と後輩――いや、主人と下僕である。
しかしはた目には、そんなふうに見えてしまうのだろうか。こんな、消しゴムのカスのよれたやつみたいな男とカップルに思われるなんて、みずほ先輩に悪い気がしてしまう。
迷っていると、カフェショップの店員がてんこ盛りのフルーツパフェをふたつ運んできた。それらが指定の円卓に置かれる。
その瞬間、みずほ先輩が振り返る。拳を固く握りしめている。
「かつき君。ぜひやりましょう!」
ごくっと喉を鳴らして意思を表明した。
「みずほ先輩、今絶対、パフェを見て意思が変わりましたよね」
「そんなことはありません! 最初から助けてあげたいと思っていました!」
みずほ先輩はドヤ顔で俺に訴える。こうなったら彼女は引くことを知らない。
「……まあ、食ってるだけでいいなら」
「こほん、妥当な判断ね。これも社会貢献の一環よ」
そういうとみずほ先輩はくるりと背を向けて小さなガッツポーズをとった。
やっぱりこのひとは、スイーツという魔物によって脳内ホルモンがだだ洩れになる性質らしい。
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「テイクワン、スタート!」
スレートの軽快な音が響く。遠方の固定カメラは芸能人のふたりに向けられ、ショルダーカメラのカメラマンが彼らのサイドアングルを捉える。
シリアスな場面のようで、ベンチに並んだふたりは思いつめた表情。放送時にはバラードが差し込まれそうだ。
みずほ先輩はつま先で俺のすねをとんとんと小突く。
「カメラを気にしちゃ駄目。パフェに全神経を集中して食するのよ」
「いや、カップルの役なんですから、あーん、とかするのがお約束でしょ」
スプーンでクリームをすくって目の前に差し出すと、みずほ先輩はびくりと身をそらし、顔を赤らめた。
「ばっ、ばかっ! そんなことできるわけないでしょ! だいたい女子に気安いのはいろいろ誤解を招くのよ。自重しなさい!」
みずほ先輩はあわてて自分のパフェをすくい上げ口にかき込む。
顔を上げると、鼻の頭にはクリームが乗っていた。
もうひとくち食べると、鼻のクリームはさらに大きくなった。
すっとしたきれいな鼻筋に乗ったクリームは、まるで富士山の雪帽子のようだ。
「あ――」
「なに?」
当の本人は気づいていない。言うべきか受け流すべきか迷ったけど、撮影中だけにNGの原因となったらまずい。
俺は意を決して伝えることにした。
「みずほ先輩って、ほんと鼻につくひとっすね」
とたん、みずほ先輩の顔が紅潮する。しだいに怒り顔になった。
「なっ、なによ!『鼻につく』なんて、かつき君はわたしがうっとうしくて嫌だってこと⁉ それともさっそくわたしに飽きたってこと⁉ どっちよ! でもどっちの意味でもあんまりよ! わたし、かつき君のこと、もっと誠実なひとだと――」
「あっ、えーと、その……」
みずほ先輩は意味を大幅に誤解したらしい。こういうときは言葉で説明しても感情が先行し収集がつかない。となると無実の証明は行動あるのみだ。
俺はすかさず手を伸ばし、親指の腹でみずほ先輩の鼻先をぬぐった。
「――あっ!」
誤解に気づいたみずほ先輩はすぐさま閉口した。指についたクリームをぺろりと舐める。
「鼻先にクリームつけてむきになるみずほ先輩、めっちゃ可愛いですよ」
とたん、みずほ先輩の顔が真っ赤に燃え上がる。赤面レベルが3に上がった。
「なっ、なっ、何言っちゃってんのよー! とっ、とっ、尊すぎて大罪よーっ!」
そう叫んだ瞬間――。
「ハイ、カットォォォ‼ そこ、盛り上がりすぎィィィ‼」
監督がメガホンを俺らに向けて声を張り上げた。
やばい、みずほ先輩は鼻クリームというハプニングについ、自身の立場を忘れてしまったようだ。
「「すっ、すいませんっ! お許しを!」」
そうして俺たちふたりはひたいに汗を浮かべ、監督に平謝りすることとなった。
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