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【第二話 みずほ先輩は女優さんに怒られる】

【2-1】

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 という経緯で生徒会に入会してから、かれこれ半月が経つ。

 みずほ先輩の取材に付き合わされること、今日で五回目。

 俺はついに、校外の取材へと繰り出したのだ。はじめての遠征に気分が高揚する。

 放課後の活動なので、ふたりして制服姿のままだ。隣のみずほ先輩は一眼レフを携えている。

 制服にカメラの取り合わせって、ミスマッチだけど目的意識が高そうに見えるから不思議だ。

「校外の取材って、校内と違って使命感があふれてきますね」
「部活動の取材だって大切なのよ。夏季大会が近いから、売り出し中の選手を紹介しなくっちゃ。そういえば最近、きみのクラスの男子で、サッカーやってる子をひとり、取り上げたよ」
「広報誌は注目度高いらしいっすから小躍りするでしょうね。まあ、サッカー部の奴とはあんまり接点ないですけど。誰っすか?」
「確か、猪俣いのまた君って名前だったよ」

 猪俣はいかにも体育会系の、立派なガタイをした奴だ。俺とは接点がなさすぎて、あまり口を聞いたことがない。

「ああ、ちょっとむさ苦しそうな奴っすね」
「そうは言わないの。鍛えてるって言ってあげて」
「あーい」

 とりとめのない話をしながら足を進める。高校の最寄りの駅で電車に乗る。ふたつとなりの駅で降りて、しばらく歩いた。

 たどり着いたのは広々とした空の下、店舗が建ち並ぶショッピングモール。

 さまざまな洋服や装飾品の小売店舗、飲食店、それにカフェ。

「しっかし、学校帰りにこんなところに立ち寄っていいんすかね」

 遠慮がちに尋ねるとみずほ先輩は数歩、前に出て振り返る。少しだけ身を屈め上目遣いで俺を見つめた。

 立てた人差し指をピンク色の唇の前でチッチッと左右にふる。

「遊びじゃないの、これは生徒会の大事な仕事なのよ」
「それ、大義名分っすよね。だって先輩なんだか楽しそうだし」
「わたしはいつでも真面目です!」

 大きな漆黒の瞳が鋭い眼光を放つ。見上げる視線が俺を捉えて離さない。まるで心臓をつかまれたような感覚だ。

 自覚はあるのだろうか、自然体の美形はそれだけで罪だ。

「くれぐれも品のないことはやめてよね。たとえば試食をがっつくとか」
「がっつくのがだめなんすね。じゃあちょっとつまむくらいはいいんっすね」
「えっ、まあちょっとなら……」

 一瞬、ためらいが見えた。その反応に俺は納得する。

「みずほ先輩、さては取材でつまみ食いしてるんですね」
「何言ってるのよ! 記事にするには実体験が必須なのよ!」
「あっ、やっぱり食ってますね。しかもいろんなのをちょこちょこと」
「なんでも節度が大切よ! かつき君も記事書くんだから、立場をわきまえた試食を実践しなさい!」

 みずほ先輩は顔を赤らめ、むきになって言い返す。

 俺は手にした記録用のボードをひらひらと翻す。

「はいじゃあ、今度の広報誌は『みずほ先輩のつまみ食い放浪記』って題名にしますね」
「センスは認めるけど個人的感情でNGよ! あと、必要経費は出せるから、おみやげを買って地域に貢献すること」
「ははーん、それが明日のおやつになるんですね」
「過酷な執筆を乗り切るには希望が必要なのよ!」

 言い合っていると、ふと、誰かの視線を感じた。みずほ先輩も気づいたようで同時に目を向ける。

 すると、サングラスをかけたヒゲ面の男がベンチにふんぞり返り俺たちを見ていた。

 いい歳に見えるが、長袖ストライプのTシャツとジーンズというラフないで立ち。両手の親指と人差し指でファインダーを作り俺たちを捉えて不気味な笑顔を浮かべた。

「君たちいいねぇ~、それこそ青春の構図だよぉー。おじさん羨ましいなぁ」
「「……」」

 明らかに一般人を超越したアクの強さを醸し出している。怪しさ満載の様子に警戒心が発動した。

 俺はみずほ先輩と小声でやり取りをする。

「あれ、絶対やばい人っすよね。静かに立ち去りましょう」
「触らぬ神に祟りなし、それが賢明ね」

 俺たちは目をそらし、何食わぬ顔をして静々とその場を去っていった。

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