21 / 22
5.ホーム
4
しおりを挟む「何だこの光は……!」
その場の全員が眩い光に呑まれた後。
白い光が徐々に霧散しました。
「くっ……あの似非神父、中々やるわね」
キマイラとシアンの前に、いつの間にか三つ編みの女が立っています。毛束の内1つは髪紐が切れて、艶やかな黒髪がカーテンのように広がりました。
「貴女は……! これは、転移魔法……?」
ゴーストを目の当たりにしたかのようなオルターに、女は紅を差した唇をにっこり引き上げます。
「ええ。お察しの通り、転移魔法です」
女は固まっているキマイラたちを、首だけで振り返りました。「誰?」、という疑問を顔に張り付けているシアンに、懐かしむような笑みを送ります。
「ここまで正確な座標に飛べるのは、1000年にひとりの天才大魔導士だけですよ」
「エリィ……? エリィなの!?」
小柄な身長とほぼ同じ長さの杖を、エリィは胸の前で構えます。そして杖の先端で何度か床を叩くと、窓の開いていないリビングに潮風が吹き始めました。
「ここは任せて、あなたたちは早く行きなさい!」
『エリィも一緒じゃなきゃダメだ!』
エリィの足や腕に絡むドロドロの触手を、エリィは力任せに引き剥がします。
「これからシアンの大っ嫌いな魔法を発動しますから! 早く連れて行きなさい、シアン!」
動こうとしないキマイラを背に担ぐと、シアンは部下たちの制止を振り切って窓を破ります。小屋を脱出する際に見えたのは、「超改良版・全自動洗浄泡!」と高らかに叫ぶエリィの後ろ姿。それから、小屋に渦巻く荒波でした。
シアンは戻ろうと抵抗するキマイラを肩に背負い、しばらくの間全力疾走していました。しかし、小屋から大分離れた頃――。
「お、重い……」
とうとうシアンはキマイラを地面に降ろしました。
無理もありません。キマイラは森に棲むボス熊よりも体重があるのですから。
「キマイラ……」
降ろせばキマイラが戻ろうとするのでは、というシアンの心配は杞憂に終わりました。立派な牡鹿に変身したキマイラは、シアンを背に乗せて走り出します。小屋とは別の方向へ。
「このまま北に向かって! 森から出る方法はいくつか考えておいたんだけど、オススメは北ルートなんだ」
頷くキマイラに、シアンはさらに「鳥の羽って生やせる?」と問いかけました。
キマイラの答えが出る前に、加速する鹿は森を抜けます。木々が無くなり、目の前に待つのは青緑の海と切り立った崖です。
「待って! 羽! 羽先に出さないと――」
高い跳躍の後。空中に弧を描いて飛ぶ鹿とシアンは、海めがけて落ちていきました。
そして波間に触れる寸前。鹿の背中に巨大な翼が生え揃ったのです。
「わぁ……! キマイラすごい!」
鹿と鳥の混ざった生物の羽ばたきは風を起こし、ふたりを透き通った青空へと押し上げました。
空と海の間を自由に駆けるキマイラの背に、シアンは頬を寄せます。
「ねぇ、これから色んなところに行こうよ。大丈夫。キマイラのタルトを食べれば、誰だって君のことを好きになるよ。そうだ、いっそ歩き売りのタルト屋さんにでもなる? まずは王国を出て、それから――」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
転生TS少女妖精姫クララちゃん
天野外留
ファンタジー
タバコを吸いにパチ屋から出ると、異世界でクララ・ベル・ナイト・フォース(推定一才)として生まれ変わっていた。
恵まれた環境でもう一度やり直す機会を得たクララは、今度こそ自分の幸せを見つけられるのか?
アンチエイジャー「この世界、人材不足にて!元勇者様、禁忌を破って若返るご様子」
荒雲ニンザ
ファンタジー
ガチなハイファンタジーだよ!
トロピカルでのんびりとした時間が過ぎてゆく南の最果て、余生を過ごすのにピッタリなド田舎島。
丘の上の教会にある孤児院に、アメリアという女の子がおりました。
彼女は、100年前にこの世界を救った勇者4人のおとぎ話が大好き!
彼女には、育ててくれた優しい老神父様と、同じく身寄りのないきょうだいたちがおりました。
それと、教会に手伝いにくる、オシャレでキュートなおばあちゃん。
あと、やたらと自分に護身術を教えたがる、町に住む偏屈なおじいちゃん。
ある日、そののんびりとした島に、勇者4人に倒されたはずの魔王が復活してしまったかもしれない……なんて話が舞い込んで、お年寄り連中が大騒ぎ。
アメリア「どうしてみんなで大騒ぎしているの?」
100年前に魔物討伐が終わってしまった世界は平和な世界。
100年後の今、この平和な世界には、魔王と戦えるだけの人材がいなかったのです。
そんな話を長編でやってます。
陽気で楽しい話にしてあるので、明るいケルト音楽でも聞きながら読んでね!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる