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『普通にはもう飽きた。』夢の館での<出会い>編 ~ 1 ~

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『夢』
千早「……ん、っ、すぅ…。」



藍沢千早は夢を見ている。
目の前には深い森が広がっているが一本の道が伸びているだけで周りには何もない。その道を私は歩いていた。
しばらく歩いていると、少し先に影が見える。そこは洋館だ。
千早「何?ここ」これは夢だという自覚があるのにとてもリアルに感じる。もしかしたら現実かもしれないと思うほどに。既に開いていた門をくぐり


その洋館の扉を開けると中は薄暗くてよく見えない。
一歩踏み出すとその瞬間、世界が変わった。暗い部屋から明るい外の世界へと景色が変わる。眩しい光で目がくらむが徐々に慣れてくる。開放的な空間で窓から外を見ると森から入ってきたはずなのに黄金色の平原が広がっている。
千早「なにこれ……」



勝手口のような扉から外にもう一度出るとさやさやと気持ちがいい風が吹く庭だった。パラソルとテーブルが備えられ、花壇にかわいい花が咲いている。
とさり、と椅子に座ると優雅な気持ちになり

千早(紅茶でも飲みたいな)

そう思っていると噴水の影から人が出てきた。

千早(……武史?)
クラスメイトの男子が出現した。

武史「えっ?何?なんだここ」
不思議そうな表情を浮かべてキョロキョロしているのがどこか愛らしい。
武史「千早、か?俺寝てたはずなのに何でこんな所にいるんだ?」

そんなことは正直私のほうが聞きたいが武史の服装はいつもの学生服では無く中世の執事のようだ。パリッとした服が似合っている

千早「ここは私の夢の中だよ。」
そう夢の世界の武史に説明するのがおかしくて
千早「ねえ、紅茶でも入れてきてよ。」
武史「へ?ああ、わかったよ。」
おお?私が無茶振りすると武史が従い洋館の中に入っていく。手のこんだ夢だ。しばらくすると紅茶セットを持って武史が戻ってくる。お菓子付きだ。
武史「はいどうぞ。砂糖とか入れるのか?」
千早「ううん。ストレートティーにして。」
武史「了解。」
そういうと先程のおどおどした態度が一変して私の横に控える。



私はふと気になって自分の身体を見た。そこには普段着ているパジャマではなく令嬢と言った人種が着ているような鮮やかな衣装に身を包んでいた。
武史「お待たせ。」
カップに入った紅茶を持ってきてくれたので受け取る。一口飲むと甘い味が広がる。とてもおいしい。
武史「うまいか?よかった。」
安心したように笑う顔が可愛くて思わず笑みが出る。

紅茶は香り高くまろやかな口当たりで本当に美味しい。夢の紅茶はどんな茶葉を使っているんだろう、なと、自分で考えて自分が笑ってしまう。夢の中で紅茶について考えているなんて滑稽だ。

武史「……なんか変な夢だなぁ」
千早「そうだね。まあ夢だからしょうがないけど。」
武史は不安げにここはどこなんだろう、と辺りを見回しながら言った。確かに普通ならありえない。夢だとしたら随分とリアルな夢だ。
千早「知らない。それより足でも揉んでよ。」
冗談混じりでそういうと武史は言うとおりにしてくれた。
武史「んーこうかな?痛くないか?」
優しく足のマッサージをしてくれる武史はとても優しい。
もしかして凄くいい夢なんじゃなかろうか。
千早「んっ、気持ち良い。もっと強くして」
武史「おっけ。」

夢の中の武史は私をとても大事に扱ってくれている。現実の武史はあんなに冷たいのに。
夢の中では私は素直になれるし武史もとても優しい。

千早「ねえ、武史。」
武史「ん?なんだ?」
千早「キスしたい。」
武史「え?いや、それは……」
千早「なんで?夢の中じゃん。」
武史「夢の中でも駄目なもんはダメだろ。」
千早「いいから早くして。」
そう言うと武史がふっと、表情が無くなり私の唇を啄むようにキスする。
千早「んっ、ちゅっ、んんっ」
舌を絡めて唾液を交換しあう。
千早「はぁっ、武史、好きっ武史も好きって言って!」
武史「好きだよ。」
千早「嬉しいっ、ねぇ、もういっかい。」
武史「うん。」
何度も何度も口づけを交わす。まるで恋人同士みたいに。
千早(こんなに幸せならずっと覚めなければいいのに)
そんなことを考えているとだんだん意識が遠くなっていく。

千早(待って!まだ起きたくない!!お願い、もう少しだけ、!!……..)


目がさめるとそこは見慣れた天井だった。
起きたばかりなのに思考がクリアでとてもすっきりしている。
ベッドから降りてカーテンを開けると朝日が差し込んでくる。
いつもより体が軽い気がするのはきっと昨日見た夢のせいだろう。
武史と唇を重ねた。夢を見たんだ。
お互い初めてでぎごちなかったけれど回数を重ねるごとに少しずつ慣れてきた。
武史は言えば何でもしてくれた、私の夢なのだから当たり前なのかも知れないが夢の記憶がしっかりとしすぎていて今が現実なのかも疑うほどだ。

千早「はぁ。」

思い出すと恥ずかしくなる。でも、幸せだった。
今日も学校がある。憂鬱だが行かないわけにはいかない。

いつも通り制服を着て鏡の前で髪をとかす。
いつもと同じ朝、いつもと変わらない日常、違うことなどなにもない。教室に入って軽く挨拶をかわし。
私が座っていつも通り本を読んでいれば武史が近寄ってくるはずだ。私の同僚アイドルの水瀬雫の為に。
武史が水瀬雫のことを好きなのは最初から分かっていた。武史は自分から雫のことを聞く事は無い。私が情報を提供するのを待っている。

何故だろう。何故、雫なんだろう。私はこんなに近い筈なのに遠い。
私もアイドルなのに選ばれたのは雫だった。
水瀬雫が魅力的なのは知っている、知りすぎていると言ってもいい。比較されるのはいつも彼女だ。そして私は勝てない。

思考がネガティブになっているようだ。今日はいい夢を見たし、いい一日かもしれない。

だが、それを裏切るように武史は話しかけてはくれなかった。
私を無視し少し近づくとどこかへ行ってしまう。
こんな事はこれまで一度もなかった。決定的に私は何かを間違ったんだろうか。わからない。
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