「悪」と「罰」

夏目綾

文字の大きさ
上 下
33 / 43

第三十三話

しおりを挟む
「私、初めて自分の意志を持ってするわ!!大丈夫、私は馬鹿ではないの。私、れいこさんの元へ行くわ!もう、引けない。何をされても受け入れるわ。馬鹿でいるより、なおに許されないより・・・私、れいこさんに許されたいの・・・。」

あれからすみれは何度も何度も考えた。

許してくれない大好きななお。
許してくれていた大好きなれいこ。

すみれは意を決して、部屋を出る。
これはただ部屋を抜け出すだけではない。なおから抜け出すのだ。馬鹿な自分から抜け出すのだ。

さよなら、何もできない馬鹿な自分。

そしてすみれは一心不乱に走り、れいこの部屋へとやって来た。
何もなかった頃のように、すみれはドアをノックする。

あの時この後、私は酷い目にあったのだわ。れいこさんが怖くて仕方なかった。
でも、今は捨てられるのが怖い。許してくれなくなるのが怖い。

すみれを許し続けてくれた唯一の人物は、れいこだった。
すみれは涙をためながらドアをノックし続けた。

「うるさいわね。誰よ。」
れいこが不機嫌そうな声で、そしてこれまた不機嫌そうな表情で出てきた。
「れいこさん・・・。」
そこにはすみれが泣きそうな顔で立っていた。
すみれを見た瞬間、その表情は一層曇る。
あれほど、自分を蔑んだすみれがなぜここに来るのか。
また見下されるのだろうか。

「すみれちゃん、私、何とかして貴女を手に入れたいの。それは変わってないけれど。今はそんな気分に全くなれないの。今は顔も見たくない。出て行って。」
れいこはドアを閉めようとする。
しかし、ドアを力ずくで閉めるのをすみれは阻止した。
並々ならぬ決意があるらしい。このようなすみれを見るのは初めてかもしれない。
だが、れいことてあの屈辱を忘れたわけではない。絶対にすみれを部屋に入れさせたくはなかった。
「帰って頂戴。」
「嫌です、れいこさんに許してもらうまで帰りません。」
「今はさよならよ、すみれちゃん。」

今度こそドアを閉めて追い出してしまおう。
彼女がした仕打ちを今は忘れることができない。この完璧で今まで失敗などしたことのないれいこを敗北へと追いやったのだ。今は彼女の一挙一動にれいこは苛立ちを感じていた。

「れいこさん!!待って!!」
「・・・!?」

れいこは目を見開いた。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。が次第に冷静になってきて目の前の視界がはっきりしてくる。
れいこの唇にすみれの唇が触れている。食らいつくように彼女は必死にれいこにキスをしていた。
「・・・んっ・・・。れいこさん、もっとします。もっとさせてください。許されるまで、ずっとします。私、私・・・!!」

一体彼女の身に何が起きていたのか。姿を消した数日、何が起こったのか。
いくら、先を読むのが得意なれいこもこればかりは思考が追い付かない。
片目を細めてすみれ見ていると、彼女は信じがたい行動に出た。
いきなり制服に手をかけて脱ぎ始めようとしたのだ。自分で以前脱がしておいたが、れいこは困り果ててしまい、ひとまずすみれを部屋の中へ押しやった。

「貴女、何をするつもりなの?私、そう簡単には許したくないのだけれど。」
すると、すみれは先ほどまで泣き顔だったが今度は意志を持った表情でれいこを見る。
そして、また服を脱ぎ始めた。
「だから、何をしているのよ?貴女、あんなに嫌がっていたじゃない。」
「なおは絶対だと思っていました。なおはずっと私を助けてくれるから。だから私は何度もなおに全て許してきたのです。キスも身体も・・・もっと酷いことも。でも、なおは結局、私を許してくれませんでした。私は、最初から何をしても許されなかったのです。だから、私は思いました。私は馬鹿でどうしようもなくって、だからなおに怒られるし許してくれないんだって。」
「すみれちゃん・・・?」
「でも、私、許されたい。本当は許されたいのです。れいこさんはいつもおっしゃっていました。“貴女は私に許されているのだから”って。あの時、私はれいこさんを決して許しませんでした。でも、こんな私をずっと許してくれていたのはれいこさんでした。私は、結局なおと同じことを大好きなれいこさんにしていたのです。ごめんなさい。ごめんなさい。」
「・・・・・・。」
すみれの言うことは分かるようで分からない。自分だけが納得していることを言うから客観的に見ることができない。
ただ、彼女はれいこに許しを乞うているらしい。それだけは分かった。
そう考えていると、すみれはまた服を脱ぎ始める。
この行為もまたれいこには分からない。

「ねぇ、だから貴女は何がしたいの?」
全ての服を脱ぎ捨てるとすみれはこう言った。
「私、れいこさんに全てを見せたいのです。私の全部。これで信頼してくれますか?」
なおもれいこが黙っていると、今度はすみれがれいこに跪きだす。そして彼女の足に、そっとキスをした。
「・・・!?」
そしてすみれはれいこを見つめる。
それは、れいこがずっとそそられていたあの目だ。

「お願いです。許してください。」

れいこは目を見開くと両手で手を抑える。そして、歓喜に打ち震えてきた。
「すみれちゃん、立って。」
すみれを引っ張って立たせると、彼女の顎を撫でるように触る。

「すみれちゃん、私のところに戻ってきたの?」
すみれは何度も頷く。

「すみれちゃん、私のことが好きなの?」
すみれは涙をためながら何度も頷く。

「すみれちゃん、私が貴女に何をしてもいいの?」
「してください。それでも私はれいこさんと一緒にいたい。あの日々のように。忘れようとしても忘れられなかった、あの日々のように。」

「来なさい!!」
すみれの顔を強引に引き寄せると、れいこは彼女に口づけた。
深く。
深く。
何度も、舌を入れて、絡ませて。
そして、すみれを抱きしめる。

「・・・勝った・・・。」
「れいこさん・・・?」
れいこはすみれを力強く抱きしめながら震えだす。
そして、天井を見上げて笑いだした。

「勝った!勝った!!勝った!!!私の勝ち!私の勝ちだわ!!」
すみれはれいこの想いは一かけらも理解していなかったが、抱きしめられたのが嬉しくて自分からもぎゅっと抱きしめ返した。

「いい気味ね!荒牧なお!!私が哀れですって?お前が哀れよ!!はははっ!!私は全てを手に入れることができる!!勝者なのよ!!!」

そして、れいこはすみれにもう一度口づける。
もっと深く。
もっともっと深く。
このまま息が途絶えて永遠に眠りから覚めないような口づけ。

れいこはその日、勝者となった。
それがひと時のものとは知らずに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

今回は絶対に婚約を回避します!~前回塩対応してきていたはずの元婚約者の様子がおかしいのは何故ですか!?~

皇 翼
恋愛
私は死んだ。そう、死んだはずなのだ。なら、この目の前の光景はなんなのだろう。息を吸って、瞼を開けた瞬間、目の前にいたのは私を殺した男の幼い姿だった。 元婚約者に殺され、死に戻りした王女は破滅を回避できるのか――!? *********** 修正したい部分が多いため、書き直ししています。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?

高校サッカー部員の抑え切れない欲望

藤咲レン
BL
主人公となるユウスケがキャプテンを務める強豪校サッカー部で起こった男同士の変態行為。部員同士のエロ行為にはコーチが関わっており、そのコーチの目的は・・・。(ユニフェチ要素が盛り沢山の話になっています。生々しい表現も出ていますので苦手な方はご注意ください。)

憧れの先輩に抱かれたくて尿道開発している僕の話

聖性ヤドン
BL
主人公の広夢は同じ学生寮に住む先輩・日向に恋をしている。 同性同士だとわかっていながら思い余って告白した広夢に、日向は「付き合えないが抱けはする」と返事。 しかしモテる日向は普通のセックスには飽きていて、広夢に尿道でイクことを要求する。 童貞の広夢に尿道はハードルが高かった。 そんな中、広夢と同室の五十嵐が広夢に好意を抱いていることがわかる。 日向に広夢を取られたくない五十嵐は、下心全開で広夢の尿道開発を手伝おうとするのだが……。 そんな三つ巴の恋とエロで物語は展開します。 ※基本的に全シーン濡れ場、という縛りで書いています。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

異世界転生したら女に生まれ変わってて王太子に激愛されてる件

高見桂羅
恋愛
番外編を75話と76話の間に移動致しました。 話の時間軸は74話の後ですが、内容的な問題でソコに致しました。 学校帰りに建設中のビルから鉄骨が降ってきて死んでしまった少年が異世界、しかも女の子に転生してしまう。 さらに王太子の婚約者までいて… 困惑しながらも王太子に激愛される話です。 主人公は女ですが、転生前は男なので苦手な方はお気をつけください。 初投稿ですので至らないところもあるかと思いますがよろしくお願い致します

処理中です...