「悪」と「罰」

夏目綾

文字の大きさ
上 下
14 / 43

第十四話

しおりを挟む
さて、時を同じくして。
こちらも狂っている夜を迎えようとしていた。

すみれとなおの部屋。
すみれは鼻歌混じりに鏡を見ながら揺れている。

「どうしたの?楽しそう。何かあったの?」
左右に揺れるすみれの両肩を背後から押さえて、なおは笑いながら言う。
すみれは、にこにことしながら鏡越しになおを見つめた。
あまりにも嬉しそうな顔をするので、なおの顔も綻ぶ。
だが、すみれが次に発した不可解な言葉でなおは混乱をきたすことになる。

「れいこさんとケーキを食べたの!」

すみれはぴょんと跳ねる。
「れいこさん・・・?・・・誰?」
眉間に皺を寄せてすみれをじっと見ると、すみれは子供のようになおを下から覗き込んだ。
「ミカエル様よ!」
「はぁ!?」
「ミカエル様のお名前は、犬飼れいこっていうの。知っているでしょう?」
当たり前のように言うすみれになおの驚きは止まらない。
「そりゃ、知ってるけど。知ってるけど!なんであんたが勝手に名前で呼んでるのよ!?」
「私だけじゃないよ?れいこさんも私のこと、すみれちゃんって呼んでくださるの。」
「はぁぁ!?ちょっと、ちょっと待って、意味が全くわからない。」
「もう!そのままだよ!」
すみれは、ぶぅっとふくれっ面をした。
それに対して、なおは目を見開いてすみれの肩を掴むと激しく揺すぶる。
「ひゃっ!」
「頭が追いつかないし、あんたの短絡的な説明じゃ何もわからない。最初から順を追って私に話して。」
「う、うん・・・。」

発端をすみれなりに事細かになおに説明した。
だが、なおの表情は晴れないまま。その不穏な空気を察してすみれは怯えながらゆっくり、なおの目を見た。母親に怒られている子供のように。
長い沈黙のあとようやく、なおが口を開く。

「あのね・・・すみれ。私がこの前に言ってた事ちゃんと聞いてた?あんたは馬鹿だけど、それくらいは理解してると思ってた。」
「そ、それは・・・。」
目線を逸らそうとすると、なおに一喝された。
「目を逸らさない!!ちゃんと私を見て!!」
「ひゃっ!」
すみれは、びくっとして両手を握り締めた。そして小声で言う。
「あの、でも・・・れいこさんは悪くないと思う。ケーキくれたし。」
「食べ物に釣られるんじゃない!!」
「ひゃっ!!ごめんなさい。」
全く反省の色が見えないすみれに、なおはため息をつく。そして頭を撫でると、呆れながら口を開いた。

「すみれ、私はあんたが心配なのよ。馬鹿だから騙されやすいし利用されやすい。だからね、あんたはわたしの言う事を素直に聞いていればいいの。私、今まで間違った事言ったことある?」
「ない・・・。」

「だよね。じゃあ、もう勝手なことしない?」
「うん。しない。」

「私の言うことはちゃんと聞く?」
「うん。聞く。」

「貴女は何もできない馬鹿な子なの。」
「うん。馬鹿な子なの。」

「あんたは何も考えなくていいの。」
「うん。何も考えない。」

「私しかあんたを守れないの。」
「うん。なおしか守れない。」

「あんたが一番好きなのは私なの。」
「うん。なおが一番好き。」

「すみれはいい子だね。」
「なおはいつも私を助けてくれるから。なおの言うことは間違いないから。なおの言う通りにしていい子にしてる。」

すみれは、なおの首にきゅっと両手を回して抱きついた。
「今日はなおと一緒に寝たい。一緒に遊びたい。」
なおはすみれを抱きしめ返すと彼女の背中を、子供をあやすようにぽんぽんと叩く。
「わかった、一緒に寝ようね。今日は何して遊ぼうか?」
「なおが決めて。私じゃわかんない。」
「そっか。じゃあ、すみれに目隠ししていい?何されているか当てる遊び。」
「楽しそう!する!」
すみれはまたぴょんぴょん飛び跳ねると、おもむろに制服を脱ぎ始めた。

「なお、早く遊んで!」
「すみれは気が早いね。」

なおは、幸せそうな笑顔を見せ、そんななおに対してすみれも服を全部脱ぎ捨てて、屈託のない笑みを見せたのであった。

狂乱の夜が始まる。
彼女たちも、また、破綻していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

処理中です...