天流衆国の物語

紙川也

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2章 地中に埋まった骨鉱山

22 一夜を明かす

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絵夢がその言葉を信じたのかどうか、解にはわからない。
そもそも三歳の女の子に意味がわかるのかどうかもわからない。
結生が解に声をかけた。
「どうにかして眠ったほうがいいよ、解くん。むずかしいかもしれないけど。」
解はうなずいた。
「うん、やってみる。ねえ結生くん、あのさ、明日、どうなるんだろう。」
結生が沈黙した。
しばらくだまりこんだあと、結生は小声でささやいた。
「明日になってみれば、もう少しいろんなことがわかると思う。」
「そうか、そうだね。」
解はうなずいた。その通りだ、結生は正しい、と解は考えた。
(杉野さんの言う通り、たしかにひどいし無茶苦茶だけど、でもこの人たちが一緒でよかった。)
そう思った。

かたい地面にじかに毛布を敷いて眠るのは、身体を休めるというよりも疲れさせた。
気持ちもガサリとささくれた。
どうしてこんなことに、という思いがどうしても湧いてきて居すわった。
解はウトウトと眠り、目をさまし、かたくて冷たい地面を感じながら寝がえりを打ってまた目を閉じた。
長い夜になった。
居心地が悪いうえにこのあとなにが起きるかわからない時間はずいぶん長く感じるものだと、解は学んだ。ちっともうれしくない学習だった。


次の日、いちばん最後に起きたのは解だった。
解は絵夢が昨日とちがう服を着ているのに気づいた。杉野さんが言った。
「着替えを一式だけ持っていたの。いつも持ち歩く習慣でよかった。」
「そうですね。」
「でもこの子のぶんだけね。昨日お風呂に入っていないし、なんだか気持ち悪い。」
解はうなずいた。
本当のことをいうと解は風呂に入るのが大して好きでなく、解のママが会社から遅くに帰宅する日はうながす人間がいないのをいいことに入浴せずに眠ってしまうこともある。
でも杉野さんはきれい好きな人みたいだから一日風呂に入らないだけでも苦痛なんだな、と思った。

四人でそれほど待つ間もなく 伝話貝スホベイが姿を現し、大河内の声が、
「今日は 蘇石骨ベラットが先だ。いいか、蘇石骨ベラットが先で飯はその後だからな! 十個見つけたらおれに知らせろ。そしたら飯を運ばせる。」
と宣言した。
やけに偉そうな声だぞと解は思った。
四人は蘇石骨ベラットをさがした。
杉野さんが小さく首をかしげるのが解の視界の端にうつった。
話がちがうと言いたいんだな、と解は思った。
でもとにかく四人は蘇石骨ベラットをさがした。

四人が割りあてられた変な生きものの墓場は広くておそらく手つかずのため、蘇石骨ベラットは探せば見つかる状態だった。
成果がすぐに出るので手を動かすことが楽だったから四人とも熱心に探した。
十個見つけて連絡するとカラジョルが食事を運び、食事して休んでまた蘇石骨ベラットを探して、十個見つけて連絡するとカラジョルが食事を運んできた。
食事の前に解は腰をのばして軽くたたいた。
昨日から屈む姿勢をつづけたために、腰や膝が痛みはじめた。
とくに腰が痛かった。
三回目に蘇石骨ベラットを十個集めたとき、杉野さんが言った。
「結生くん、今度は私に大河内さんと話をさせて。」
結生はだまって 伝話貝スホベイを杉野さんに渡した。
すぐに大河内の声がした。
『見つかったのか?』
「話があります。」
杉野さんが 伝話貝スホベイの耳もどきに向かって声をあげた。
よく通る声だ。
「私たちはもう割りあて以上の数の蘇石骨ベラットを見つけたはずです。帰してほしいんです。子どもがいるし、ここに長くいるのは無理です。」
『お前が決めることじゃねえ。』
太くて乱暴な声に、それでもひるまずに杉野さんは話をつづけた。
「だったらあなたの上の人と話をさせてください。お願いです。」
杉野さんは大河内という人間が下っ端だという推測をしたみたいだ、と解は考えた。

(西武坑道だし。)とも思った。
一番二番じゃなくて六番だ。
そして解は(来るぞ。)と両耳を手でガードした。

『うるせえ! お前らにはなんの権限もねえんだ! 大人しく採掘をつづけろ!』

予測通りに大河内のどなり声が響いた。
結生がとりなすようにいそいで話しかけた。
「また十個集めました。カラジョルをこっちへ寄こしてください。」
『だったらはじめからそう言え! いいか宮崎、いまの女にもあのチビにも二度と 伝話貝スホベイを使わせるな! 今度お前以外のやつが 伝話貝スホベイを使ったら飯ぬきだぞ!』
どうも「飯ぬき」が大河内の切り札みたいだぞ、と解は思った。
それしか切り札がないのかもしれないが、たしかに有効でもある。
大河内の声がとだえて 伝話貝スホベイの身が姿を消すと、杉野さんの目がせわしく動いた。
彼女の目が 伝話貝スホベイを見て、それを手にする結生を見て、絵夢を見て、解を見た。
怒った顔だ。解は口をぎゅっと引きむすんだ。
杉野さんは言った。
「どういうこと? わけがわからない!」
杉野さんはもう少しなにか言葉を足そうとするそぶりを見せ、でもその言葉を飲みこんですぐにまた口を閉じた。
結生が苦しそうな顔になった。
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